次の資金調達やストックオプションの発行を控えて登記簿を見たら、発行可能株式総数の枠が残りわずかだった、というとき、枠を増やす登記はどう進めればよいのでしょうか? 結論から言うと、発行可能株式総数を増やすには株主総会の特別決議で定款を変更し、変更の日から2週間以内に登録免許税3万円の変更登記を申請します。株式分割と同時に増やす場合は、分割の比率の範囲内であれば株主総会を開かずに取締役会の決議だけで増やせますが、普通株式と優先株式の両方を現に発行している会社はこの特則を使えません。本ブログでは、発行可能株式総数を増やす登記と、株式分割と同時にやる場合の注意点について、わかりやすく説明します。
発行可能株式総数とは
発行可能株式総数とは、会社が発行することができる株式の総数として定款で定める上限の数です(会社法37条1項)。会社の成立までに必ず定めなければならず、定款を変更してこの定めを廃止することもできません(会社法113条1項)。登記事項でもあるので(会社法911条3項6号)、登記簿を見ればあと何株まで発行できるかがわかります。
スタートアップでは、優先株式の発行や株式分割で発行済株式の総数が短期間に大きく増えます。ストックオプションは付与しただけでは株式は増えませんが、将来の行使で発行されるため、次の増資分に加えて発行済みの新株予約権の行使分まで含めて枠が足りるかを確認します。なお、種類ごとの上限である発行可能種類株式総数は別の枠なので、本ブログでは全体の枠の話に絞ります。
発行可能株式総数を増やす手続き
発行可能株式総数は定款の定めなので、増やすには定款変更が必要です。定款変更は株主総会の特別決議(原則として、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成)によって行います(会社法466条、309条2項11号)。定款変更の効力は決議によって生じ(決議で効力発生日を定めたときはその日)、その日から2週間以内に変更登記を申請します(会社法915条1項)。登録免許税は申請1件につき3万円です(登録免許税法別表第一24号(1)ツ)。
公開会社が定款変更で発行可能株式総数を増やすときは、変更後の数を、定款変更の効力が生じた時点の発行済株式の総数の4倍までに抑えなければなりません(会社法113条3項1号)。全部の株式に譲渡制限を付けている非公開会社にはこの制限がなく、スタートアップのほとんどは非公開会社なので、次の調達やストックオプションの行使を見越した数まで一度に引き上げることができます。ただし、上場準備で譲渡制限を外して公開会社になる時点では4倍以内に収まっている必要があるため(会社法113条3項2号)、大きく取った枠は上場前に見直すことになります。
優先株式を発行している会社では、発行可能株式総数を増やす定款変更がある種類の株主に損害を及ぼすおそれがあるときに、その種類の種類株主総会の決議も必要になります(会社法322条1項1号ハ)。この種類株主総会は、定款に「種類株主総会の決議を要しない」と定めていても省略できないので(同条3項ただし書)、投資契約の事前承諾事項の確認とあわせて、株主総会の招集と並行して投資家への連絡を進めておくとスムーズです。
株式分割と同時に増やす場合の特則
株式分割をすると発行済株式の総数が一気に増え、発行可能株式総数を超えてしまうことがよくあります。このとき、現に2種類以上の株式を発行している会社を除き、株主総会の決議によらずに、分割の効力発生日における発行可能株式総数を、その前日の発行可能株式総数に分割の比率を乗じた数の範囲内で増やす定款変更ができます(会社法184条2項)。株式分割そのものは取締役会(取締役会を置いていない会社では株主総会の普通決議)で決められるので(会社法183条2項)、分割を決める取締役会の決議(取締役会を置いていない会社では取締役の決定)で一緒に枠を広げられるということです。
たとえば発行可能株式総数10,000株、発行済株式の総数3,000株の会社が1株を10株にする分割をすると、発行済株式の総数は30,000株になって枠を超えます。この特則を使えば、発行可能株式総数を10倍の100,000株まで取締役会で増やすことができます。分割の比率を超えて、たとえば200,000株にしたいときは、通常どおり株主総会の特別決議が必要です。
