副業を始めるとき、あるいは収入が増えてきたときに、「会社をつくったほうがいい」と言われて迷うことはないでしょうか? 法人でなければできない仕事は実際にありますが、その範囲は限られていて、多くの副業は個人事業のままでも始められます。分かれ目になるのは、許認可に法人であることが求められるか、複数人で始めるか、外部から出資を受けるか、将来だれかに引き継ぐかの4点です。本ブログでは、副業で法人が必要になる場面と、個人事業のままでよい場合の見分け方について、わかりやすく説明します。
法人とは
法人とは、法律によって権利や義務の主体になることを認められた存在のことで、会社は法人とされています(会社法3条)。個人事業との違いは売上や規模ではなく、事業の主体が自分自身なのか、自分とは別の人格なのかという点にあります。
契約を結ぶのも、口座を持つのも、許可を受けるのも、法人なら会社の名前で行い、個人事業なら自分の名前で行います。この違いが効いてくる場面があるかどうかが、法人をつくる必要があるかどうかの判断そのものです。どのくらいの所得なら法人が有利かという計算は税理士の領域ですので、本ブログでは法人格そのものが要るかどうかに絞ってお話しします。
法人でなければできない4つの場面
ひとつ目は、許認可に法人であることが求められる場合です。たとえば介護保険のサービスで指定を受けるには、原則として法人であることが要件とされています。。障害福祉のサービスにも同じ立て付けで法人要件が置かれています。
一方で、古物商のように個人でも許可を受けられるものは多く、「許認可が必要な仕事はすべて法人が前提」というわけではありません。受けたい仕事の許認可の要件を先に確認するのが確実です。個人・法人どちらの許可でも、同じ営業行為をすることができます。なお、代表取締役の個人名義の許可で、法人として古物営業を行うことはできません。あくまで、法人と個人は法的に別の存在だからです。
ふたつ目は、複数人で始める場合です。個人事業のまま2人で走り出すと、売上がどちらに帰属するのか、赤字をだれが負担するのか、抜けるときに何を清算するのかが決まらないまま進みます。法人にすれば、出資の割合と役員、利益の配分を最初に決めて、定款と登記に残すことができます。仲がよいうちに器を決めておくほうが、後の話し合いははるかに楽になります。
3つ目は、外部から出資を受ける場合です。個人事業には出資という形がなく、お金を入れてもらうなら借入か共同経営のどちらかになります。株式や持分という形で出資を受け入れられるのは法人だけです。
4つ目は、将来だれかに引き継ぐ、あるいは売る可能性がある場合です。個人事業は本人と事業が一体なので、譲るときには契約・許認可・口座をひとつずつ移し替える必要があり、本人が亡くなれば取引そのものが止まります。法人なら、株式や持分を渡せば事業の中身はそのまま動きます。副業で育てたものを家族や第三者に渡す構想があるのなら、早い段階で法人にしておく意味があります。
法人にしなくてよい仕事の見分け方
裏を返せば、ひとりで、自分の名前で完結する仕事であれば、法人をつくらなければできないことはほとんどありません。執筆や講師、受託の制作や開発などは、個人事業として始めて、必要になった時点で法人にするという順番でも十分に間に合います。
| 副業の状況 | 法人が必要かどうか |
|---|---|
| ひとりで、自分の名前で完結する仕事 | 個人事業のままで始められます |
| 介護・障害福祉など許認可に法人要件がある事業 | 原則として法人が必須です |
| 取引先から法人との契約を求められている | 事実上、法人が前提になります |
| 2人以上で出資して始める | 法人にしておくほうが安全です |
| 外部から出資を受ける予定がある | 法人(多くは株式会社)が前提です |
| 将来、家族や第三者に引き継ぐ構想がある | 法人のほうが移しやすくなります |
| 所得が増えたので税金を軽くしたい | 税理士の試算が先です |
取引先の求めは見落とされがちな条件です。会社の規模が大きくなるほど、購買の社内規程で個人事業主とは基本契約を結ばない運用になっていることがあり、その場合は法人でなければ話が前に進みません。声をかけてもらった段階で、法人であることが条件かどうかを確認しておくと、設立の時期を逆算できます。
会社員が副業で会社をつくるときに気をつけること
取締役の氏名は登記事項で(会社法911条3項13号)、代表取締役は氏名と住所が登記されます(同項14号)。合同会社でも、業務を執行する社員の氏名と、代表社員の氏名及び住所は登記事項です(会社法914条)。登記事項証明書はだれでも取得できますので、会社の役員になったことは、公開された情報になると考えてください。
2024年10月1日からは代表取締役等住所非表示措置が使えるようになり、株式会社の代表取締役であれば、登記事項証明書に表示される住所を市区町村までにとどめることができます(商業登記規則31条の3)。ただし、この措置は住所についてのもので、氏名を隠す仕組みはありません。そして対象は株式会社の代表取締役などに限られますので、合同会社の代表社員の住所は表示されたままになります。勤務先が副業を許可制にしているのなら、役員になれば公示されることを前提に、就業規則を先に確認しておくのが安全です。
