世の中に多く存在する3月決算の上場企業は、なぜ5月や6月に定時株主総会を開催するのでしょうか?このことには、会社の基準日という制度が影響しています。基準日は株式会社において重要な概念で、基準日により、定時株主総会で議決権を行使することのできる株主や剰余金の配当を受ける株主を一定時点に固定します。
本ブログでは、基準日についてわかりやすく説明します。
基準日の定義
基準日とは、株式会社が一定の日を定めて、その日に株主名簿に記載または記録されている株主を権利を行使できる者と定める制度です。(会社法第124条第1項)定時株主総会の開催にあたっては、会社は基準日時点における株主に対して、招集通知を発し剰余金を配当することになります。
世の中のほとんどの会社では、基準日は事業年度の末日に設定され、定款において、次のような規定が設けられています。なぜならば、毎年行わなければならない定時株主総会の都度、今回の基準日は令和○年○月○日だと決めて公告するのは大変だし、いたずらに費用がかかってしまうためです。
(基準日)
第○条 当会社は、毎事業年度末日の最終の株主名簿に記載された議決権を有する株主(以下「基準日株主」という。)をもって、その事業年度に関する定時株主総会において権利を行使することができる株主とする。ただし、基準日株主の権利を害しない場合には、当会社は、基準日後に、募集株式の発行等、吸収合併、株式交換または吸収分割により株式を取得した者の全部または一部を、当該定時株主総会において権利を行使することができる株主と定めることができる。
よって、3月決算の会社では、定時株主総会は事業年度の末日から3ヶ月以内(決算の確定をまってからの開催となるため、約3ヶ月後)に行われ、その時に議決権を行使することができるのも、配当を受けられるのも3月31日時点の株主となります。
多くの大企業は、行政機関の会計年度(財政法第11条及び地方自治法第208条)にあわせて、3月決算としています。よって、大企業の株主総会は6月下旬に集中することになります。
なお、定款に上記のような定めがなければ(基準日を定めることは必須ではありません)、定時株主総会当日の株主名簿に記載された株主に対して、招集通知を発する必要があることになります。しかし、頻繁に株主に変動がある可能性が高い会社(e.g 上場企業など)の場合には、そのような方法では、適法に株主総会を開催することができないため、上記のような定めを設けることが一般的です。
多くの中小企業もそれにならい、上記のような基準日の定めを定款に設けています。
*招集通知の詳細については、こちらをご覧下さい。(準備中)
基準日の目的と用途
基準日は主に以下の目的で使用されます。
- 株主総会における議決権行使の資格確定
- 剰余金配当を受ける株主の確定
- 株式分割や新株予約権の割当を受ける株主の確定
基準日の設定方法
基準日は以下の2つの方法で定めることができます。
- 定款であらかじめ定める
- その都度公告によって定める
定款で定める場合は、基準日と基準日株主が行使できる権利の内容も定める必要があります。公告で定める場合には、基準日の2週間前までに公告する必要があります。(会社法第124条第3項)
中小企業と基準日
世の中の中小企業のほとんどは、本ブログで紹介しているような定款の定めを設けています。なぜならば、基準日を定める度に、公告によって基準日を定めようとすると、いたずらに公告費用がかかってしまうためです。
中小企業のほとんどの定款に基準日の定めが設けられてはいますが、この定めは、法律上、定款に必ず記載しなければならない事項ではないため、その記載を定款から削除することも考えられます。
そもそも、基準日制度は、株主に頻繁な変動がある場合に、定時株主総会時点の権利行使者を確定するために設けられる制度です。
しかし、ほとんどの中小企業では、株式の譲渡制限に関する規定が設けられており、株主の異動を把握し、会社側で権利行使者たる株主を確定することは容易であり、であるならば、定時株主総会時点の株主を権利行使者として確定することに特段のデメリットは生じません。
よって、よりシンプルな定款の記載を求めるのであれば、中小企業においては、基準日に関する定めを定款から削除するということも、一考の余地があるでしょう。
