事務所やお店を引っ越すことになったとき、本店移転の登記はどうやって進めればよいのでしょうか? 結論から言うと、まず確認すべきは定款に本店の所在地をどこまで書いているかです。市区町村までしか書いていなければ、同じ市区町村内の移転は取締役会(または取締役の過半数)の決定だけで進められますが、番地まで書いている場合や市区町村をまたぐ移転では、株主総会の特別決議による定款変更が必要になります。さらに、移転先が同じ法務局の管轄内か管轄外かで、申請先や登録免許税、かかる期間も変わってきます。本ブログでは、本店移転の登記について、わかりやすく説明します。
本店移転登記とは
本店移転登記とは、本店の所在場所が登記事項であるため(会社法911条3項3号)、本店を移転したときにその変更を登記に反映させる手続きのことです。登記事項に変更が生じたときは、変更が生じた日から2週間以内に、その本店の所在地において変更の登記をしなければならないと定められています(会社法915条1項)。この「2週間」は移転を決めた日ではなく、実際に本店を移転した日(移転の効力が生じた日)が起算日になる点に注意が必要です。正当な理由なく登記を怠ると、登記を怠った取締役などが100万円以下の過料の対象になり得ます(会社法976条1号)。
定款変更が必要かどうかの分かれ目
本店移転でいちばんつまずきやすいのが、定款変更が必要かどうかの判断です。これは、定款に本店の所在地をどこまで具体的に書いているかで決まります。
多くの会社の定款は「当会社は、本店を大阪市に置く。」のように、最小行政区画(市区町村や、東京23区のような特別区)までしか書いていません。この書き方であれば、同じ市区町村内で移転する限り、定款そのものは変わらないため、株主総会を開いて定款を変更する必要はありません。取締役会を置かない会社では、取締役が2人以上いる場合、本店移転は取締役の過半数の一致で決めます(会社法348条2項)。取締役会を置く会社では、本店移転は重要な業務執行の決定に当たると解されており、取締役会の決議で行うのが実務上の扱いです(会社法362条4項)。
なお、定款変更が要らない同じ市区町村内の移転でも、あえて株主総会の決議で移転を決めることがあります。たとえば、取締役が複数いてその過半数の同意を得るのが難しい一方で、株主は1人またはごく少数で、同意を得やすいという会社です。取締役会を置かない会社では、株主総会は会社に関する一切の事項について決議できる、いわば万能の意思決定機関です(会社法295条1項)。そのため、具体的な移転先と移転日を株主総会の普通決議(会社法309条1項)で決め、その株主総会議事録と株主リストを添付して登記を申請することができます。これに対して、取締役会を置く会社の株主総会が決議できるのは、会社法に規定する事項と定款で定めた事項に限られます(会社法295条2項)。定款に特別の定めがない限り、取締役会の決議で移転を決めることになります。
一方、定款に番地まで具体的な所在地を書いている会社や、市区町村をまたいで移転する場合は、定款そのものを書き換える必要があるため、株主総会の特別決議による定款変更が必要になります(会社法466条、309条2項11号)。特別決議は、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要という、通常決議より重い要件です。自社の定款が本店所在地をどこまで書いているかは、この分かれ目を判断する最初の一歩になりますので、移転を決める前に必ず確認しておくことをおすすめします。
同一管轄内の移転と管轄外の移転で何が変わるか
本店移転は、移転先が同じ法務局の管轄内かどうかでも手続きが変わります。
申請先については、同一管轄内の移転であれば、移転後の本店所在地を管轄する法務局へ1件の申請で済みます。管轄外への移転では、移転前の本店所在地を管轄する法務局と、移転後の本店所在地を管轄する法務局それぞれに宛てた申請書を作成し、移転前の管轄の法務局へまとめて提出する経由申請というかたちを取ります。
登録免許税は、本店移転の登記1件につき3万円です(登録免許税法別表第一24号(1)ヲ)。同一管轄内の移転であれば申請は1件なので3万円で済みますが、管轄外への移転では移転前・移転後それぞれの管轄で登記が生じるため、3万円が2件分、合計6万円になります。
印鑑の取扱いも管轄外だけで変わる論点です。2025年4月の改正で、旧所在地の登記所が保管していた会社の印鑑の記録は移転の登記に合わせて新所在地の登記所へ引き継がれるようになりましたが、印鑑カードは引き継がれず、移転後に新所在地の法務局で改めて取得し直す必要があります。この印鑑まわりの手続きは別記事「管轄外への本店移転で印鑑届と印鑑カードはどうなる?」で詳しく説明していますので、管轄外への移転を予定している方はあわせてご覧ください。
登記完了までの期間は法務局の混雑状況によって変わりますが、同一管轄内の移転であれば申請からおおむね1〜2週間程度が目安です。管轄外への移転は、移転前の法務局を経由して書類が移転後の法務局へ回付される分、同一管轄内の移転より完了までに時間がかかる傾向があります。
旧所在地3万円 + 新所在地3万円
参考:国税庁・登録免許税の税額表
本店移転の手続きの流れ
- 取締役会(取締役会非設置会社は取締役の過半数)で本店移転を決定します。定款に番地まで所在地を書いている場合や市区町村をまたぐ移転の場合は、あわせて株主総会の特別決議による定款変更が必要です。
