会社の株式を後継者や第三者に譲渡することになったとき、真っ先に浮かぶ疑問が「これで登記は必要になるのか」ではないでしょうか。結論を先に言うと、株式を譲渡しただけでは、法務局への登記は原則として不要です。株主は商業登記簿に記載する事項(登記事項)に含まれておらず、誰が株主かは会社が備える株主名簿で管理する仕組みになっているためです。本ブログでは、株式を譲渡しても登記簿が変わらない理由と、反対に登記が必要になるケースについて、わかりやすく説明します。
登記事項とは
登記事項とは、会社法911条3項が定める、商業登記簿に記載しなければならない事項のことです。商号、本店の所在地、資本金の額、発行済株式の総数、取締役の氏名などが列挙されていますが、この中に株主の氏名や住所は含まれていません。上場企業でも中小企業でも同じで、登記簿を見ても「誰が株式を持っているか」までは分かりません。株主が誰かは、会社が別に備え置く株主名簿の情報になります。
株式を譲渡しても登記が不要な理由
株主が誰であるかは、会社が備え置く株主名簿によって管理します。株券を発行していない会社では、取得した人の氏名(または名称)と住所を株主名簿に記載しなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができません(会社法130条1項)。株券発行会社では、譲渡の効力に原則として株券の交付が必要で(会社法128条1項)、株主名簿への記載は会社に対する対抗要件になります(会社法130条2項)。この株主名簿の書き換えを「名義書換」と呼びます。
名義書換は会社の内部手続きであり、法務局への届出ではありません。株式を取得した人は、原則として譲渡人(名簿上の株主)と共同して、会社に名義書換を請求します(会社法133条)。これで会社との関係での手続きは整い、登記簿を書き換える必要はありません。この点が「株式譲渡は登記不要」と言われる理由です。
譲渡制限株式なら会社の承認が必要
中小企業の多くは、定款で株式の譲渡に会社の承認を必要とする「譲渡制限株式」を発行しています。譲渡制限株式を譲渡するときは、譲渡しようとする株主が会社に承認を請求し(会社法136条)、原則として株主総会(取締役会を置く会社では取締役会)の決議で承認するかどうかを決めます。ただし、定款で代表取締役など別の承認機関を定めることもできます(会社法139条1項)。
承認を得ずに譲渡しても、譲渡人と譲受人のあいだでは契約として有効ですが、会社に対して株主であることを主張できません。名義書換を請求する前提として、この承認手続きを踏んでいるかどうかを必ず確認しておく必要があります。自社の株式が譲渡制限株式にあたるか、株券を発行する定めがあるかを定款で最初に確認しておくと、あとの手戻りを防げます。
登記が必要になるのはどんなときか
株式の譲渡そのものは登記事項ではありませんが、譲渡をきっかけに他の登記事項が動く場合は話が変わります。代表的なのは、譲渡にあわせて代表取締役や取締役が交代する場合、商号・目的・本店の所在地を変更する場合、そして定款変更によって登記事項が変わる場合(種類株式の内容を新設・変更するときなど。会社法911条3項7号)です。これらはいずれも株式譲渡そのものではなく、別の登記事項の変更として登記が必要になります。反対に、事業年度の変更のように登記事項が変わらない定款変更なら登記は不要です。
| ケース | 登記の要否 |
|---|---|
| 株式譲渡のみ(株主の変更だけ) | 不要 |
| 譲渡にあわせて代表取締役・取締役が交代 | 必要(会社法915条1項) |
| 譲渡にあわせて商号・本店・目的を変更 | 必要(会社法915条1項) |
| 譲渡にあわせて登記事項が変わる定款変更(種類株式の内容など) | 必要(会社法911条3項7号・915条1項) |
登記が必要になる場合は、変更の日から2週間以内に申請します(会社法915条1項)。株式譲渡だけなら登録免許税もかかりません。代表者の交代とあわせて株式を譲渡するケースでは、承認手続き・名義書換・変更登記の3つが同時並行で進むため、どれか一つを抜かしたまま手続きを終えてしまう相談を実務でもよく受けます。何が登記事項で何が登記事項でないのかを、譲渡の計画段階で一度整理しておくと安心です。
必要になる書類
必要な書類は、株券発行の定めや譲渡制限の有無、変更登記を伴うかどうかで変わります。以下は例で、すべての会社に一律に必要なものではありません。
- 株式譲渡契約書(譲渡人・譲受人・株式数・対価を明記したもの)
- 株主名簿記載事項証明書(必要に応じて会社に交付を請求する。名義書換の証明として使うことが多い)
- 譲渡制限株式の場合は、譲渡承認請求書と、定款に定める承認機関が承認したことを示す書類(株主総会議事録・取締役会議事録など)
- 株主リスト(商業登記規則61条3項。株主総会決議を要する登記を申請するときに、その総会で議決権を行使できた株主で作成する)
- 変更登記が必要になる場合は、変更登記申請書と委任状(司法書士に依頼するとき)
株式譲渡の時点で株主リストを作る義務はありません。株主リストが必要になるのは、株主総会(種類株主総会)の決議を要する登記を申請するときで、その総会(基準日があればその時点)で議決権を行使できた株主に基づいて作成します。決議の後に株式が譲渡されても、申請時の新しい株主に置き換えるものではありません。名義書換の後に開いた総会なのに古い株主のままリストを作るミスは、実務でときどき見かけます。
株式譲渡契約書の作成や株主名簿の書き換えだけであれば、法務局への申請を伴わないため、会社ご自身で進めることも十分可能です。一方、役員交代や定款変更を伴って変更登記が必要になる場面では、申請書類と添付書類の整合性を確認する必要があるため、司法書士に相談されることをおすすめします。
よくある質問
司法書士からひと言
株式譲渡のご相談をいただくと、「登記もあわせてお願いします」と言われることがよくありますが、実際には株主名簿の書き換えだけで完結し、登記そのものは発生しないケースが大半です。ただ、事業承継や第三者への譲渡では、株式の移動と同時に役員交代や定款変更が進むことも珍しくなく、切り分けずに進めると必要な登記を見落としたまま期限を過ぎてしまうことがあります。株式を動かすときは、譲渡日と総会日の前後関係も含めて、登記が必要かどうかを一度整理してから進めることをおすすめします。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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