増資や会社設立の登記で「払込みがあったことを証する書面」を求められたとき、通帳のコピーだけで足りるのでしょうか? そもそも紙の通帳が発行されないネット銀行の口座に振り込んでもらった場合、何を出せばよいのか迷う方も多いと思います。結論から言うと、通帳のコピー単体では足りず、代表者が作成した払込証明書に通帳の写しを綴じ込んで1通の書面にするのが実務で、ネット銀行であれば口座名義・銀行名・支店名・振込日・金額が読める入出金明細の画面を印刷して通帳の写しの代わりにできます。本ブログでは、払込証明書の作り方とネット銀行での代用方法を中心に、わかりやすく説明します。
払込みがあったことを証する書面とは
払込みがあったことを証する書面とは、募集株式の発行(増資)の登記の場面で、引受人が払込金額の全額を払い込んだこと(会社法208条1項)を証するために申請書に添付する書面です(商業登記法56条2号)。会社設立の登記でも、発起人が出資に係る金銭の全額を払い込んだこと(会社法34条1項)を証する書面として添付します(商業登記法47条2項5号)。実務ではこれを「払込証明書」と呼んでいます。
法律上の様式は決まっていません。実務では、代表者が払込みを受けた金額の総額、払込みがあった株式数、1株あたりの払込金額、払込日を記載して記名した証明書を表紙にし、その後ろに通帳の写しなどを綴じて1通にまとめます。通帳のコピーはこの証明書の一部なので、コピーだけを申請書に添付しても書面として成立しません。
通帳のコピーに写っていなければならないもの
通帳がある口座であれば、写しを取るのは3か所です。銀行名が分かる表紙、支店名・口座番号・口座名義人が印字されている裏表紙の見開き、そして払込みの入金が記帳されたページです。入金ページは振込人名と金額、日付が読める状態で記帳されていることが必要で、ほかの入出金が並んでいるときは該当行にマーカーを引いておくと審査が滞りません。窓口で発行してもらう取引明細表でも扱いは同じで、誰の名義の口座にいつ、いくらの入金があったのかが綴じた書面だけで追えることが求められます。
ネット銀行の場合はどうするか
ネット銀行や通帳レス口座には紙の通帳がありません。この場合は、インターネットバンキングの入出金明細の画面を出力(印刷)したものを、通帳の写しの代わりに綴じます。法務局の登記申請の案内でも、通帳が無い口座では取引明細を印刷したもので差し支えないとされています。
気をつけたいのは、明細の一覧画面だけでは口座名義や支店名が表示されないことが多い点です。明細画面とは別に、銀行名・支店名・預金種別・口座番号・口座名義人が表示される口座情報の画面も印刷し、両方を綴じてください。必要事項がまとまった取引明細書をPDFで発行できる銀行なら、そちらを印刷するほうが確実です。
もうひとつ、ネット銀行には1日あたりの振込限度額があります。投資家側がネット銀行から送金すると、払込金額が数回に分かれて着金することがあり、これが次に述べる補正の原因になります。
補正になりやすいパターン
払込証明書で登記所から補正を求められるパターンは、だいたい決まっています。
ひとつ目は、振込人名が引受人の名前と一致しないケースです。VCファンドが投資事業有限責任組合の名義で契約しているのに、振込人名は運営会社の略称になっていた、というケースは珍しくありません。引受人本人の払込みだと読み取れないと振込元を説明する書面を追加で求められるので、契約書の締結時に振込依頼人名の表記を投資家側と決めておくのが確実です。
二つ目は、入金のタイミングです。増資では、募集事項(発行する株式数や払込金額など)を決めた株主総会の決議や、引受人と結ぶ総数引受契約の締結より前に入金されていると、募集株式の払込みとして扱えないのが原則で、振り込み直してもらう事態になりかねません。反対に払込期日を過ぎてからの入金は、期日に払込みをしなかった引受人が株主となる権利を失う(会社法208条5項)ため、期日をずらす決議のやり直しが必要です。設立では、定款の作成日以後の入金であることが原則です。
三つ目は、金額の不足と分割入金です。振込手数料が差し引かれて払込金額に1円でも満たない着金になると全額の払込みとはいえず、不足分の追加振込が必要です。1人の引受人が数回に分けて振り込んだ場合は、合計が達していれば直ちに不可ではありませんが、どの入金が誰の分かを示す資料を求められることがあります。
設立と増資で違うところ
証明書に書く内容と、どの口座に払い込むかは、設立と増資で異なります。
| 項目 | 会社設立(発起設立) | 募集株式の発行(増資) |
|---|---|---|
| 作成者 | 設立時代表取締役 | 代表取締役 |
| 記載する内容 | 払込金額の総額、設立時発行株式数、1株の払込金額、払込日 | 払込金額の総額、払込みがあった募集株式数、1株の払込金額、払込日(払込期日または払込期間) |
| 払込先の口座 | 発起人名義の口座。発起人以外の設立時代表取締役または設立時取締役の口座も、払込金の受領権限に関する委任状を付ければ可(平成29年3月17日民商第41号通達) | 会社名義の口座 |
設立の段階では会社がまだ存在しないので、発起人個人の口座に入金するのが基本です。一方、増資では会社の口座に引受人が振り込むため口座名義の問題は起きにくく、その代わり会社の日常の入出金と払込みが同じ通帳に混在するので、どの行が払込みなのかを明示する作業が大切になります。なお、混同されやすい「資本金の額の計上に関する証明書」は資本金と資本準備金の内訳を示す別の書面で、増資の登記では両方を添付します。
海外からの送金を受けるとき
海外のVCから出資を受ける場合も、払込先が日本国内の銀行の口座であれば、証明の仕方は変わりません。払込取扱機関は会社法34条2項の「銀行等」に限られ、外国銀行の日本国内の支店や邦銀の海外支店は含まれますが、外国銀行の海外にある本支店の口座は使えません。実務で問題になるのは、着金が遅れて払込期日を過ぎることと、中継銀行の手数料で着金額が払込金額を下回ることの2点で、期日に余裕を持たせ、手数料込みで送金してもらうよう契約書の段階で決めておけば防げます。
必要になる書類(払込証明書一式)
- 払込証明書(代表者が払込金額の総額・株式数・1株の払込金額・払込日を記載し、記名したもの)
- 通帳の写し(表紙・裏表紙の見開き・入金ページ)、または取引明細表
- ネット銀行の場合は、入出金明細の画面と口座情報(銀行名・支店名・預金種別・口座番号・口座名義人)の画面を印刷したもの
- 払込金の受領権限に関する委任状(設立で、発起人以外の設立時取締役の口座に払い込んだ場合)
これらを1組に綴じたものが「払込みがあったことを証する書面」です。
よくある質問
司法書士からひと言
払込証明書は登記書類のなかでもっとも単純に見えますが、補正の原因になる頻度は高いほうです。書面の作り方が難しいのではなく、投資家が振り込む時点でつまずくと、書類の側では取り返しがつかないからです。クロージング日が決まったら、振込依頼人名と着金額、着金日の3点を投資家と共有し、着金したらすぐに明細を確認する。この一手間で、登記の遅れはほとんど防げます。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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