司法書士の石本憲史です。大阪・北浜で、会社・法人の登記を中心にやっています。
この記事は、東京以外の街で会社をやっている経営者の方に向けて書いています。とくに、これから資金調達をする、あるいはしたばかりで、「登記のことを誰に相談したらいいか分からない」と感じている方です。
先に結論を書きます。スタートアップの登記は、近くの司法書士でなくても困りません。むしろ距離よりも、その論点を何度扱ったことがあるかで選んだほうが安全です。商業登記は、必要な電子署名の準備さえ整えば完全オンラインで完結しますので、紙も、実印も、郵送も、来所も要りません。そして地方には、商業登記に特化していてスタートアップの資本政策まで分かる司法書士が、構造的にほとんどいません。これは地元の先生の力量の問題ではなく、案件の分布の問題です。
以下、その理由を具体的に書いていきます。
「地元に相談できる人がいない」のは、気のせいではない
地方で資金調達をした経営者から、いちばんよく聞くのがこれです。
地元の司法書士さんにJ-KISSの話をしたら、「それは初めてですね」と言われた
これは、責められる話ではありません。理由ははっきりしています。
司法書士の仕事の量は、圧倒的に不動産登記と相続が多く、地方であればあるほどその比率は上がります。商業登記はもともと件数が少なく、そのうえスタートアップのファイナンス案件(J-KISS、種類株式、ストックオプション、組織再編)は東京に偏在しています。案件が回ってこない土地では、経験の積みようがありません。
つまり、地方にスタートアップへ明るい商業登記の司法書士がいないのは、能力ではなく分布の問題です。
そして分布の問題なら、解決策はシンプルです。分布の外から呼べばいい、ということになります。
わたくし自身、高知でキャリアを始めて、東京に出て、奄美大島で数年働き、いま大阪にいます。地方の事務所がどういう案件構成で回っているか、都市部と何が違うか、その両方を内側から見てきました。ですから「地元の先生に頼めない」という感覚を、上から目線で語るつもりは一切ありません。単に、当事務所が引き受けたほうが早くて安全な領域がある、というだけの話です。
距離が問題にならない理由。商業登記は完全オンラインで終わる
「でも、書類のやり取りや押印があるのでは」と必ず聞かれます。これがないのです。
当事務所は商業登記を完全オンライン申請で処理しています(手続そのものの解説は「登記の完全オンライン申請とは」をご覧ください)。実際の流れは次のとおりです。
| 工程 | 従来(紙) | 当事務所のやり方 |
|---|---|---|
| 打ち合わせ | 来所・訪問 | オンライン会議/チャット |
| 議事録・就任承諾書 | 印刷して押印、郵送 | 電子署名 |
| 委任状 | 会社実印を押して郵送 | 電子署名 |
| 完了書類 | 郵送で返送 | データで納品+必要なら証明書を手配 |
つまり、条件が整えばお手元で発生する物理作業はゼロになります。北海道でも沖縄でも、大阪の会社と条件は変わりません。
少し専門的な話になりますが、電子署名で登記を通すには、その電子署名サービスが法務省の掲載一覧に載っているか、証明書の有効期間が申請日をまたいでいないか、といった確認が要ります。当事務所ではこの確認を自作のチェックツールで機械的に行い、署名したのに登記が通らないという、もっとも避けたい事故を起こさないようにしています。
身軽であること自体が、スタートアップにとっての機能になる
資金調達のラウンド(一連の調達の動き)を経験された方なら分かると思いますが、クロージング日(払込みを実行する日)は動きます。
投資家が1社増えた。投資家による調査(デューデリジェンス)で1週間ずれた。逆に「今週中に払い込みたい」と言われた。そのたびに、取締役会・株主総会・払込み・登記申請のスケジュールを引き直すことになります。
このとき効いてくるのが、事務所の身軽さです。当事務所であれば、SlackやChatworkに入ってやり取りします。メールで往復している時間が惜しい局面があるからです。投資家側の弁護士とも直接やり取りし、経営者を伝書鳩にしません。投資契約のドラフトが届いた段階で、この条項はそのままだと登記できません、と先にお返しします。
登記のご依頼が決まる前のご相談も受けます。むしろそこが本番で、設計が終わってから呼ばれると、できることは激減します。そして締切から逆算して、何がいつまでに必要かを最初に一枚でお出しします。「あとで教えます」はやりません。
大きな事務所には大きな事務所の良さがありますが、確認の階層が増えるぶん、動いているラウンドの速度に噛み合わないことがあります。当事務所はわたくしがひとりで全部見ているので、判断が早い。それだけです。
実際によく詰まる5つのポイント
抽象論だと伝わりませんので、現場でよく見るものを挙げます。
1. J-KISS・新株予約権は、内容の一部が登記事項になる
新株予約権は登記されます。発行要項の全文が載るわけではありませんが、法律で登記事項とされている部分は、誰でも取得できる登記簿に載ります。転換価額の算定方法もそのひとつで、どこまで書くか、書かざるを得ないか。ここは契約書を作る段階で織り込んでおく話で、発行後に「登記したくないので消したい」は効きません(期限や費用は「J-KISSで資金調達したら登記は必要?」にまとめています)。
2. 種類株式の「枠」が定款にない
優先株式を発行するには、定款に種類株式の内容と発行可能種類株式総数を定める必要があります。設立時のひな形定款のままだと、当然ながら枠がありません。株主総会の特別決議が要るので、押さえるべき賛成数と、いつ開くかの逆算が必要になります。ここを直前に気づくと、予定していた払込日に間に合わず、ラウンド全体がずれることがあります(定款変更と発行の費用は「優先株式(A種)を発行したときの登記費用は?」で説明しています)。
3. 「登記できる条件」と「契約で守る条件」の切り分け
みなし清算条項、先買権(他の株主が株式を売るときに優先して買える権利)、ドラッグアロング(一定の条件で他の株主にも売却を求められる権利)。これらは登記事項ではなく、投資契約や株主間契約で定める世界です。一方で、種類株主総会の決議を必要とする拒否権を設けるのなら、定款に定める必要があります。契約で投資家の事前承諾を得る取り決めとは別のもので、どちらを使うかで権利の効き方が変わります。この振り分けを間違えると、守りたかった権利が守られていない状態が生まれます。
4. 設立時の定款が、後々のラウンドで足を引っ張る
取締役会の要否、株式の譲渡承認機関、株主総会の招集期間。設立時のひな形をそのまま使っていると、あとでまとめて直すことになり、そのたびに決議と費用が発生します。会社設立の段階で資本政策の話をさせていただけるのが、いちばん安上がりです。
5. 登記簿は、投資家が最初に読むデューデリ資料
過去の登記に不自然な点があると、次のラウンドで聞かれます。役員の任期切れ、放置された旧本店、目的の書きぶり。登記簿は会社の履歴書です。きれいにしておくと、後で効いてきます(登記を長く放置してしまった場合の進め方は「何年も登記をしていない会社は、何から手をつける?」をご覧ください)。
よくある質問
司法書士からひと言
当事務所はスタートアップ支援を看板にしていますが、根っこにあるのは「誰ひとり取り残さない」という考え方です。東京にいれば当たり前に受けられる専門的な支援が、場所が違うというだけで受けられない。これは、高知でも奄美でも仕事をしてきた身として、いちばん納得がいかない部分でした。
登記はオンラインで完結します。距離は、もう理由になりません。ラウンドの前でも、真っ最中でも、「これは登記がどうなるのだろう」が出てきた時点でご連絡ください。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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