役員の任期が切れていることに、決算の準備をしていてふと気づいた、というご相談は少なくありません。役員変更登記には期限があり、変更の日から2週間以内に申請する必要があります(会社法915条1項)。ただし、この「変更の日」がいつを指すのかは、就任・重任・辞任・任期満了退任のどれに当たるかで変わります。本ブログでは、役員変更登記の期限と、事由ごとに違う起算日の数え方について、わかりやすく説明します。
役員変更登記の期限とは
役員の氏名や就任・退任は登記事項なので、新しく取締役が就任したとき、任期満了で退任したとき、辞任したときは、いずれも冒頭の期限の対象になります。
問題は「変更が生じた日」がいつなのか、という点です。ここでは株式会社の取締役について、就任・重任・辞任・任期満了退任という4つのパターンを取り上げます(解任や死亡でも登記は必要ですが、本ブログでは扱いません)。
起算日は事由ごとに違う
新しく就任する役員は、株主総会が選任を決議しただけでは足りません。会社と役員の関係は委任契約なので(会社法330条)、選ばれた人が就任を承諾して初めて役員としての地位が発生します。総会の場で席上就任承諾すれば総会の当日、後日承諾した場合は、承諾の意思表示が会社に届いて選任と承諾がそろった日が「変更の日」です。就任承諾書の日付だけで判断しないよう注意してください。
重任と任期満了退任は、どちらも任期の終期がからみます。多くの会社では任期の終期を「定時株主総会の終結の時まで」と定めているため(会社法332条1項)、任期満了で退任するだけの場合も、任期満了と同時に再選される重任の場合も、「変更の日」は定時株主総会が終結した日になります。重任では、同じ総会の席上で再選され就任を承諾する形が一般的です。
辞任は、役員が会社に対して一方的に意思表示をする行為です。意思表示は相手方に到達した時点で効力が生じるため(民法97条1項)、「変更の日」は辞任届が会社に届いた日になります。辞任届に「○年○月○日をもって辞任する」と将来の日付が書かれていれば、その指定日が変更の日です。「~~をもって辞任する」とすると、当日の0時に辞任するのか24時に辞任するのかで解釈が分かれる可能性があるため、定時株主総会の終了時を辞任する時点として指定して「わたしは、令和〇年〇月○日開催の定時株主総会の終結時をもって辞任します」という辞任届を作成することも少なくありません。
4つのパターンをまとめると、次のようになります。
| 事由 | 「変更の日」=起算日 |
|---|---|
| 新任役員の就任 | 就任を承諾した日 |
| 重任(任期満了と再選が同日) | 定時株主総会が終結した日 |
| 辞任 | 辞任届が会社に到達した日 |
| 任期満了による退任 | 定時株主総会が終結した日 |
例外として、辞任や任期満了によって法律または定款で定めた役員の人数を下回る場合、退任した役員は後任が就任するまで役員としての権利義務を持ち続けます(会社法346条1項)。この場合は退任の登記がすぐにはできず、後任が就任した日から2週間以内に、退任と就任の登記をあわせて申請します。
初日不算入の数え方
期限を数えるときは、原則として変更の日そのものは1日目に含めません。日、週、月、年で期間を定めたときは初日を算入しないと定められているためです(民法140条)。
たとえば6月20日に定時株主総会が終結し、その日に任期満了・重任の効力が生じたとします。初日の20日は数えず、翌21日を1日目として数えると、14日目は7月4日です。したがって申請期限は7月4日で、変更の日の2週間後の同じ曜日に当たります。なお、期限の末日が土日祝日など登記所の休日に当たるときは、次の開庁日が期限になります(行政機関の休日に関する法律2条)。
期限を過ぎたときの過料
期限を過ぎても、役員変更登記そのものは申請できます。法律上は100万円以下の過料の対象になりえますが(会社法976条1号)、実務では少し遅れた程度で過料の通知が届くことはほとんどなく、届くのは1年以上放置していたような場合が中心です。
「もう過ぎてしまったから」とためらわず、気づいた時点で早めに申請しておけば大丈夫です。
放置が長期にわたると、過料よりも重い話になります。最後の登記から12年が経過した株式会社は「みなし解散」の対象となり、法務局からの通知に応答しなければ職権で解散の登記がされてしまいます(会社法472条1項)。任期10年の会社が2期分の重任登記を飛ばすと、この12年に届いてしまうことがあるので、任期を長く設定している会社ほど注意が要ります。
日々の場面でも効いてきます。銀行口座の開設や変更、補助金・融資の申請、許認可の更新では、登記事項証明書の提出を求められるのが通常です。登記が実態と合っていないと、その場で手続が止まります。役員変更登記は「法律で決まっているからやる」ものというより、会社が対外的に動くための前提が整っているかどうかの話だと考えると、後回しにしにくくなると思います。
その他、過料の詳細については、解説した動画を撮影しておりますので、こちらもご確認ください。
登録免許税
役員変更登記の登録免許税は、申請1件につき、資本金の額によって変わります(登録免許税法別表第一24号(1)カ)。
| 資本金 | 登録免許税 |
|---|---|
| 1億円以下の会社 | 1万円 |
| 1億円を超える会社 | 3万円 |
複数の役員が同時に交代しても、1回の申請にまとめれば税額は変わりません。逆に、就任と辞任を別々のタイミングで申請すると、そのたびに1万円(または3万円)がかかります。ただし、まとめられるのは各変更の2週間の期限を守れる場合に限られます。後の就任を待って退任の登記を遅らせると登記懈怠になるので、退任と就任の日を近づけられないか、計画の段階で検討しておくと無駄がありません。
必要になる書類
- 株主総会議事録(選任・退任を証する書面)
- 株主リスト(商業登記規則61条3項)
- 就任承諾書(新たに就任する役員の分。総会議事録に承諾の記載があれば省略できる場合があります)
- 本人確認証明書(新任の取締役で印鑑証明書を添付しない場合。住民票の写しなど)
- 辞任届(辞任する役員がいる場合)
- 印鑑証明書(取締役会を置いていない会社では、取締役。取締役会設置会社では代表取締役が新たに就任する時)
- 委任状(司法書士に依頼する場合)
重任のケースでも、改めて選任されたことと、本人が就任を承諾したことを証する書面は必要です。任期満了の事実は定款と過去の選任記録から判断するもので、別に「退任させる書面」を作るわけではありませんが、同一人物だからといって議事録や承諾の証明を省略できるわけでもありません。なお、重任の場合、本人確認証明書の添付を省略することはできます。
役員がそのまま重任するだけのシンプルなケースであれば、議事録・株主リスト・就任承諾書をご自身で作成して申請することも十分可能です。一方で、種類株式を発行している会社の役員変更や、辞任と新任が絡んで書類の日付にずれが出やすいケースは、起算日の計算も誤りやすくなります。書類の書き方に自信が持てないときや、期限をすでに過ぎてしまっているときは、その時点で司法書士に相談していただくのが安心です。
よくある質問
司法書士からひと言
決算の準備をしていて、役員の任期が数年前に切れていたことに気づく会社は珍しくありません。とくに非公開会社では取締役の任期を10年まで伸ばせるため、伸ばした分だけ「次はいつだったか」を見失いやすくなります。任期を伸ばすこと自体は合理的な選択ですが、「任期は何年か」だけでなく「どの事業年度の定時株主総会で満了するか」まで控えておくことをおすすめします。
期限を過ぎていることに気づいたら、必要な決議と書類を確認し、早めに登記を申請しましょう。役員の入れ替わりがあったとき、あるいは任期が気になったときは、早めにご相談いただくのが安心です。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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