誰かが証明書を取ると
| 登記記録の住所(例) | 証明書などでの表示 |
|---|---|
| 大阪市中央区北浜一丁目1番1号 北浜ビル501号 | 大阪市中央区(指定都市は区まで) |
| 東京都渋谷区神宮前一丁目2番3号 | 東京都渋谷区(東京都は特別区まで) |
| 兵庫県西宮市山手町4番5号 西宮ハイツ203号 | 兵庫県西宮市 |
もうひとつが社会保険です。法人は健康保険と厚生年金保険の強制適用事業所となり、役員報酬を出すかどうかによって扱いが変わります。本業の勤務先ですでに加入している場合の届出の要否もあわせて、設立前に年金事務所か社会保険労務士に確認しておくことをおすすめします。ここは専門分野が分かれるところですので、登記の側から断定はいたしません。
つくった後に続く登記と費用
会社は、つくった時点でいちばんお金がかかるわけではありません。設立の登録免許税は、株式会社が資本金の額の1000分の7で最低15万円(登録免許税法別表第一24号(1)イ)、合同会社が同じく1000分の7で最低6万円(同ハ)ですが、その後も登記事項が変わるたびに登記が必要になり、変更の日から2週間以内という期限がつきます(会社法915条1項)。
| 会社に起きたこと | 必要になる登記 |
|---|---|
| 代表取締役・代表社員が引っ越した | 住所の変更登記 |
| 役員の任期が満了した(株式会社) | 役員変更の登記 |
| 本店を移した | 本店移転の登記 |
| 事業の内容を広げた | 目的の変更登記 |
株式会社の取締役には任期がありますが、全部の株式に譲渡制限のある非公開会社なら、定款で最長10年まで伸ばすことができます(会社法332条2項)。副業でつくる会社はほぼ非公開会社ですから、任期を10年にしておくと役員変更の登記は10年に1回で済みます。期限を過ぎても、登記は申請できます。法律上は100万円以下の過料の対象になりえますが(会社法976条1号)、実務では少し遅れた程度で過料の通知が届くことはほとんどなく、届くのは1年以上放置していたような場合が中心です。ただ、最後の登記から12年が経過するとみなし解散の対象になります(会社法472条1項。この制度があるのは株式会社で、合同会社にはありません)。長く放置することだけは避けてください。
見落としやすいのは、たたむときのほうが手間がかかるという点です。解散と清算には登記が2回以上必要で、官報に債権者への公告も出します。赤字でも法人住民税の均等割と決算・申告の費用は続きますので、「とりあえずつくる」といちばん相性が悪いのが法人です。
いわゆるマイクロ法人をつくる場合
マイクロ法人とは、代表者ひとり、あるいは家族だけで運営し、従業員を雇わず、規模を大きくすることを前提としない小さな会社を指す通称です。会社法にこのような区分はなく、つくるのは普通の株式会社か合同会社で、設立の手続きも登記も、大きな会社とまったく同じです。
個人事業を残したまま別の事業を法人に持たせ、社会保険や税の負担を調整するという文脈で語られますが、それが自分の場合に成り立つかどうかは、税理士と社会保険労務士、年金事務所が実態を見て判断する領域です。登記の側から申し上げられるのは、会社が小さくても登記の義務と維持の費用は変わらないこと、個人事業と法人でどちらの事業を会社の目的にするかを設立前に決めておく必要があること、そして登記は会社があることを公示する手続きであって事業の実態まで証明するものではないことの3点です。詳しくは「マイクロ法人でも登記は必要?」で説明しています。
迷ったときに確認する順番
- 受けたい仕事の許認可や取引先の条件に、法人であることを求めるものがあるかを確認する
- 一緒に始める人がいるか、出資を受ける予定があるかを整理する
- どちらも当てはまらないなら、個人事業で始めて、必要になった時点で法人にする
- つくると決めたら、税理士に試算を依頼し、株式会社と合同会社のどちらにするかを選ぶ
1から3までは、専門家に頼まなくてもご自身で確認できます。法人化の損得の計算は税理士、設立の登記は司法書士と、相談先が分かれますので、「何を決めたいのか」をはっきりさせてから声をかけていただくと、遠回りになりません。
よくある質問
司法書士からひと言
副業の相談でいちばん多いのは、「法人にしないと仕事が受けられないのではないか」という不安から入ってこられるケースです。実際に伺ってみると、ひとりで完結する仕事で、しばらくは個人事業のままで問題がなかった、という結論になることも少なくありません。逆に、一緒にやる人がいるのに器を決めずに走っていた、というときは、早めに整えておいたほうがよいとお伝えしています。
会社をつくるかどうかは、税金の計算よりも先に「だれと、どこまでやるつもりか」で決まる部分があります。判断がつきかねるときは、決める前の段階でご相談いただいて構いません。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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