発行可能種類株式総数の枠が足りないときの登記

発行可能種類株式総数の枠が足りないときの登記

シリーズBの投資契約がまとまり、いざB種優先株式を発行しようとしたら、B種の転換先になる普通株式の枠が足りなかったとき、登記はどう進めればよいのでしょうか? 発行可能株式総数に余裕があっても、種類ごとの上限である発行可能種類株式総数を超えて募集株式を発行することはできません。枠を増やすには株主総会の特別決議で定款を変更する必要があり、その変更登記の登録免許税は3万円です。定款変更は決議で効力が生じるので、登記の完了を待たずに募集株式の発行手続きを進めることができます。本ブログでは、発行可能種類株式総数の枠が足りないときの定款変更と登記について、わかりやすく説明します。

目次

発行可能種類株式総数とは

発行可能種類株式総数とは、種類株式発行会社が株式の種類ごとに定款で定める、その種類の株式を発行できる上限の数です(会社法108条2項柱書)。会社全体の上限である発行可能株式総数(会社法37条1項、113条)とは別の枠で、普通株式とA種優先株式を発行する会社なら、全体の枠のほかに普通株式の枠とA種優先株式の枠をそれぞれ定めます。いずれも登記事項で、発行可能株式総数は会社法911条3項6号、発行可能種類株式総数は同項7号にもとづいて登記簿に載っています。

2つの枠はどちらも超えられない

募集株式の発行は、発行可能株式総数と発行可能種類株式総数のどちらの枠にも収まっている必要があります。全体の枠に余裕があっても、発行しようとする種類の枠が足りなければ、その種類の株式は発行できません。

種類ごとの枠の合計(発行可能種類株式総数)と発行可能株式総数は、一致していなくてよい(それを超えても、満たなくても良い)とされています。

発行可能株式総数100,000株という会社全体の枠と、普通株式50,000株・A種優先株式25,000株・B種優先株式15,000株という種類ごとの枠を並べた図。種類ごとの枠の合計90,000株と会社全体の枠は一致していなくてよい。
会社全体の枠(発行可能株式総数)と、種類ごとの枠(発行可能種類株式総数)

見落とされやすいのが、まだ発行していない株式も枠を使っているという点です。優先株式に普通株式への取得請求権(転換権)や取得条項が付いている場合、それらの転換で交付されることになる普通株式の数と、行使期間に入っている新株予約権の目的である普通株式の数の合計は、普通株式の発行可能種類株式総数から発行済の普通株式(自己株式を除く)の数を引いた残りを超えてはならないと定められています(会社法114条2項)。優先株式を発行したり、ストックオプションの行使期間が始まったりするたびに、定款上の上限は変わらなくても、普通株式の枠のうち他の発行に使える余力が減っていくということです。

普通株式の発行可能種類株式総数60,000株の内訳を示す帯グラフ。発行済30,000株、優先株式の転換で交付する普通株式15,000株、新株予約権の目的である普通株式8,000株、いま新たに発行できる余力は7,000株。
普通株式の枠の使われ方(会社法114条2項)

なお、全部取得条項付種類株式がある場合には、同様に枠を確保する必要があるように思えますが、全部取得条項付種類株式は、発行時には対価が株式になるとは決まっていないため、同様に枠を確保する必要はありません。

枠を増やすには定款変更が必要

発行可能種類株式総数を増やすには、定款を変更します。定款変更は株主総会の特別決議で行い、原則として、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です(会社法466条、309条2項11号)。定款で定足数や決議要件を変えている場合はその定めに従います。

公開会社が発行可能株式総数を増やす場合、変更後の数は発行済株式の総数の4倍を超えることができません(会社法113条3項1号)。しかし、全株式に譲渡制限を付けている非公開会社にはこの制限がありません。会社法上の公開会社かどうかは上場の有無ではなく譲渡制限の有無で決まり(会社法2条5号)、スタートアップの多くは非公開会社なので、次の調達や新株予約権の発行を見越した数まで一度に引き上げることができます。発行可能株式総数も足りなくなるのであれば、同じ決議で両方をまとめて変更します。

もうひとつ確認が要るのが、種類株主総会です。発行可能種類株式総数の増加を内容とする定款変更は、それがある種類の株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、その種類の株主による種類株主総会の決議がなければ効力が生じません(会社法322条1項1号ハ)。A種優先株式の枠を広げればA種がさらに発行されうるので、普通株主の種類株主総会が必要になる、といった判断になることがあります。定款に種類株主総会の決議を要しない旨の定め(会社法322条2項)を置いていても、この種類の定款変更には適用されないため(同条3項)、定款の定めによる省略はできません。損害を及ぼすおそれの有無は判断が割れやすいので、投資家側の同意も得やすいうちに要否を整理しておく必要があります(判断の考え方は「種類株主総会はいつ必要? 会社法322条と登記の添付書類」で説明しています)。

