先代から会社を引き継いだものの、金庫や書棚をいくら探しても定款が出てこない、というご相談は珍しくありません。銀行や許認可の窓口から「定款の写しを提出してください」と言われて初めて、自社に定款がないことに気づく方も多いようです。定款は法務局には保管されておらず、登記事項証明書をいくら取り寄せても定款そのものは出てきません。本ブログでは、定款が見つからないときにどこを探せばよいか、そして見つからないまま登記手続を進められるのかについて、わかりやすく説明します。
定款とは
定款とは、会社の目的や商号、本店の所在地など、会社の組織と運営の基本ルールを定めた文書です(会社法27条)。株式会社は、成立後は定款を本店に(支店がある場合は支店にも)備え置かなければならないと定められています(会社法31条1項)。
つまり、定款を保管する義務を負っているのは会社自身であって、法務局ではありません。法務局が保管しているのは登記記録、すなわち登記事項証明書に記載される内容であり、定款そのものは含まれていません。この違いを取り違えたまま登記事項証明書を何度取り寄せても、定款は見つかりません。
定款を探す順番
定款が見当たらないときは、次の順番で探すと見つかる可能性が高くなります。
- まず本店に保管されている書類一式や、先代が使っていた金庫、キャビネットを確認します。設立時の書類は決算関係の書類とまとめて保管されていることが多く、契約書類の束に紛れ込んでいるケースも珍しくありません。
- 会社の設立や、その後の登記を依頼した司法書士・行政書士・税理士に、控えが残っていないか問い合わせます。電子データや紙のコピーを保管している事務所もありますが、保存期間は事務所ごとに異なるため、必ず見つかるとは限りません。
- 株式会社であれば、設立時の定款を認証した公証役場に、原本の謄本交付を請求できます。
なお、合同会社の場合はそもそも定款の認証を受ける制度がないため、3の方法は使えません。設立時から会社自身が保管し続けるほかない書類であり、合同会社では1と2の方法だけが頼りになります。
公証役場で取れるのは「設立時の定款」
株式会社の設立時定款は、公証人の認証を受けなければ効力を生じません(会社法30条1項)。認証を行った公証役場では、嘱託人(設立時の発起人)やその承継人、法律上の利害関係人が、原本の謄本交付を請求できます(公証人法51条)。原本の保存期間は認証から20年間と定められており(公証人法施行規則27条)、この期間内であれば謄本を取得できます。手数料は謄本1枚につき250円が目安です。
ここで注意したいのは、公証役場から取れるのはあくまで「設立時の定款」であって、「現在の定款」ではないという点です。設立後に商号や目的、発行可能株式総数などを変更していれば、公証役場の原本にはその変更が反映されていません。変更のたびに定款全体を公証役場へ届け出る制度ではないため、原始定款はいわば会社の出発点の記録にすぎないのです。
現在の定款を復元する手がかり
設立後の変更を反映した「現在の定款」を復元するには、いくつかの手がかりを組み合わせる必要があります。
もっとも身近な手がかりは登記事項証明書です。商号、目的、本店の所在地、公告方法、発行可能株式総数、株式の譲渡制限に関する規定、取締役会や監査役を置くかどうかといった機関設計は、いずれも登記事項であり(会社法911条3項各号)、登記事項証明書を見れば現時点の内容を確認できます。これらは定款にも定められている項目のため、登記事項証明書をたどることで、定款の内容をかなりの程度まで復元できます。
ただし、役員の任期や事業年度、基準日など、登記されない事項は登記事項証明書からは分かりません。こうした項目は、定款の条文そのものを確認するほかありません。
もうひとつの手がかりが、法務局に保管されている登記申請書類です。過去の定款変更の登記で変更後の定款や株主総会議事録を添付していれば、法務局はその書類を受付から10年間保管しています(商業登記規則34条4項4号。令和元年10月1日より前の申請は5年間だったため、古い申請はすでに廃棄されている可能性があります)。この書類は、利害関係人であれば閲覧を請求できます(商業登記法11条の2)。定款そのものではありませんが、変更の経緯を追ううえで有力な資料になります。
3つの手がかりの違いをまとめると、次のようになります。
| 入手先 | 得られるもの | 請求できる人・期限 |
|---|---|---|
| 公証役場 | 設立時定款の謄本 | 嘱託人・承継人・利害関係人。認証から20年間 |
| 法務局(登記事項証明書) | 現在の登記事項(任期などは含まない) | 誰でも請求可。期限なし |
| 法務局(附属書類の閲覧) | 過去の定款変更登記の添付書類 | 利害関係人。受付から10年間保管 |
定款が無いまま登記手続を進められるか
定款が見つからないからといって、日々の登記手続をすべて止める必要はありません。商号変更や本店移転など、登記事項証明書と株主総会議事録だけで完結する手続であれば、定款が手元になくても申請できる場合があります。
一方で、任期の確認が定款の内容に依存する役員変更登記は要注意です。取締役の任期は原則2年ですが(会社法332条1項)、非公開会社は定款で10年まで伸ばすことができます(同条2項)。「何年に伸ばしているか」は定款の記載事項であり、登記事項証明書には出てきません。定款が無いまま起算日を見誤ると、気づかないうちに任期切れの状態で経営を続けていた、という事態になりかねません。
安易にひな形で作り直さない
定款が見つからないなら、いっそインターネットのひな形で新しく作り直せばよいのでは、と考える方もいらっしゃいます。ですが、これはおすすめできません。会社の定款は、設立後に株主総会の決議を重ねて内容を変えてきた、その会社固有の歴史を反映したものです(定款変更は会社法466条、決議要件は同法309条2項11号)。過去の変更履歴を確認せずにひな形で作り直すと、実際の登記事項や運用実態と食い違う定款になりかねず、かえって後の手続でつまずく原因になります。
現在の内容を正確に復元したうえで、必要であれば株主総会の特別決議を経て定款を整備し直す、という進め方が基本になります。ただし、どこまで登記事項証明書と過去の書類から復元できるか、どの範囲で定め直すべきかは、会社ごとの事情によって判断が分かれる部分です。この点は司法書士にご相談いただくことをおすすめします。
よくある質問
司法書士からひと言
先代から会社を引き継いだばかりの方から、定款が見当たらないというご相談をいただくことは少なくありません。多くの場合、新しく作り直す前に、登記事項証明書と過去の書類を丹念に突き合わせる作業から始めることになります。定款が手元にないことは、決して珍しい状態でも、恥ずかしいことでもありません。気づいた時点でご相談いただければ、実務上困らない形に整えられます。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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