個人事業を続けながら、ひとりで小さな会社をつくって使い分ける、いわゆるマイクロ法人を検討したとき、登記の手間はどのくらいなのでしょうか? 結論から申し上げると、会社が小さいことによる特別扱いはなく、設立の登記もその後の変更登記も、大きな会社とまったく同じ手続きになります。本ブログでは、マイクロ法人をつくるときに登記の側で決めておくことと、つくった後に続く手続きについて、わかりやすく説明します。
マイクロ法人とは
マイクロ法人とは、代表者ひとり、あるいは家族だけで運営し、従業員を雇わず、規模を大きくすることを前提としない会社を指す通称で、会社法上の区分ではなく、実際につくるのは法人格を持つ普通の株式会社か合同会社です(会社法3条)。
この言葉が使われるのは、個人事業を残したまま別の事業を法人に持たせ、社会保険や税の負担を調整するという文脈がほとんどです。それが自分の場合に成り立つかどうかは、税理士と社会保険労務士、年金事務所が実態を見て判断する領域ですので、当事務所から有利不利は申し上げません。本ブログでは、器をつくる側、つまり登記の話に絞ってお話しします。
設立の手続きは普通の会社と同じ
株式会社をつくる場合は、発起人が定款を作成し、公証人の認証を受けなければ定款の効力が生じません(会社法30条1項)。設立の登録免許税は資本金の額の1000分の7で、最低額は15万円です(登録免許税法別表第一24号(1)イ)。ひとりでつくる会社でも、この金額は変わりません。
これに公証人の定款認証の手数料が加わります。手数料は資本金の額に応じて3万円から5万円ですが、2024年12月1日からは、発起人が3人以下の個人で、発起人が設立時発行株式の全部を引き受け、取締役会を置かない会社であれば1万5,000円に下がります。マイクロ法人は代表者ひとりで取締役会も置かないことがほとんどですから、この軽減が使える場合が多いはずです。
合同会社の定款には、株式会社のような公証人の認証の手続きがありません。社員が作成した定款のまま、本店の所在地で設立の登記をすることによって成立します(会社法579条)。登録免許税は同じく1000分の7で、最低額は6万円です(同ハ)。工程がひとつ少ないため、費用も日数も株式会社より軽くなります。
小さい会社ほど溜まりやすい変更登記
登記事項に変更が生じたときは、変更の日から2週間以内に登記を申請しなければならず(会社法915条1項)、ひとりの会社でもこの期限は同じようにかかります。代表者が引っ越したとき、本店を移したとき、事業の内容を広げたときが、その代表です。どの出来事にどの登記が必要になるかは「副業で法人が必要になるのはどんなとき?」で一覧にしています。
小さな会社で問題になりやすいのは、期限そのものよりも気づく仕組みがないことです。総務の担当者がいる会社では引っ越しや任期満了が誰かの目に留まりますが、自分ひとりの会社では誰も知らせてくれません。法律上は、登記を怠ると代表者個人が100万円以下の過料の対象になりえます(会社法976条1号)。実務では少し遅れた程度で過料の通知が届くことはほとんどなく、届くのは1年以上放置していたような場合が中心ですが、ひとりの会社ではその長い放置が起こりがちです。株式会社では、最後の登記から12年が経過するとみなし解散の対象にもなります(会社法472条1項)。
そこで効いてくるのが役員の任期です。株式会社の取締役には任期がありますが、全部の株式に譲渡制限のある非公開会社なら、定款で最長10年まで伸ばせます(会社法332条2項)。マイクロ法人はほぼ非公開会社ですから、設立のときに任期を10年にしておけば、役員変更の登記は10年に1回で済みます。合同会社には役員の任期という仕組み自体がないため、この登記はそもそも発生しません。
個人事業と法人で事業をどう分けるか
会社の目的は定款の絶対的記載事項で(会社法27条1号)、登記もされます(会社法911条3項)。個人事業と法人を使い分けるなら、どちらの事業を会社の目的として書くのかを、設立前に決めておく必要があります。
後から目的を増やすには変更登記が必要で、登録免許税は申請1件につき3万円です(登録免許税法別表第一24号(1)ツ)。許認可を取る予定があるなら、その事業が目的に入っていることが申請の前提になるため、順番を間違えると目的の変更登記を挟むことになります。目的の書き方そのものは「目的の変更登記とは?」で説明しています。
商号も先に決めることになりますが、同一の本店所在場所で同一の商号は登記できません(商業登記法27条)。個人事業の屋号をそのまま使うことが多いので、その屋号が商標として使われていないかも、あわせて確認しておくと安心です。
登記は実態を証明するものではない
登記は、会社が存在することとその内容を公示する手続きです。会社をつくったという事実は登記で証明できますが、そこで事業が行われている実態まで証明するものではありません。
社会保険の加入や税務の扱いは、登記の有無ではなく実態を見て判断されます。個人事業と法人をどう分けるか、役員報酬をどうするかという設計は、税理士と社会保険労務士に相談したうえで決めていただき、その結論に合う器を登記でつくる、という順番が確実です。器だけ先につくって後から実態を合わせにいく形だと、社会保険や税務の判断のときに登記の内容と実態のずれが問題になることがありますので、当事務所ではおすすめしていません。
株式会社と合同会社のどちらにするか
費用と手間だけを見れば合同会社が有利です。定款認証が不要で、登録免許税の最低額も6万円、役員の任期もありません。
登記の側からもうひとつお伝えしたいのが、住所の扱いです。2024年10月1日から代表取締役等住所非表示措置が使えるようになり、株式会社の代表取締役であれば、登記事項証明書に表示される住所を市区町村までにとどめることができます(商業登記規則31条の3)。一方、合同会社では代表社員の氏名及び住所が登記事項であり(会社法914条)、この措置の対象外です。ただし、自宅を本店にする場合は、本店の所在場所として自宅の住所がそのまま登記されます(会社法911条3項3号)。代表取締役の住所を非表示にしても、本店と同じ住所であることは推測されやすく、実効性はあまり期待できません。
自宅の住所を表に出したくないなら、まず本店を自宅以外に置けるかを考えます。そのうえで株式会社であれば、住所非表示措置によって代表取締役の住所も市区町村までにとどめられます。合同会社では、本店を自宅以外にしても、代表社員の住所は登記されます。
| 比べるところ | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 設立の登録免許税(最低額) | 15万円 | 6万円 |
| 公証人の定款認証 | 必要 | 不要 |
| 役員の任期 | あり(非公開会社は最長10年) | なし |
| 代表者の住所の非表示措置 | 使える | 使えない |
費用を優先するなら合同会社、自宅の住所をできるだけ表に出したくないなら「自宅以外の本店+株式会社の住所非表示措置」、というのが登記の側から見た分かれ目です。合同会社から株式会社への組織変更は後からでもできますが、そのときにも手続きと費用がかかります。
よくある質問
司法書士からひと言
「小さい会社だから登記は簡単ですよね」とお尋ねいただくことがありますが、登記の手続きに規模による違いはありません。むしろ、社内に総務の担当者がいないひとりの会社のほうが、引っ越しや任期満了の登記が後回しになりやすく、数年分が溜まってからご相談に来られる、というのが実際のところです。
使い分けの設計そのものは税理士や社会保険労務士の領域ですので、当事務所は器づくりに徹します。目的と商号、株式会社か合同会社かというところだけは、後から変えると費用がかかりますので、設立前にご相談ください。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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