増資の登記を申請したあと、法務局から「補正」の連絡が来たら、何をどう直せばよいのでしょうか? 結論から言うと、増資の登記で補正になる原因は「書類の不一致」「決議の不足」「払込みの証明」の3つのグループにほぼ集約され、その多くは契約書を締結する前に登記の目線から確認しておけば防げるものです。本ブログでは、増資の登記が補正になる典型パターンと減らし方について、わかりやすく説明します。
補正とは
補正とは、登記の申請に不備があるときに、登記官から訂正や書類の追加を求められ、申請人が定められた期間内にそれを直す手続きです。商業登記法24条は、必要な書面の添付がないとき(同条7号)や、申請書や添付書面の記載が合致しないとき(同条8号)など、登記官が申請を却下すべき事由を列挙したうえで、その不備が補正できるものである場合に、登記官が定めた相当の期間内に申請人が補正したときは却下しないと定めています(同条ただし書)。つまり補正は、却下される前に直す機会を与える仕組みです。
補正の連絡が来たら、まず指摘された箇所と補正の期限を確認し、決議や払込みは適切に行われていて書類だけに不備があるのか、手続きそのものが欠けているのかを切り分けます。前者は記載の訂正や書面の追加で補正できますが、後者は議事録を足しても解決せず、取り下げてやり直すかを判断することになります。実際には行っていない内容に合わせて議事録を直すことはできません。
もうひとつ、登記の申請中は登記事項証明書(謄本)が取れない期間が生じます(詳しくは、こちらをご覧ください)。補正になれば完了がずれ、謄本が取れない期間もその分延びます。
書類の不一致で補正になるパターン
増資の登記で最も多いのが、添付書類どうしの記載が合わないパターンです(商業登記法24条8号)。
典型は、株主総会議事録に記載した募集事項と、総数引受契約書の記載のずれです。募集株式の数、払込金額、払込期日は募集事項(会社法199条1項)として、議事録と契約書の両方に書かれます。投資契約の交渉で株数や1株あたりの払込金額が変わったのに、先に作っていた議事録の数字が古いままだった、というケースは珍しくありません。
払込期日と実際の払込日の前後関係も、よく引っかかります。引受人は払込期日まで(払込期間を定めたときはその期間内)に払込金額の全額を払い込む必要があり(会社法208条1項)、払い込まなかった引受人は株主となる権利を失うため(同条5項)、期日を過ぎた入金はそのままでは登記できません。反対に、募集事項を決める株主総会の決議日より前に投資家が入金してしまった場合も、募集株式の払込みとは扱えないのが原則で、書類の修正しなおしや払い直しなどの対応が必要になることがあります。
資本金の額の計上に関する証明書(商業登記規則61条9項)の計算ミスも定番です。払込みに係る額の2分の1を超えない額は資本金として計上しないことができ、その分は資本準備金になります(会社法445条2項・3項)。払込額が奇数のときに半分にして切り捨てた額を資本金にすると、2分の1を超える額を資本金にしないことになるので、資本金側を1円切り上げなければなりません。
株主リスト(商業登記規則61条3項)は決議の時点の株主で作る書面なので、増資後の株主構成で作ってしまう誤りや、議決権のない株式を分母に入れた議決権割合の計算誤りも補正の対象になります。
決議の不足で補正になるパターン
書類の記載は合っていても、必要な決議を証する議事録が添付されていなければ登記は通りません(商業登記法24条7号)。以下は、全株式に譲渡制限のある非公開会社が金銭出資で募集株式を発行し、募集事項を株主総会の特別決議で決める場合を前提にしています。
まず、譲渡制限株式の割当てです。募集株式が譲渡制限株式であるときは、誰に何株を割り当てるかの決定を、原則として株主総会(取締役会設置会社では取締役会)の決議で行います(会社法204条2項)。総数引受契約による場合も、原則として同じ機関による契約の承認が必要です(会社法205条2項)。いずれも定款に別段の定めがあればそれに従います。募集事項の特別決議(会社法199条2項、309条2項5号)は取っているのに、割当てや契約承認の決議を議事録に書き忘れているパターンです。