- 定款変更が必要な場合は、株主総会議事録と株主リストを準備し、定款の本店所在地の条項を書き換えます。
- 登記申請書を作成します。管轄外への移転では、移転前・移転後それぞれの管轄向けの申請書を用意します。
- 管轄外への移転では、印鑑の取扱い(印鑑カードの再取得など)を確認しておきます。
- 管轄の法務局へ登記を申請し、完了後に登記事項証明書を取得します。
必要書類
本店移転登記で準備する主な書類は次のとおりです。定款変更の要否や、取締役会の有無によって増減します。
- 株式会社本店移転登記申請書
- 取締役会議事録(取締役会設置会社で、具体的な移転先と移転日を決議したもの。定款変更の有無にかかわらず必要)
- 取締役の過半数の一致を証する書面(取締役会を置かない会社で、取締役が移転を決めた場合)
- 株主総会議事録・株主リスト(定款変更が必要な場合、または株主総会の決議で移転を決めた場合。商業登記規則61条3項)
- 登録免許税の納付用台紙(収入印紙を貼付)または電子納付の情報
- 委任状(司法書士に依頼する場合)
登記が終わったあとにやること
本店移転の登記が完了したら、それで終わりではありません。税務署へは異動届出書を、都道府県税事務所と市区町村へも異動の届出を出す必要があります。従業員を雇用している場合は、年金事務所への健康保険・厚生年金保険の適用事業所所在地変更届も欠かせません。建設業や宅地建物取引業など許認可を受けて営業している場合は、許認可を出している官庁への変更届が別途必要になることが多く、届出を怠ると許認可自体に影響することもあるため注意が必要です。そのほか、銀行口座や取引先への住所変更の通知、名刺やホームページの更新といった実務的な作業も、移転のタイミングでまとめて進めておくと後で困りません。
自分でできるか、司法書士に依頼したほうがよいか
同一管轄内で、定款変更が不要な移転であれば、必要書類も少なく、ご自身で申請することも十分可能です。正直に申し上げると、この場合は必ずしも司法書士に依頼する必要はないと考えています。それでも、書類の作成や押印、法務局への提出にかかる手間を省きたいという方には、スマホの電子署名で進められる定額のプランをご用意しています。詳しくは「完全オンラインの本店移転登記とは?」をご覧ください。
一方で、司法書士に依頼したほうがよい分かれ目もあります。まず、定款の本店所在地の書き方から定款変更の要否を自分で判断するのが不安な場合です。管轄外への移転で経由申請の実務に不慣れな場合や、印鑑カードの再取得まで含めたスケジュール管理が煩雑に感じる場合も同様です。また、本店移転とあわせて役員変更や目的変更など他の変更登記を同時に申請したい場合、許認可の更新時期が近く手続きのタイミングがシビアな場合は、判断が絡む部分が増えるため、早めにご相談いただくと安心です。
ご依頼の流れ
- お問い合わせ(フォームから)と、初回リモート面談・ヒアリング(30分無料)
- ご依頼・ご契約、定款変更の要否の確認、必要書類のご案内
- 議事録・定款変更案など、ご捺印書類一式の発送・ご返送
- 登記申請、管轄外の場合は印鑑カードの再取得の手配
- 登記完了後の登記事項証明書の取得と、完了書類一式の発送
登記の申請から完了までは、管轄の法務局や時期にもよりますが1〜2週間程度が目安です。移転日が決まっている場合は、ご相談の際にお知らせください。
当事務所の特徴
代表司法書士が全ての手続きを担当しますので、担当者が変わって同じ説明を繰り返していただくことがなく、スピーディーに対応できます。ご連絡はメール・電話のほか、ChatworkやSlackでのやり取りも可能です。マイナンバーカードと署名用電子証明書のパスワードをお持ちの方であれば、完全オンラインでの登記手続にも対応しています。
本店移転登記の料金
| 費用項目 | 内容(税込) |
|---|---|
| 司法書士報酬 | 70,000円 |
| 登録免許税(実費) | 同一管轄内:3万円/管轄外:6万円(登録免許税法別表第一24号(1)ヲ) |
| 郵送での登記事項証明書の取得費用(実費) | 520円 |
定款変更をともなう場合や、他の変更登記を同時に申請する場合は、別途お見積りいたします。初回のリモート相談(30分)は無料です。
対象地域
日本全国対応可能です!郵送やZoomを使用することで、直接面談することなく手続きを進められますので、関西圏以外の方からのご依頼でも別途交通費等の追加費用が生じることはございません。
よくある質問
司法書士からひと言
事務所の引っ越しが決まると、什器の手配や取引先への案内で頭がいっぱいになり、登記のことは後回しになりがちです。ご相談を受けていると、定款の本店所在地の書き方まで意識されている方は少なく、「市内の引っ越しなのに株主総会が必要と言われた」「逆に、簡単な移転なのに大掛かりな準備をしてしまった」という行き違いが起きやすい印象があります。まずは今の定款がどこまで書いているかを確認するところから、落ち着いて進めていただければと思います。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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