増資の登記を申請するとき、払込みを受けた金額はそのまま全額を資本金にしなければならないと思っていないでしょうか? 実は、払込みに係る額のうち2分の1を超えない範囲であれば、資本金ではなく資本準備金として計上することができ(会社法445条2項・3項)、その内訳を記載した「資本金の額の計上に関する証明書」を登記申請書に添付しなければなりません(商業登記規則61条9項)。本ブログでは、この証明書に何を書けばよいか、そしてスタートアップの多くが払込額の半分だけを資本金にする理由について、わかりやすく説明します。
資本金の額の計上に関する証明書とは
資本金の額の計上に関する証明書とは、資本金の額が会社法及び会社計算規則の規定に従って計上されたことを証明する書面です(商業登記規則61条9項)。募集株式の発行(増資)による資本金の額の変更登記を申請するときに添付します(設立登記でも原則として添付しますが、出資が金銭のみの場合は省略できます)。証明者は代表取締役で、証明書の末尾に記名します。増資では、払込みを受けた金額の全額を資本金に計上する場合であっても、この証明書自体は添付書類として必要です。
証明書に書く内容
証明書に書く項目は、大きく4つです。ひとつ目は払込みを受けた金銭の額(会社計算規則14条1項1号)です。金銭出資に加えて現物出資があった場合は、給付を受けた財産の価額も記載します。二つ目は、これらの合計額から資本金等増加限度額を算定する過程です。
三つ目は、そのうち資本金として計上する額です。四つ目は、資本金として計上しないこととした額、つまり資本準備金として計上する額です(会社法445条2項・3項)。最後に記名を加えれば完成で、法定の様式はありません。
たとえば、払込金額1億円のうち5,000万円を資本金に、5,000万円を資本準備金に計上する場合、証明書にはおおよそ次のように書きます(金銭出資のみで、自己株式の処分などがない前提です)。
資本金の額の計上に関する証明書
1 払込みを受けた金銭の額 金100,000,000円
2 資本金等増加限度額(1の額) 金100,000,000円
3 前号の額のうち資本金として計上しないこととした額 金50,000,000円
4 資本金として計上する額 金50,000,000円
上記のとおり、資本金の額は会社法及び会社計算規則の規定に従って計上されたことに相違ないことを証明する。
令和〇年〇月〇日
〇〇株式会社
代表取締役 〇〇 〇〇
案件ごとに金額と会社名、日付を差し替えるだけのシンプルな書面ですが、現物出資などがある場合は計算内容を個別に確認します。また、証明書に書くのは今回の増加額で、登記申請書に書く資本金の額は増資前の額にこれを足した総額です。金額を1円でも間違えると申請書と整合しなくなるので、計算過程を含めて慎重に確認する必要があります。
払込額の半分だけを資本金にする理由(残りは資本準備金)
払込みに係る額の2分の1を超えない額は、資本金ではなく資本準備金として計上することができます(会社法445条2項)。資本金として計上しないこととした額は、資本準備金として計上しなければなりません(同条3項)。スタートアップの増資では、この上限いっぱいまで資本準備金に振り分けるケースが少なくありません。理由は主に3つあります。
ひとつ目は登録免許税です。資本金の額の増加登記の登録免許税は、増加した資本金の額に1,000分の7を掛けた金額です(登録免許税法別表第一24号(1)ニ)。払込額の半分だけを資本金に計上すれば、登録免許税もほぼ半分に抑えられます(最低税額3万円にかかる少額の増資を除きます)。
二つ目は、税務上の中小企業としての扱いです。資本金が1億円を超えると、法人税の軽減税率や交際費の損金算入枠など、資本金1億円以下の会社に認められている優遇措置の対象から外れます(適用される優遇措置の範囲や要件は税制改正で変わりうるため。大型の資金調達を重ねるスタートアップほど、資本金を1億円以下に抑えておく意味は大きく(資本金1億円以上となる調達をした場合には、同時に減資をすることが多いです)なります。ただし、適用の有無は株主構成などにも左右されるため、税理士に確認したうえで配分を決めてください。
三つ目は、将来減らすときの手続きの違いです。資本準備金の減少は株主総会の普通決議で行えますが(会社法448条1項)、資本金の減少は原則として特別決議が必要です(会社法447条1項、309条2項9号)。ただし、債権者保護手続きはどちらも原則として必要で、省略できるのは定時株主総会で欠損の額の範囲内で準備金だけを減らす場合などに限られます(会社法449条1項)。
登録免許税の計算例
実際の税額を比べると、差ははっきりします。払込金額1億円の増資で、全額を資本金に計上した場合と、半分を資本準備金に振り分けた場合の登録免許税は次のとおりです。
| 資本金への計上額 | 登録免許税 |
|---|---|
| 1億円(全額) | 70万円 |
| 5,000万円(半分) | 35万円 |
登録免許税は、表のとおり増加した資本金の額の1,000分の7です。3万円に満たないときは3万円になります。調達額が大きくなるほど、資本準備金への振り分けが税額に与える影響も大きくなっていきます。
よくある質問
司法書士からひと言
資本金の額の計上に関する証明書は、書式自体はシンプルですが、資本金等増加限度額の計算を間違えると、登記申請書に書いた資本金の額とずれてしまい、補正の原因になります。とくに現物出資が絡む増資では、給付を受けた日における財産の価額と資本金等増加限度額の計算根拠を慎重に確認するようにしています。
払込額の何割を資本金にし、何割を資本準備金にするかは、登録免許税だけでなく、その後の資金調達や税務上の扱いにも関わってきます。増資の設計段階から、登記と税務の両方の目線で配分を決めておくことをおすすめします。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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