株主総会に出席できない株主から、「入院中の家族に代わって出席してほしい」と頼まれたら、会社はどう対応すればよいのでしょうか。株主は委任状を提出すれば、代理人に議決権の行使を委ねられます(会社法310条1項)。ただし、代理人の資格を「株主に限る」と定款で定めている非公開会社では、誰に任せるかによって対応が変わります。本ブログでは、委任状による議決権の代理行使のルールと、代理人を株主に限る定款の定めについて、わかりやすく説明します。
議決権の代理行使とは
議決権の代理行使とは、株主総会に出席できない株主が、代理人に議決権の行使を委ねる制度です(会社法310条1項)。株主またはその代理人は、代理権を証明する書面を会社に提出しなければならず(同項後段)、実務上はこれが「委任状」と呼ばれる書面にあたります。
代理権の授与は、株主総会ごとにする必要があります(会社法310条2項)。一度渡した委任状で、以降の総会もずっと代理人に任せられるわけではなく、総会のたびに新しい委任状を用意します。
会社は、株主総会の日から3か月間、提出された委任状を本店に備え置かなければなりません(会社法310条6項)。
株主は、営業時間内であればいつでも、請求の理由を明らかにして委任状の閲覧・謄写を請求できます(同条7項)。この請求権は、その総会で議決権を行使できる株主だけに認められるものではありません。除かれるのは、その総会の決議事項の全部について議決権を行使できない株主だけです。会社が請求を拒めるのは、株主の権利の確保・行使に関する調査以外の目的で請求したときなど、法律で決まった場合に限られます(同条8項)。
株主でなければ代理人になれないのか
非公開会社の定款には、「株主は、当会社の議決権を有する他の株主を代理人として、議決権を行使することができる」といった形で、代理人の資格を株主に限る定めが置かれていることがあります。この種の定めは、株主でない第三者によって総会が撹乱されるのを防ぎ、会社の利益を守る趣旨から、判例上有効とされてきました(最判昭和43年11月1日民集22巻12号2402頁)。
もっとも、この定めを形式的に適用すると、株主の議決権行使そのものを事実上奪う結果になる場合があります。株主が県や市、株式会社などの団体であるときに、その職員・従業員を代理人として出席させても定款に違反しないとした判例があります(最判昭和51年12月24日)。団体である株主が、組織内の人間を通じて議決権を行使する場面の判断です。
個人株主が家族に議決権行使を任せたい場合、この判例だけで代理出席が認められるとはいえません。高齢や病気で総会に出席できない株主の親族が代理人になったケースを適法とした裁判例もありますが(大阪高裁昭和41年8月8日)、この論点は下級審の判断が分かれており、最高裁の判断はまだ出ていません。定款に代理人を株主に限る定めがある会社でも、代理人候補と株主との関係、本人が出席できない理由まで確認したうえで判断することになります。
委任状に書くこと、そして白紙委任のリスク
委任状では、「誰が、誰に、いつの総会の、どの議案について任せるのか」を特定します。委任する株主と代理人の氏名・名称、対象となる会社と総会の開催日、任せる議案を記載し、議案ごとに賛成・反対を指定するか、代理人の判断に委ねるかを書きます。たとえば「第1号議案(取締役選任の件)には賛成、第2号議案(役員報酬改定の件)には反対するよう委任する」のように、代理人が投票の場で迷わない文面にします。
賛否を書かないことと、白紙委任状はイコールではありません。賛否の記載がなくても委任状が直ちに無効になるわけではなく、代理人が判断できる範囲は、委任状の文言や株主から実際に委ねられた内容によります。書いていないからといって、当日出された別の議案や動議まで代理人が自由に判断できるわけではありません。トラブルになりやすいのは、代理人の氏名すら空欄のまま、経営者一族が他の株主から委任状を集めて総会を進めるような運用です。誰に、どの議案を任せたのかが分かる形で残しておかないと、あとから「そんなつもりで渡した委任状ではない」という話になりかねません。
書面による議決権行使との違い
委任状による代理行使と混同されやすいのが、書面による議決権行使です。書面投票を採用する場合、会社は総会の招集にあたってその旨を決定し(会社法298条1項3号)、取締役会設置会社ではこの決定を取締役会の決議で行います(同条4項)。
決定した内容は、招集通知にも記載・記録します(会社法299条4項)。株主は、送られてきた議決権行使書面に必要事項を記載して会社に提出することで議決権を行使します(会社法311条)。
委任状による代理行使は「代理人が総会に出席して議決権を行使する」方法であるのに対し、書面による議決権行使は「株主本人が総会に出席せず書面で行使する」方法です。委任状に賛否が書かれていても、それだけで書面投票になるわけではありません。代理行使では、その指示を受けた代理人が総会の場で投票します。会社が受け取った書類が、代理人を通じた投票なのか、株主本人による書面投票なのかを区別する必要があります。
登記の添付書面になるとき、委任状はどう扱われる?
役員変更や定款変更、増資といった登記の場面では、決議をした株主総会の議事録が添付書面になります。この議事録に「株主〇〇の代理人△△が出席した」という記載がある場合に、委任状そのものまで登記の添付書面として求められることはありません。
議事録を作成する段階では、委任状と照らし合わせて、本人が出席した分と代理人が出席した分の議決権数を確認します。たとえば、代理人自身の議決権が20個、他の株主から任された分が30個であれば、その代理人が行使する議決権は合計50個です。任された30個が代理人自身の持分になるわけではありません。株主リストでも、委任した株主と代理人を取り違えないようにします。登記を見据えて総会を開く場合は、この確認を総会の前に済ませておくと、議事録と株主リストの作成がスムーズになります。
よくある質問
司法書士からひと言
「委任状に賛否を書いていないけど、大丈夫でしょうか」と聞かれることがあります。そのときにまず確認するのは、委任状の枚数ではなく、誰が、誰に、どの議案を任せたのかです。前回の総会の書式をそのまま使い回すと、代理人の名前や議案が今回の内容と違ったまま残っていることもあります。
ご相談のときは、委任状と株主総会議事録、株主リストを並べて、記載がつながっているかを確認します。定款に代理人を株主に限る定めがある会社では、代理人候補が本当に株主かどうかも、その場で一緒に確認します。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
ご依頼・相談受付
ご依頼は下記のフォームから受付けております。
お気軽にご連絡ください。
