優先株式(A種)を発行したときの登記費用は? 登録免許税の計算と定款変更の登記

優先株式(A種)を発行したときの登記費用は?

VCから出資を受けてA種優先株式を発行するとき、登記にはいくらかかるのでしょうか? 優先株式の発行登記の登録免許税は「増加する資本金の額×1,000分の7」で、3万円に満たないときは3万円です。初めて優先株式を発行する場合は、定款に種類株式の内容を定める登記が別に必要で、こちらは3万円かかります。たとえば1億円を調達して半分を資本金にすると、登録免許税は合計38万円です。本ブログでは、優先株式の発行登記にかかる登録免許税の計算方法と、初回だけ余分にかかる費用、必要書類と期限について、わかりやすく説明します。

目次

優先株式とは

優先株式とは、配当や残余財産の分配などについて普通株式より有利な内容を定めた種類株式のことです(会社法108条1項)。スタートアップがVCから出資を受けるときは、ほとんどの場合この優先株式を発行します。

登録免許税の計算式

登記の内容登録免許税根拠
募集株式の発行(資本金の増加)増加する資本金の額×1,000分の7。3万円未満なら3万円登録免許税法別表第一24号(1)ニ
発行可能種類株式総数・種類株式の内容の設定・変更(定款変更)3万円登録免許税法別表第一24号(1)ツ

ポイントは、税額の基準が「調達額」ではなく「資本金に組み入れた額」であることです。

払い込まれたお金のうち、資本金にする額は2分の1以上であれば会社が決められます(会社法445条2項)。残りは資本準備金になります。スタートアップの資金調達では、登録免許税額の負担を抑えるため、払込額の半分だけを資本金にするのが一般的です。

計算例(払込額の2分の1を資本金にした場合)

調達額資本金の増加額登録免許税(ニ)初回の定款変更(ツ)合計
3,000万円1,500万円105,000円30,000円135,000円
1億円5,000万円350,000円30,000円380,000円
3億円1億5,000万円1,050,000円30,000円1,080,000円

全額を資本金にすると税額は倍になります。「資本金が大きいほうが信用がつく」というご相談もありますが、登録免許税と税務の両面から、2分の1にしておく会社が多いのが実情です。

初めて優先株式を出すときに増える登記

普通株式しか発行していない会社が優先株式を発行するには、まず定款を変更して、種類株式の内容を定めなければなりません(会社法108条2項)。

定款で定めた「発行可能種類株式総数」と「発行する各種類の株式の内容」は登記事項です(会社法911条3項7号)。そのため、優先株式の発行登記と同時に、この定款変更の登記も申請します。登録免許税は3万円です。なお、発行可能株式総数の総数と、発行可能種類株式総数(複数種類ある場合にはその合計額)は一致する必要はありません

このとき、発行可能株式総数の引き上げや、既存の株式を「普通株式」と定義し直す変更もあわせて行うことが多いのですが、これらは同じ「ツ」の区分に入るので、追加の税額はかかりません。

2回目以降の調達でB種優先株式を新しく作るときも、種類株式の内容を追加する定款変更が要るので、そのたびに3万円がかかります。

期限

登記事項に変更が生じた日から2週間以内に申請します(会社法915条1項)。

募集株式の発行では「払込期日」を定めた場合はその日、「払込期間」を定めた場合は払込みをした日が変更の日です。定款変更の効力発生日と払込期日が同じ日になるよう設計しておくと、1回の申請にまとまります。

必要になる書類(非公開会社の場合)

  • 株主総会議事録(定款変更と募集事項の決定。いずれも特別決議。会社法309条2項5号・11号)
  • 株主リスト(商業登記規則61条3項)
  • 総数引受契約書、または引受けの申込みを証する書面(誰が何株を引き受けるかを決めた書面)
  • 払込があったことを証する書面(通帳のコピーなど)
  • 資本金の額の計上に関する証明書(払込額のうちいくらを資本金にしたかを会社が証明する書面)
  • 委任状(司法書士に依頼する場合)

すでに別の種類株式を発行している会社では、定款変更がその種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときに種類株主総会の決議も必要になります(会社法322条1項)。シリーズBの調達で、A種優先株主の種類株主総会議事録が要るのはこのためです。

よくある質問

登録免許税は誰が負担しますか?

登記を申請する会社が納めます。会社の経費(租税公課)として処理できます。投資契約で投資家が負担する取り決めをすることもありますが、納付自体は会社が行います。司法書士に依頼している場合には、司法書士が代理納付します。

優先配当や残余財産の分配の内容は、全部登記されますか?

されます。優先配当の額や計算方法、残余財産の分配の倍率や参加型・非参加型の別、取得請求権、取得条項、議決権の有無などは、定款で定めた内容がそのまま登記されます。一方で、株主間契約に書かれた内容は登記されません。

全額を資本金にしてしまいました。後から減らせますか?

資本金の額の減少(減資)の手続で減らせますが、債権者保護手続が必要で、官報公告などに1か月以上かかります。最初の資本金の設計で決めておくほうがはるかに簡単です。

司法書士からひと言

優先株式の登記で費用より大きな問題になるのは、定款に書いた種類株式の内容が、投資契約書の内容と食い違っていることです。投資家側の弁護士が作った契約書と、会社側で用意した定款変更案がずれていて、登記の直前に修正が入るケースは珍しくありません。

わたくしは、定款変更案を作る段階で投資契約書のタームシートと突き合わせるようにしています。調達が決まったら、契約書の最終版が固まる前に一度ご相談ください。

司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)


あわせて読みたい記事

  1. J-KISSで資金調達したら登記は必要? 期限・費用・必要書類まで
  2. 登記の完全オンライン申請とは
  3. 会社の「基準日」とは?
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

石本 憲史のアバター 石本 憲史 司法書士・スタートアップデザイナー®

大阪・北浜で「いしもと司法書士事務所(ISHIMOTO Legal)」を運営する司法書士です。
スタートアップの資金調達にともなう商業登記(種類株式・J-KISS・新株予約権・第三者割当増資)と、定款や株主間契約まわりの設計を専門にしています。
AIを日々の業務に組み込んでいる司法書士として、同業の士業向けにAI活用の顧問サービスやセミナーも行っています。
大阪司法書士会 東支部所属(登録番号 大阪第4973号)/簡裁訴訟代理等関係業務認定(第1201092号)
所属団体:BAMBOO INCUBATOR、smartroundパートナー

目次