銀行から「登記簿の内容が古いようです」と指摘されて、何年も役員変更登記をしていなかったことに初めて気づいた、というご相談は少なくありません。慌てて何かを申請する前に、まずは会社の登記が今どういう状態にあるのかを正確に確認することが先決です。本ブログでは、何年も登記をしていない会社が、現状の確認から登記を組み立てるまでにたどる順番について、わかりやすく説明します。
「登記をしていない」とは、どういう状態か
会社の登記事項に変更が生じたときは、変更の日から2週間以内に登記を申請しなければならないと定められています(会社法915条1項)。役員の任期満了や重任もこの変更にあたるため、任期が来るたびに本来は登記が必要になりますが、実際には数年、時には10年近く申請をしないまま経営が続いている会社も珍しくありません。この状態は一般に「登記懈怠(とうきけたい)」と呼ばれます。
法律上のルールを満たしていない状態ではあるものの、それだけで会社の存在が否定されるわけではなく、登記を追いつかせれば通常どおり事業を続けられます。まずは「何がどれだけ遅れているか」を落ち着いて把握するところから始めます。
まず確認する順番
現状を把握するときは、次の順番で確認していくと迷いません。
- 履歴事項全部証明書(登記簿謄本)を取得し、最後にいつ登記をしたかを確認する
- 定款を確認し、役員の任期が何年に定められているかを確認する
- 過去の株主総会議事録が残っているかを探す
- 議事録が残っていない場合、決算書や税務申告書など、他の資料から選任の経緯を組み立てる
履歴事項全部証明書は、法務局の窓口やオンラインの登記情報提供サービスで取得できます。ここに載っている代表者や取締役の氏名は、あくまで最後に登記された内容であり、任期が切れていても登記簿上の記載はそのまま残ります。まずこの証明書で「最後の登記が何年の何月だったか」を確認するのが出発点です。
次に定款を開き、取締役や監査役の任期が何年と定められているかを確認します。原則は選任後2年以内に終了する事業年度に関する定時株主総会の終結時までですが(会社法332条1項)、株式譲渡制限のある会社(非公開会社)では、定款で10年まで伸ばすことができます(同条2項、監査役は336条2項)。任期を伸ばしている会社ほど、気づいたときにはかなりの期間が経っていることがあります。
そのうえで、過去の定時株主総会の議事録が残っていないかを探します。決算のたびに開催しているはずの総会の記録で、選任・再選の経緯がもっとも確実にわかる資料です。顧問税理士がまとめて保管しているケースも多いので、心当たりがあれば確認してみてください。
議事録が見当たらない場合でも、あきらめる必要はありません。決算書の作成年月日や税務申告書の記載、招集通知の控えなど、株主総会が実際に開かれていたことを示す資料の組み合わせから、いつ・誰が選任されたかを再現できることが多いです。それでも資料がまったく残っていない場合は、現時点で株主総会をあらためて開催し、現在の役員を選任し直すところから登記を組み立てる方法もあります。
定款の任期から重任の回数を逆算する
議事録が残っていれば選任の日がそのままわかりますが、残っていなくても、定款の任期と決算期(事業年度の末日)がわかれば、次の任期満了日は機械的に計算できます。任期が2年で事業年度末が3月31日の会社であれば、前回の選任から2年後の3月末を含む事業年度の定時株主総会が終結した時点で、任期満了・重任が発生します(会社法332条1項)。これを繰り返せば、最後の登記から今日までに何回分の重任が発生しているかを、逆算で数えられます。
たとえば任期2年の会社で、最後の登記から6年が経っていれば、単純計算で3回分の重任が発生していることになります。「何回分さかのぼって登記することになるか」という考え方さえわかれば、あとは各回の総会がいつ開催されたか(または開催されたとみなせる日)を、先ほど探した資料や逆算した日付から特定していく作業になります。起算日の細かい数え方(初日不算入や、期限の末日が休日に当たる場合の扱いなど)は、「役員変更登記の期限はいつまで? 任期満了・重任・辞任で違う2週間の起算日」で詳しく説明していますので、あわせてご覧ください。
登録免許税はいくらかかるのか
役員変更登記の登録免許税は、申請1件につき、資本金の額によって変わります(登録免許税法別表第一24号(1)カ)。
| 資本金 | 登録免許税 |
|---|---|
| 1億円以下の会社 | 1万円 |
| 1億円を超える会社 | 3万円 |
ポイントは、登記簿に記載される変更の件数ではなく、法務局に提出する申請の件数で決まることです。同じ区分の登記事由であれば、何回分の重任をまとめて1件の申請にしても、税額は変わらないという扱いが実務では定着しています。
ただし、辞任や新任が混ざる場合や、本店移転・目的変更など別の区分の登記を同時に行う場合は扱いが変わり、税額が加算されることがあります。何年分をまとめて登記することになるのか、実際にいくらになるのかは、履歴事項全部証明書と定款を持って司法書士や法務局に相談し、実際の登記記録をもとに見積もってもらうのが確実です。
みなし解散になっていないかも確認する
最後の登記から12年が経過している場合は、もうひとつ確認が必要です。株式会社は、最後の登記から12年を経過すると休眠会社として扱われ、法務大臣による官報公告と、登記所からの通知の対象になります。通知から2か月以内に事業を廃止していない旨の届出や登記の申請をしなければ、その期間の満了時に解散したものとみなされます(会社法472条1項)。
すでにみなし解散の登記がされてしまっている場合でも、解散したものとみなされてから3年以内であれば、株主総会の決議によって会社を継続する登記ができます(会社法473条)。みなし解散の制度と、継続登記の詳しい手続きは、「株式会社の「みなし解散」とは?」と「会社の継続登記とは?」で説明していますので、心当たりのある方はあわせてご覧ください。
「放置していたから怒られるのでは」とためらう気持ちはよくわかりますが、過料を科すかどうかや金額は裁判所が個別に判断するものであり、登記を怠っていた期間が長いほど必ず重くなるとは一概に言えません(会社法976条1号)。むしろ、気づいた時点で動いたほうが、確認の作業も登記の組み立ても軽く済みます。時間が経てば経つほど議事録などの資料は見つかりにくくなり、みなし解散の期限にも近づいていきます。
よくある質問
司法書士からひと言
何年も登記をしていなかったと分かると、まずご自身を責めてしまう経営者の方が多い印象です。ですが実務でお会いする範囲では、税理士や取引先に指摘されて初めて気づいたというケースがほとんどで、珍しいことではありません。大切なのは、気づいた時点でどれだけ早く現状を確認し、動き始められるかだと思います。履歴事項全部証明書と定款さえ手元にあれば、どこから手をつければいいかは意外とすぐに見えてきますので、まずはその2つを揃えるところから始めてみてください。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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