株主だった方が亡くなり、相続人が複数いるとき、その株式の議決権は誰が使うのでしょうか。遺産分割が終わるまでは、相続人のうちの1人が自由に行使できるわけではなく、権利を行使する人を1人決めて会社に通知するのが原則です(会社法106条本文)。この手続を踏まないまま株主総会を開いてしまい、あとから決議のやり直しを検討することになったご相談もあります。本ブログでは、共同相続された株式の議決権の行使方法と、そのあとの登記で確認することについて、わかりやすく説明します。
共同相続した株式は「準共有」になる
複数の相続人が株式を共同相続しても、各相続人が相続分に応じた数の株式をそれぞれ単独で取得するわけではありません。遺産分割が終わるまでは、共同相続した株式の全体を相続人が共同で保有します(最判平成26年2月25日民集68巻2号173頁)。これを準共有といいます。
たとえば1,000株を持っていた経営者が亡くなり、相続人が配偶者と子2人であれば、遺産分割協議がまとまるまで、その1,000株は3人の準共有です。配偶者が500株、子がそれぞれ250株ずつを持つ状態になるわけではありません。ここが、預貯金や貸付金のように相続分に応じて分かれるものとの大きな違いです。
なお、相続人が1人しかいない場合や、遺言によって特定の相続人が株式を取得する場合は、準共有にはなりません。以下は、複数の相続人が株式を共同相続した場合の話です。
議決権を行使する人を1人決めて、会社に通知する
準共有になっている株式について権利を行使するには、相続人が権利を行使する者を1人定め、会社にその者の氏名を通知します(会社法106条本文)。この通知があってはじめて、会社はその人からの議決権行使に応じることになります。
準共有者が権利行使者を指定する通知については、法律上は方式の限定はありませんが、後日の証拠のために書面化することが望ましいでしょう。サンプル雛形は、以下のとおりです。なお、あくまで、一般的なひな形であり個別の事案に適合することを保証するものではありませんので、ご利用にあたってはその旨ご留意ください。
なお、権利行使者は、株式を単独で取得する人ではありません。あくまで、共有している株式についてまとめて権利を行使する役割の人です。遺産分割で誰が株式を引き継ぐかという話とは、いったん切り離して考えます。
権利行使者は持分の過半数で決められる
判例上、誰を権利行使者にするかは、相続人全員の合意までは必要とされず、持分の価格に従い、その過半数で決めることができるとされています(最判平成9年1月28日集民181号83頁)。
先ほどの例で、法定相続分による場合であれば、配偶者の持分が2分の1、子の持分がそれぞれ4分の1です。配偶者と子1人が賛成すれば4分の3となり、もう1人の子が反対していても権利行使者を決められます。逆に、相続人が子2人だけで持分が半分ずつという場合は、2人の意見が割れると過半数に届きません。遺産分割の話し合いが長引きそうなときほど、この計算を先にしておく意味があります。
会社が同意すれば通知はいらない、とは限らない
会社法106条にはただし書があり、会社が同意した場合には、指定と通知がなくても権利行使が認められる場合があります。ただし、判例は、会社が同意しても、その権利行使が民法の共有に関する規定に従ったものでなければ適法にはならないと判断しました(最判平成27年2月19日民集69巻1号25頁)。
さきほどの持分で考えてみます。権利行使者を定めないまま、子1人がほかの相続人の賛成を得ずに議決権を行使したとします。この場合、会社が「1人でも来てくれるなら」と受け入れたという理由だけでは、その行使が適法になるわけではありません。会社の同意と、相続人側で適法に決めていることの両方を見る必要がある、ということです。
総会の前に確認しておくこと
株主総会の決議の方法が法令に違反する場合、株主は決議の日から3か月以内に決議取消しの訴えを提起できます(会社法831条1項)。相続をめぐる関係が落ち着いているうちは表に出てこなくても、あとから議決権の行使方法が問題になることはあります。
総会を開く前に確認したいのは、誰を権利行使者に定めたのか、その指定に賛成した相続人の持分がいくつになるのか、会社への通知は済んでいるのか、という3点です。指定の経緯と通知の内容を書面に残しておけば、あとから「あの決議のとき、誰が議決権を行使できたのか」をたどることができます。
役員変更登記に添付する株主リスト
株式を相続したこと自体について、会社の変更登記は必要ありません。株主名簿の書き換えは会社の中の手続で、登記簿に株主は載らないからです。
登記が関係してくるのは、その後の株主総会で取締役を選任するなど、登記事項にあたる決議をしたときです。このとき、株主総会議事録とあわせて株主リストが添付書面になります。株主総会の決議に係る株主リストには、対象となる株主の氏名または名称、住所、株式数、議決権数に加えて、議決権数の割合を記載します(商業登記規則61条3項)。
誰を記載するかは、その決議の時点の株主と議決権をもとに判断します。総会のあとに遺産分割が成立したからといって、決議当時の株主リストを新しい取得者の名前に書き換えることはできません。相続発生後、遺産分割成立前の段階に決議を行った場合の株主リストの記載内容については、下記をご参照ください。
通常の株主リスト作成とは異なり、判断に迷う場面なので、登記を予定しているなら早めに司法書士に相談していただくのが確実です。
必要になる書類
相続後に総会を開く準備として、共同相続人が誰かを確認できる戸籍謄本一式、遺言書や遺産分割協議書を、状況に応じて確認します。遺産分割の前に権利行使者を定めるのであれば、指定に賛成した相続人とその持分、会社への通知の内容が分かる書面も用意しておきます。
そのうえで役員変更登記を申請する場合の添付書面は、次のものが中心になります。変更の内容によってはこのほかにも必要な書類が出てきます。
- 株主総会議事録
- 株主リスト(商業登記規則61条3項)
- 就任承諾書(役員が新たに就任した場合)
よくある質問
司法書士からひと言
「遺産分割が終わるまで、役員の改選も待つしかないのでしょうか」と聞かれることがあります。株式を誰が引き継ぐかという話と、次の総会で誰が議決権を行使するかという話は、分けて考えることができます。役員変更の登記を進めるには、その選任決議で誰が議決権を行使できたのかがはっきりしている必要があります。ご相談のときは、株主名簿と役員の任期が分かる資料を見ながら、次の総会までに必要な手続を一緒に確認していきます。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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