先代から引き継いだ会社の登記簿を見たら、いまも「有限会社」のままだったという方や、取引先や金融機関から「そろそろ株式会社にしないのか」と言われた、という方は少なくありません。結論からいうと、いまの「有限会社」は法律上すでに株式会社として存続している会社であり、株式会社に変えるかどうかは義務ではなく選択の問題です。本ブログでは、有限会社のまま経営を続けるメリット・デメリットと、株式会社に変えるときの登記の手続について、わかりやすく説明します。
特例有限会社とは
特例有限会社とは、2006年の会社法施行によって有限会社法が廃止された際、それまでの有限会社が株式会社として存続しつつ、商号中に「有限会社」の文字を用いなければならないとされた会社のことです(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律〈以下「整備法」といいます〉2条1項・3条1項)。登記簿上の会社の種類はすでに株式会社であり、株式会社は商号中に「株式会社」の文字を用いなければならないという会社法のルール(会社法6条2項)にかかわらず、有限会社の商号を名乗り続けなければならない、という位置づけです。全国にはいまも相当数の特例有限会社が残っており、家業を引き継いだ会社や、昔ながらの取引先を持つ会社によく見られます。
そのままでいることのメリット
特例有限会社であり続けることには、実務上小さくないメリットがあります。
まず、取締役や監査役に任期の定めがありません。通常の株式会社では取締役の任期は原則2年、非公開会社でも定款で伸ばして最大10年までと決まっていますが(会社法332条、監査役は336条)、特例有限会社にはこれらの規定が適用されないため(整備法18条)、辞任や解任がない限り、役員は何年経っても登記上の任期満了を迎えません。通常の株式会社であれば任期のたびに発生する重任登記が要らないので、その分の登録免許税や書類作成の手間がかかりません。
2つ目の実利は、決算公告の義務がないことです。株式会社は原則として毎事業年度、貸借対照表を公告しなければなりませんが(会社法440条)、特例有限会社にはこの規定が適用されません(整備法28条)。官報公告の費用や準備の手間をかけずに済む点は、規模の小さい会社ほどありがたい部分だと思います。役員の顔ぶれが安定していて、公告の予定もない会社であれば、無理に株式会社へ変える必要はないというのが実感です。
3つ目のメリットは、休眠会社のみなし解散に関する規定が適用されないということです(整備法32条)。よって、12年を超えて何らの登記をしていない場合であっても、休眠会社として解散したものとみなされることはありません。
なお、休眠会社のみなし解散についての詳細は、こちらの記事をご参照ください。
そのままでいることのデメリット
一方で、特例有限会社のままでいることには相応のデメリットもあります。対外的な印象という面では、取引先や金融機関から「まだ有限会社なのか」という見方をされることがあり、特に新規の取引や採用の場面で気になる、という声を聞くことがあります。
法律上の制約も無視できません。特例有限会社の株式には、法律によって譲渡制限の定めがあるものとみなされており、その定めを廃止したり内容を変えたりする定款変更はできません(整備法9条1項・2項)。この制限があるため、特例有限会社は会社法上の「公開会社」にはなれません(会社法2条5号)。公開会社になれないということは、株式を自由に流通させて資金調達する選択肢が最初から狭くなっているということでもあります。
特例有限会社は、吸収合併存続会社や吸収分割承継会社になることができず(整備法37条)、株式交換・株式移転および株式交付に関する規定が適用されません(整備法38条)。
特例有限会社が、どの組織再編で当事者になれるのかを整理すると次のとおりです。
| 組織再編 | 立場 | 特例有限会社 |
|---|---|---|
| 吸収合併 | 存続会社 | △(整備法37条) |
| 吸収合併 | 消滅会社 | ○ |
| 吸収分割 | 承継会社 | △(整備法37条) |
| 吸収分割 | 分割会社 | ○ |
| 株式交換 | 完全親会社 | ×(整備法38条) |
| 株式交換 | 完全子会社 | ×(整備法38条) |
| 新設合併 | 消滅会社 | ○ |
| 新設分割 | 分割会社 | ○ |
| 株式移転 | 完全子会社 | ×(整備法38条) |
| 株式交付 | 株式交付親会社 | ×(整備法38条) |