基準日後の株主変動への対応
例えば、3月決算のA社の定時株主総会の基準日が3月31日だとすると、A社が4月1日にB社を吸収合併し、3月31日以降に新たにA社の株主となった旧B社株主は、A社の定時株主総会で議決権を行使することはできないのでしょうか。
基準日の通常の考え方からすると、旧B社株主は、その定時株主総会で議決権を行使することはできません。
しかし、会社は、基準日後に株主の変動があった場合(例:募集株式の発行、吸収合併、株式譲渡)、基準日後に株式を取得した者の全部または一部を権利行使できる者と定めることができます。(会社法第124条第4項)
よって、会社側が認めてくれさえすれば、旧B社株主も、上記定時株主総会において議決権を行使することはできます。ただし、これは議決権に限られ、基準日株主の権利を害することはできません。(会社法第124条第4項ただし書)
なお、基準日後の株式取得者などに議決権の行使を認める際、定款の定め、株主総会の決議及びその他の手続も規定されていないので、株式会社の意思決定機関の決定(取締役の決定or取締役会の決議)で足りる。
株式分割と基準日
なお、特に注意すべきケースとして、株式分割を行う場合があります。株式分割の場合は、必ず基準日を設定しなければなりません。(会社法第183条第2項第1号)
定款に定めがなければ、基準日等を基準日の2週間前までに公告することが求められるところ(会社法第124条第3項)、なぜならば、株式分割は、1株当たりの価格をさげるために、資金調達などに伴い機動的に実施することを求められることが多く、定時株主総会時点の株主ではなく、ある特定日における株主の株式を分割するために行われることが多いためです。
そのため、株式分割を行うにあたっては、基準日と株式分割の効力発生日を同一の日として定めることが多いです。(会社法第183条第2項第1号)
その場合には、今までのべてきたような定款の基準日に関する定めの条項を直接修正するわけではなく、以下のような定めを定款の附則(定款本文に記載しきれない一時的な事項を規定する部分)に追加して規定することにより、株式分割の対象者たる株主を確定し、実務上対応することが多いです。
附則
(株式分割の基準日)
第○○条 当会社は、令和○年○月○日午前○時を基準日として、同時刻において株主名簿に記載又は記録された株主をもって、その所有する株式1株を1,000株とする令和○年○月○日効力発生の株式分割により株式の割当てを受ける株主とする。なお、本附則は、株式分割の効力発生日をもって、これを削除する。
*株式分割の終了後には、この定めが残っていると既存の基準日の定めと抵触することになってしまうため、株式分割の効力発生後、速やかにこの条項が削除される(その削除にあたって定款変更を要しない)ように、「株式分割の効力発生日をもって、これを削除する。」という文言を、通常、末尾につけます。
*株式分割の詳細については、こちらをご覧下さい。(準備中)
よくある質問
まとめ
基準日制度は、株主の権利行使を管理し、会社の事務処理を円滑にするための重要な仕組みです。特に株主の変動が頻繁な上場企業にとっては大きなメリットがあります。
しかし、株主の数が少なかったり、株主の異動が頻繁に起こるわけではない、同族会社や1人会社では、必ずしも定款にその定めを設けることが必須というわけではありません。
よりシンプルな定款の記載を求める場合には、ケースバイケースではありますが、企業法務に明るい専門家にも相談の上で、その条項を定款に記載するべきか検討することも必要でしょう。
司法書士からひと言
基準日制度を設けるか否かや、設けた場合にどのような影響が生じるか、基準日後に株主の変動が生じた場合に、どのような対応が必要になるか、を理解するには、高度な法律知識が必要となります。
司法書士に相談いただくことで、みなさまには、安心して、会社の事業運営を行っていただければと思います。基準日や、それに伴う株主総会運営についてお悩みの方は、お気軽にご相談いただけますと幸いです。
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