株式会社の決算期を変更したいと考えたとき、法務局への登記は必要なのでしょうか? 結論からいうと、事業年度(決算期)は登記事項ではないため、決算期を変更しても登記の申請は不要です。必要なのは株主総会での定款変更と税務署などへの届出ですが、役員の任期満了の時期がずれる点には注意が必要です。本ブログでは、決算期を変更するときの手続きと、司法書士として見ておいてほしい注意点について、わかりやすく説明します。
決算期(事業年度)とは
事業年度とは、会社が計算書類(決算書)を作成する区切りとなる期間のことです。多くの会社は定款で「当会社の事業年度は、毎年4月1日から翌年3月31日までとする」のように定めており、この期間は1年を超えないのが原則です(会社計算規則59条2項)。事業年度の末日、つまり決算期は3月末や12月末に限らず、会社が自由に選べます。
なお、個人事業主の場合には、一律で1月1日から12月31日までとなり、変更することはできません。
決算期を変更しても登記が不要な理由
登記事項になるのは、商号、目的、本店の所在地、発行可能株式総数、役員に関する事項など、会社法911条3項に列挙された事項に限られます。事業年度はこの列挙のなかに含まれていません。
つまり、決算期を何月何日に変更しても、履歴事項全部証明書(登記簿謄本)の記載は一切変わらないということです。商号の変更や目的の変更のように法務局への申請が必要な手続きとは、この点が大きく異なります。「決算期を変えたから念のため登記も」と考える必要はありません。
会社側の手続きは株主総会の特別決議による定款変更
事業年度は定款の絶対的記載事項ではありませんが、実務上はほとんどの会社が定款に定めています。この定めを変更するには、株主総会の特別決議が必要です(会社法466条、309条2項11号)。特別決議は、原則として議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成で成立します(定款で要件を変えている会社もあります)。
特別決議で「事業年度を毎年〇月〇日から翌年〇月〇日までとする」と変更後の条項を決議し、議事録を作成して会社で保管すれば、会社法上の手続きはこれで完了です。株主総会議事録は登記所に提出するものではなく、会社が保存しておくべき書類です(会社法318条)。なお、書面ではなく、電子(PDF)で作成して保管し、閲覧に供することも可能です(会社法318条4項2号)。
登記費用も登録免許税もかからないため、決算期の変更そのものにかかるコストは、議事録作成や税理士への相談費用くらいです。ただし、後述する税務署などへの届出は別に必要です。
変更後の最初の事業年度に注意
決算期を変更するときに見落とされがちなのが、変更後の最初の事業年度の長さです。事業年度は原則として1年を超えられませんが、決算期を変更した年に限っては、変更後の最初の事業年度が1年6か月まで延びることが認められています(会社計算規則59条2項)。
たとえば4月1日から翌年3月31日までの事業年度を9月決算に変更する場合、移行する事業年度を4月1日から同年9月30日までの6か月にする方法もあれば、翌年9月30日までの1年6か月にする方法もあります(いずれも、もともと事業年度末日である9月30日までの決議が必要です)。
3月決算を12月決算にするような前倒しなら、9か月程度に短縮されます。どちらにするかは決算月の組合せだけで決まらないので、移行する事業年度の始期・終期と変更の効力発生日を議事録に明確に残しておきます。なお、税務上は1年を超える期間が1年ごとに区分されるため、1年6か月にしても申告を18か月分まとめられるわけではありません。変更を検討する段階で顧問税理士に試算してもらうと安心です。
税務署・都道府県・市区町村への届出は忘れずに
登記は不要でも、税務上の手続きは別に必要です。事業年度を変更したときは、遅滞なく、変更前後の事業年度を所轄税務署長に届け出なければなりません。あわせて、都道府県税事務所や市区町村にも異動届出書を提出します。
「遅滞なく」と定められているだけで具体的な日数はありませんが、期限がないという意味ではありません。このあたりは税理士の専門領域になりますので、決算期の変更を決めたら株主総会の前後で顧問税理士に連絡し、都道府県・市区町村への届出期限も含めて確認しておくことをおすすめします。
取締役の任期がずれることに注意
決算期の変更で司法書士として特に確認をお願いしたいのが、取締役の任期です。取締役の任期は、原則として選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされています(会社法332条1項)。非公開会社(発行する全部の株式に譲渡制限がある会社)であれば、監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社を除き、定款で最長10年まで伸長できます(同条2項)。
決算期を変更しても、任期を数える起点となる選任の時点は変わりません。変わるのは、「選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のもの」がどの事業年度になるか、つまり任期満了となる定時株主総会がいつになるかです。たとえば決算期を前倒しして事業年度が一度短くなると、任期満了のタイミングも早まり、予定より早く定時株主総会での改選と役員変更登記が必要になることがあります。
逆に事業年度を1年6か月に延ばした場合も、延びた事業年度の末日が「選任後2年以内」から外れ、その前の事業年度で任期満了になって任期が早まることがあります。
延ばせば任期も延びるとは限らないので、選任日と定款の任期条項、変更後の事業年度を照らし合わせて確認してください。監査役を置いている会社の場合も同じ理屈で任期がずれます。監査役の任期は原則4年で、非公開会社は定款で最長10年まで伸長できますが(会社法336条1項・2項)、任期満了となる定時株主総会が動く点は取締役と同じです。
あわせて、定時株主総会の基準日を「毎年3月31日現在の株主をもって」のように定款で定めている会社は、決算期変更にあわせてこの基準日の条項も見直す必要があります(基準日についてはこちらで詳しく説明しています)。決算期の変更は定款変更の一手続きに見えて、任期管理や基準日の設計にまで影響が及ぶ、という点を押さえておいていただければと思います。
よくある質問
司法書士からひと言
決算期の変更は「定款変更だけで済む、比較的軽い手続き」と思われがちです。実際に登記は不要なのですが、役員の任期管理まで含めて考えると、実は影響範囲の広い変更だと感じています。決算期の変更をきっかけに任期満了の時期が動いたことに気づかないまま数年たっていた、という会社にお会いすることは珍しくありません。
決算期を変更するときは、税理士に届出周りを任せるだけでなく、役員を選任したときの議事録と定款の任期条項を並べて、次の役員変更登記がいつになるのかをあわせて確認しておくと、あとから慌てずに済みます。定款変更の議事録を作る段階で、任期と基準日の条項もセットで見直すことをおすすめします。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
ご依頼・相談受付
ご依頼は下記のフォームから受付けております。
お気軽にご連絡ください。