次に、種類株主総会です。優先株式を初めて発行するときの定款変更は、ある種類の株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、その種類の株主による種類株主総会の決議がなければ効力を生じません(会社法322条1項1号)。また、種類株式発行会社が譲渡制限のある種類株式を募集するときは、その種類の株主による種類株主総会の決議が原則として必要です(会社法199条4項)。既存のA種優先株式を追加発行するときに、A種株主の種類株主総会議事録が抜けているケースが典型です。要否は定款の定めで変わります。なお、定款の定めにより、A種優先株式の種類株主総会議事録を不要とする場合には、登記に当たっては、その旨を証する定款の添付が必要です。
見落とされやすいのが発行可能株式総数です。発行済株式の総数に募集株式の数を足した数が発行可能株式総数(種類株式発行会社では発行可能種類株式総数も)を超えていると、その発行はできず、登記すべき事項に無効の原因がある場合として却下事由にあたります(商業登記法24条9号)。補正では直せず、枠を増やす定款変更の決議からやり直すことになります。
払込みの証明で補正になるパターン
払込証明書は、通帳の写しや入出金明細を代表者作成の証明書に綴じて作ります。指摘されるのは、誰から、いつ、いくら入ったのかが書面だけで追えないパターンです。
代表例は、振込人名が引受人と一致しないケースです。ファンド(投資事業有限責任組合)の名義で契約しているのに振込人名は運営会社の略称だった、というずれがあると、引受人本人の払込みだと読み取れず、振込元を説明する書面を追加で求められることがあります。振込手数料が差し引かれて払込金額に1円でも満たない着金も全額の払込みとはいえず、払込期日内なら不足分を追加で振り込んでもらいますが、期日を過ぎていれば失権の問題になります。ネット銀行の明細画面には口座名義が出ないことも多く、口座情報の画面を綴じ忘れると、どの口座への入金かが確認できません。
整理すると次のとおりです。
| グループ | 典型パターン | 先回りの確認 |
|---|---|---|
| 書類の不一致 | 議事録と総数引受契約書の株数・払込金額のずれ、払込期日と払込日の前後、資本金計上の計算、株主リストの基準時点 | 契約書の最終版と議事録の募集事項を突き合わせる |
| 決議の不足 | 割当て・総数引受契約の承認決議の欠落、種類株主総会の欠落、発行可能株式総数の超過 | 定款と登記簿で、必要な決議と枠を先に洗い出す |
| 払込みの証明 | 振込人名と引受人の不一致、手数料差引きによる不足、口座情報の不足 | 振込依頼人名と手数料の負担を契約時に決めておく |
補正を減らす順番
補正の原因の多くは、「契約書ができあがってから登記の準備を始める」という順番に由来しています。投資契約書は交渉に合わせて何度も改訂されるため、最終の条件が決議や登記書類に反映されているかは、登記の側から突き合わせないと気づきにくいのです。当事務所がおすすめしている順番は次のとおりです。
- 投資契約書のドラフトが出た段階で、募集事項(株式数・払込金額・払込期日)と決議の要否を司法書士が登記の目線で確認する
- 定款と登記簿を見て、発行可能株式総数の枠、譲渡制限の有無、種類株主総会の要否を洗い出す
- 契約書の最終版から議事録と株主リストを作り、数字を突き合わせてから契約を締結する
- 振込依頼人名と手数料の負担を投資家側と決めてから払込みを受け、払込期日から2週間以内に申請する
よくある質問
司法書士からひと言
増資の補正の多くは、些細なずれから起きます。株数が1株、金額が1円、日付が1日。ですが、そのずれを直すために投資家に契約書へ再署名してもらったり、株主総会をやり直したりする手間は、決して些細ではありません。増資の登記は「払込みが終わってから始めるもの」ではなく、「契約書のドラフトが出た時点で始まっているもの」だと考えて、締結前の一度の確認を習慣にしていただければと思います。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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