| 株式交付 | 株式交付子会社 | ×(整備法38条) |
○:当事者になれる
△:一定の要件を満たせば当事者になれる
×:当事者になれない
△と×の違いは、「いつまでに通常の株式会社へ移行しておく必要があるか」にあります。吸収合併の存続会社や吸収分割の承継会社(△)については、特例有限会社のままで合併契約の締結などの手続を進めること自体は可能で、効力発生までに通常の株式会社へ移行することを条件に、吸収合併等の手続を行うことができると解されています。移行を認めても特例有限会社の制度趣旨に反しないと考えられているためです。
これに対して、株式交換・株式移転・株式交付(×)は、特例有限会社にはこれらの手続に関する規定そのものが適用されません(整備法38条)。そのため、吸収合併や吸収分割とは異なり、手続を始める時点で通常の株式会社に移行している場合に限って、当事者になることができます。なお、吸収合併の消滅会社や吸収分割の分割会社、新設合併・新設分割の当事者(○)になることは、特例有限会社のままで可能です。
事業承継やM&Aの場面でも、譲渡制限を動かせないことや上記のような組織再編スキームの制限があることが選択肢を狭めることがあります。買い手企業が想定するスキームによっては、事前に株式会社へ移行しておくよう求められるケースも見られます。
株式会社に変えるときの手続
特例有限会社を通常の株式会社にする手続は、合同会社を株式会社にするときに使う「組織変更」ではありません。定款を変更して商号中に「株式会社」の文字を用いる、「商号変更による株式会社への移行」という形をとります(整備法45条1項)。
手続の流れは、次の2つです。
- 株主総会の特別決議で、商号を「〇〇株式会社」に変更する定款変更を決議します。特例有限会社の特別決議は、通常の株式会社(会社法309条2項、出席株主の議決権の3分の2以上)とは要件が異なり、総株主(頭数)の半数以上であって、その株主の議決権の4分の3以上の賛成が必要です(整備法14条3項)。
※このため、株主間で意見の対立がある場合は、株式会社への移行がうまくいかない可能性があります。事前の株主間での合意形成が重要です。 - 決議から2週間以内に、本店所在地において、特例有限会社については解散の登記を、商号変更後の株式会社については設立の登記を、同時に申請します(整備法46条1項)。
解散と設立の2つの登記を同時に申請する形をとりますが、会社が一度消滅して新しく生まれ変わるわけではありません。会社としての同一性は保たれたまま、登記の記録として解散と設立が対になって残る、とイメージすると分かりやすいと思います。
費用
商号変更による株式会社への移行にかかる登録免許税は、解散の登記が申請1件につき3万円、設立の登記が資本金の額の1000分の1.5(商号変更直前の資本金の額を超える部分は1000分の7)で、計算した税額が3万円に満たないときは3万円です。多くの中小企業では資本金が数百万円から1,000万円程度であることが多く、実務上は解散3万円・設立3万円のあわせて6万円で収まるケースが大半です。なお、商号変更による通常の株式会社への移行及び資本金の額の増加以外の変更登記を含む場合であっても、当該変更登記に係る登録免許税額を加算する必要はありません。
| 登記 | 登録免許税 |
|---|---|
| 特例有限会社の解散登記 | 3万円 |
| 株式会社の設立登記 | 資本金の額×1000分の1.5(最低3万円。商号変更直前の資本金の額を超える部分は1000分の7) |
上記において、登記申請書における課税標準金額の記載に当たっては、商号変更後の資本金の額が、直前における資本金の額を超過する場合には、その超過分が分かるように、下記のような記載をする必要があります。
このほか、移行後の定款には公証人の認証が不要なため、認証手数料はかかりません。
変えたあとに戻せないこと
株式会社に移行した特例有限会社が、もう一度有限会社の状態に戻ることはできません。整備法が定めているのは特例有限会社から株式会社への一方通行の移行であり、逆方向の手続は用意されていないためです。
移行後は、通常の株式会社と同じルールが適用されるので、取締役や監査役にも任期が生じます(会社法332条・336条)。移行の時点で、株式会社としての任期を満了していた場合には、そのタイミングでの任期満了登記、再選が必要となります。