登記の期限と費用

定款変更の効力は株主総会の決議によって生じ(決議で効力発生日を定めたときはその日)、登記は効力要件ではありません。期限と費用は次のとおりです。

項目内容根拠
登記の期限定款変更の効力発生日から2週間以内会社法915条1項
登録免許税(発行可能種類株式総数・発行可能株式総数の変更)3万円(申請1件につき)登録免許税法別表第一24号(1)ツ
募集株式の発行と同時に申請する場合3万円に、増加する資本金の額×1,000分の7(最低3万円)を加算同ツ+同ニ

枠の変更は両方まとめても「ツ」の3万円ですが、資本金の額の変更は別の区分なので、募集株式の発行と1件の申請にまとめても税額は合算されます。たとえば1億円を調達して半分の5,000万円を資本金にする場合、35万円と3万円の合計38万円です。

必要になる書類

  • 株主総会議事録(発行可能種類株式総数の変更を決めた特別決議。会社法466条、309条2項11号)
  • 種類株主総会議事録(変更がある種類の株主に損害を及ぼすおそれがある場合。会社法322条1項1号ハ)
  • 株主リスト(株主総会・種類株主総会それぞれについて。商業登記規則61条3項)
  • 委任状(司法書士に依頼する場合)

募集株式の発行と同時に申請する場合は、これに募集事項を決めた議事録、総数引受契約書または申込みを証する書面、払込みがあったことを証する書面、資本金の額の計上に関する証明書が加わります。

シリーズB直前に慌てるパターン

実務で多いのは、シリーズAで初めて種類株式発行会社になったとき、A種優先株式の枠をそのラウンドで発行する数ぴったりに、普通株式の枠も発行済の数に少し足した程度に定めているケースです。その後ストックオプションを発行し、シリーズBでB種優先株式を新設する段になって、B種の枠を設けるだけでなく、A種とB種の転換先である普通株式の枠、そして全体の発行可能株式総数まで一斉に足りなくなっていることに気づきます。B種のように新しい種類を設ける場合は、枠の数だけでなくその種類の株式の内容も定款で定めるので、既存の種類の枠を増やすだけの場合とは定款変更の中身が変わります。

定款変更自体は1回の株主総会でまとめてできますが、種類株主総会の要否、投資契約書のクロージング条件、払込期日との順序を整理する時間が要ります。定款を設計する時点で、次のラウンドと新株予約権の発行まで見込んだ枠にしておくのが最も手戻りが少ない方法です。

よくある質問

発行可能株式総数に余裕があれば、種類ごとの枠は気にしなくてよいですか?

いいえ。発行可能株式総数と発行可能種類株式総数は別の枠で、発行しようとする種類の枠を超える発行はできません。募集事項を決める前に、登記簿で種類ごとの枠と発行済みの数を確認し、あわせて優先株式の転換や新株予約権の行使で交付する普通株式の数も枠に収まるかを確かめてください。

枠を増やす定款変更と募集株式の発行は、同じ株主総会でできますか?

できます。定款変更の議案を先に決議して枠を広げたうえで、その枠に収まる募集事項を続けて決議する流れが一般的です。登記も1件の申請にまとめられます。

発行可能種類株式総数を増やすと、必ず種類株主総会が必要ですか?

必ずではありません。ある種類の株主に損害を及ぼすおそれがあるときに必要になります(会社法322条1項1号ハ)。ただし定款の定めで省略することはできないので、要否の整理は早めに済ませておくことをおすすめします。

司法書士からひと言

発行可能種類株式総数のご相談は、「登記簿を見たら枠が足りなかった」と、投資契約の締結直前に持ち込まれるケースが珍しくありません。定款変更自体は難しい手続きではないのですが、見つかるのが遅いほど関係者全員の負担が増えます。資金調達の話が出た段階で、登記簿の枠と転換・新株予約権の行使の条件を照合しておくと、必要な定款変更を調達日程に無理なく組み込めます。

司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)


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この記事を書いた人

石本 憲史のアバター 石本 憲史 司法書士・スタートアップデザイナー®

大阪・北浜で「いしもと司法書士事務所(ISHIMOTO Legal)」を運営する司法書士です。
スタートアップの資金調達にともなう商業登記(種類株式・J-KISS・新株予約権・第三者割当増資)と、定款や株主間契約まわりの設計を専門にしています。
AIを日々の業務に組み込んでいる司法書士として、同業の士業向けにAI活用の顧問サービスやセミナーも行っています。
大阪司法書士会 東支部所属(登録番号 大阪第4973号)/簡裁訴訟代理等関係業務認定(第1201092号)
所属団体:BAMBOO INCUBATOR、smartroundパートナー

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