対象外になるのは、普通株式とA種優先株式のように現に2種類以上の株式を発行している会社です。定款に優先株式の定めがあっても、実際に発行しているのが普通株式だけなら特則を使えます。シリーズA以降のスタートアップは多くが対象外で、株主総会の特別決議に戻ることになるため、分割の比率を決める段階で、発行している株式の種類と登記簿の発行可能株式総数を確認しておいてください。
増資や新株予約権と1件の申請にまとめるとき
資金調達のタイミングでは、発行可能株式総数の変更に加えて、株式分割、募集株式の発行(増資)、ストックオプションなどの新株予約権の発行をまとめて登記することも珍しくありません。これらは1件の申請にまとめることができ、登録免許税は登記の区分ごとに計算して合算します。
| 登記の内容 | 登録免許税 | 区分 |
|---|---|---|
| 発行可能株式総数の変更・株式分割(発行済株式の総数の変更) | 3万円(同じ申請なら合わせて3万円) | 別表第一24号(1)ツ |
| 募集株式の発行(資本金の額の増加) | 増加する資本金の額×1,000分の7(3万円に満たないときは3万円) | 同ニ |
| 新株予約権の発行 | 9万円 | 同ヌ |
たとえば、発行可能株式総数の変更と株式分割、資本金の額が1,000万円増える増資、ストックオプションの発行を1件で申請すると、登録免許税は3万円と7万円と9万円の合計19万円です。発行可能株式総数の変更と株式分割を別々に申請するとツの区分が2回になって3万円が余分にかかるので、それぞれの登記期限(変更の日から2週間)に間に合う範囲で1件にまとめるのが基本です。後の手続きを待っているうちに先の変更の期限を過ぎないよう注意してください。
申請書の「登記すべき事項」には、「令和○年○月○日変更 発行可能株式総数 100,000株」のように、登記事項ごとに変更の日付と変更後の内容を書きます。気をつけたいのは日付の順序です。発行可能株式総数の変更日が株式分割の効力発生日より後だと、分割の効力発生日に発行済株式の総数が枠を超えている状態になってしまいます。184条2項の特則なら定款変更の効力は分割の効力発生日に生じるので同じ日付になりますが、株主総会の特別決議で増やす場合は、定款変更の効力発生日を分割の効力発生日と同じ日かそれより前に設定します。増資と組み合わせるときも同じで、払込期日(払込期間を定めたときはその初日)までに定款変更の効力が生じているように日程を組みます。
必要になる書類
以下は発行可能株式総数の変更に関する書類です。株式分割や増資、新株予約権の発行を同じ申請にまとめるときは、それぞれの手続きの添付書類も別途用意します。
- 株主総会議事録(特別決議で定款を変更する場合。会社法466条、309条2項11号)
- 取締役会議事録(会社法184条2項の特則で増やす場合。取締役会を置いていない会社は取締役の決定書)
- 種類株主総会議事録(種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合。会社法322条1項1号ハ)
- 株主リスト(株主総会または種類株主総会の決議を添付する場合。商業登記規則61条3項)
- 委任状(司法書士に依頼する場合)
定款そのものは原則として添付書類になりませんが、登記が完了したら該当条項を書き換えた最新版の定款を整え、次の調達のデューデリジェンスで登記簿との食い違いを指摘されないようにしておいてください。
よくある質問
司法書士からひと言
発行可能株式総数のご相談で多いのは、ストックオプションの行使や株式分割の直前になって枠の不足に気づき、株主総会の招集から急いで組み直すパターンです。非公開会社であれば増やせる数に会社法上の上限はないので、シリーズAの定款変更のときまでに、次の調達と分割まで見越した数にしておくことをおすすめしています。発行可能株式総数と発行可能種類株式総数、そして発行済みの新株予約権の目的である株式の数。この3つを登記簿と定款で並べて確認しておけば、資金調達の直前に慌てる場面はほとんど防げます。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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