また、移行の際に役員を選び直した場合は、その時点から任期のカウントが始まり、以後は任期満了のたびに重任登記が必要になります。決算公告の義務も発生するので、あわせて公告方法を確認しておくと安心です。
なお、移行による設立の登記における取締役又は監査役が、商号の変更の時に就任(重任を含む。)である場合には、その就任年月日として、商号の変更の登記年月日を記録します。
これに対して、移行による設立の登記における取締役又は監査役が、特例有限会社の取締役又は監査役がそのままスライドした役員である場合には、その就任年月日としては、特例有限会社の登記記録における就任年月日(当該役員が会社設立時から在任している場合には、会社設立の年月日)を移記します。
移行のときに役員を選び直す場合の注意点
移行のタイミングで、取締役や監査役が任期満了や辞任によって退任し、新しい役員が就任するケースは少なくありません。この場合の役員の選び方と、見落としやすいポイントを整理しておきます。
誰が選ぶのか
移行時に就任する取締役や監査役は、原則として、移行前の特例有限会社の株主総会で選任します(会社法329条1項)。特例有限会社も会社法上の株式会社なので、整備法で適用除外とされていない限り、役員の選任についても会社法の規定がそのまま適用されるためです。
なお、監査役を選任できるのは、定款で監査役を置く旨を定めている会社、取締役会設置会社、会計監査人設置会社に限られます(会社法326条2項・327条2項・3項)。移行にあわせて監査役を置きたい場合は、変更後の定款に監査役を置く旨の定めを入れておく必要があります。
定款の附則で定める方法
株主総会で選任するほかに、商号を変更する定款変更の際に、変更後の定款の附則に移行時に就任する役員を定めておくことも可能と考えられています。取締役会設置会社に移行する場合は、代表取締役を定款の附則で定めるのが通例なので、そこに取締役や監査役も並べて記載しておく形です。次の「必要になる書類」で触れますが、定款に新任役員の氏名(代表取締役は住所も)を直接表示しておけば、選任を証する書面の添付を省略できるという実益もあります。
後任を選ばないまま移行するとどうなるか
移行の時点で取締役や監査役が任期満了や辞任により退任するのに、後任を選んでいない場合、退任した役員は新しい役員が就任するまで、引き続き役員としての権利義務を有します(会社法346条1項)。そのため、その役員を移行後の株式会社の取締役や監査役として登記すること自体はできます。ただし、これは役員の選任を怠っている状態(選任懈怠)にあたり、過料の対象になります(会社法976条22号)。移行の登記を申請する前に、移行によって退任する役員がいないか、いるなら後任が決まっているかを必ず確認しておきましょう。
移行時に就任した役員の任期はいつから数えるのか
移行の登記の際に就任した役員の任期を、選任のときから数えるのか、移行の登記のときから数えるのかは、判断の分かれやすいところです。移行の登記は解散と設立の2本立てですが、先ほど触れたとおり、実体はあくまで商号を変える定款変更であって、会社が新しく生まれるわけではありません。ですから、設立の登記で就任した役員であっても、通常の設立登記の場合とは異なり、任期の起算点は選任のときと考えるのが自然です。
一方で、移行の登記を停止条件として取締役会設置会社や監査役設置会社になる旨の定款変更をし、その定款の附則で代表取締役と並べて取締役や監査役を定めた場合には、任期の起算日は移行の日になると考えられます。任期の起算点がずれると次の重任登記の期限もずれるので、移行時の議事録や定款には、選任日がはっきり分かるように残しておくことをおすすめします。
必要になる書類(変更後定款に互選の定めを置かない場合)
- 定款(商号変更後の株式会社のもの、整備法136条20項)
- 株主総会議事録(特別決議による定款変更及び取締役の退任並びに選任を証する書面)
- 株主リスト(商業登記規則61条2項・3項)
- 取締役の就任承諾書(役員を新たに選任する場合)
- 印鑑証明書(新任役員の分)
- 委任状(司法書士に依頼する場合)
※特例有限会社の解散登記については、委任状含め添付書類は一切要しない(整備法136条22項)。 - 印鑑届出書(就任承諾書に印鑑証明書を添付する場合にあっては、その添付を援用可能)
移行と同時に役員が任期満了で交代する場合は、就任承諾書に加えて印鑑証明書や住民票の写しなど、新任役員の本人確認書類もあわせて準備します。
また、変更後の定款に、直接新任役員(新任代表取締役)の住所氏名を表示することにより、商号変更後の役員の選任を証する書面は、添付省略することができます。
役員の交代がなく、定款も特別な定めのないシンプルなケースであれば、株主総会議事録や株主リストの作成から解散・設立の同時申請まで、ご自身で対応することも十分可能です。一方で、特例有限会社の特別決議の要件が通常の株式会社と違う点や、資本金の変更・目的の変更をあわせて行う場合の書類の整合性は間違えやすいところです。同時申請という形をとる関係で、片方だけが通らないという事態も避けたいので、不安があれば早めにご相談いただくのが安心です。
ご依頼の流れ
お問い合わせ
まずはお気軽に、お電話かお問い合わせフォームからお問い合わせください。お問い合わせの際に、リモート面談のご希望日時を3つほどご記入いただけますと幸いです。
初回リモート面談・ヒアリング
初回のリモート面談は無料です。現在の会社の状況と、移行後の商号・役員・目的などのご希望をお伺いしたうえで、手続の進め方をご説明します。面談の前に、御社の最新の定款、登記簿謄本、株主名簿をご用意いただけるとスムーズです。
ご依頼・ご契約
ご依頼いただける場合は、クラウドサインにて正式に契約を締結します。
ご捺印書類一式の作成及び発送
お伺いした内容をもとに、株主総会議事録や変更後の定款など、ご捺印書類一式を作成して本店の住所へお送りします。
ご捺印書類のご捺印及びご返送(お客様)
届いた書類にご捺印のうえ、ご返送いただきます。移行にあわせて新しく就任する役員がいる場合は、その方の印鑑証明書もあわせてお送りください。
登記申請
特例有限会社の解散の登記と、株式会社の設立の登記を、法務局へ同時に申請します。
完了書類一式の発送
登記の完了を確認したあと、お客様に代わって登記簿謄本を取得し、議事録を含む登記完了書類一式をご希望の住所へお送りします。
*完全オンライン申請の場合には、登記完了後の紙の謄本のみのご郵送となります。
当事務所の特徴
・代表司法書士が全ての手続きを担当
当事務所は、代表司法書士であるわたくしが全てのやりとりを担当させていただきます。一度説明したはずの内容を担当者が変わったがために、また説明しないといけないなどといった手間は一切発生しませんし、お問い合わせにもスピーディーに回答することができます。また、手続きを進めていく中で生じた疑問点などに関しましては、いつでも何度でも代表司法書士に直接ご相談いただけます。
・様々なツールでのご連絡が可能
メールや電話のみならず、ChatworkやSlackでのご連絡のやり取りも可能です。
*資料の共有やリモート相談などとの連携が容易なため、原則として上記のチャットツールでのやりとりをお願いしております。
・完全オンラインでの登記手続への対応が可能
代表取締役がマイナンバーカードをお持ちで署名用電子証明書のパスワードを失念されていないことが前提ではありますが、弊所からお送りするPDFデータに所定のアプリを利用し電子署名していただくことで、捺印書類の郵送のやりとりなく移行の登記手続を完了することも可能です。
完全オンラインでの登記申請手続に関する詳細については、こちらをご確認ください。
株式会社への移行登記の料金
料金は、移行にあわせて役員の交代があるか、資本金や目的の変更も一緒に行うかによって変わるため、着手前に定額でお見積りをお出しします。登録免許税(解散3万円・設立3万円〜)などの実費も、内訳でお示しします。
*登録免許税は、ご自身で手続をされた場合でもかかります。
対象地域
日本全国対応可能です!郵送やZoomを使用することで、直接面談することなく手続きを進められますので、関西圏以外の方からのご依頼でも別途交通費等の追加費用が生じることはございません。
よくある質問
司法書士からひと言
先代から引き継いだ有限会社をそのまま経営されている社長から、「今さら株式会社にする意味があるのか」というご相談をいただくことは珍しくありません。任期がなく決算公告もいらないという特例有限会社の利点は実務的にはかなり大きく、変える理由がなければ無理に変える必要はない、というのが率直な考えです。一方で、事業を譲る相手が見つかった、金融機関から言われた、といった具体的なきっかけがあるときは、早めに手続きを進めたほうが選択肢が広がります。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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