就任承諾書を株主総会議事録で援用するとき、議事録に誰の実印が要る? 取締役会の有無で変わる結論

就任承諾書を株主総会議事録で援用するとき、議事録に誰の実印が要る? 取締役会の有無で変わる結論

役員変更登記では、新しく取締役になる人の就任承諾書を添付する代わりに、株主総会議事録に「席上で就任を承諾した」と書いておき、申請書で議事録の記載を援用する方法がよく使われます。このとき、議事録には誰のどの印鑑を押してもらえばよいのでしょうか? 新任の取締役ご本人に個人の実印を押してもらい、印鑑証明書まで用意するべきなのか、それとも会社の実印だけで足りるのか、迷う場面です。議事録に新任者の個人実印と印鑑証明書が要るかどうかは、その会社が取締役会設置会社か、取締役会を置かない会社かで決まります。取締役会設置会社の平取締役であれば、押印そのものが不要です。本ブログでは、就任承諾書を株主総会議事録で援用するときの印鑑と印鑑証明書、そして見落としやすい議事録の記載について、わかりやすく説明します。

目次

就任承諾書の援用とは

就任承諾書の援用とは、取締役の就任による変更登記の申請書に添付する「就任を承諾したことを証する書面」(商業登記法54条1項)を別に作らず、株主総会議事録の記載でその代わりとする方法です。取締役に選任された人がその株主総会に出席していて、議事録に「被選任者は席上で就任を承諾した」という趣旨の記載があれば、登記実務では議事録を就任承諾書として扱ってもらえます。申請書の添付書面の欄には「就任承諾書は株主総会議事録の記載を援用する」と書きます。

書類が1枚減るので便利な方法ですが、就任承諾書に本来ついてくるはずの印鑑証明書や本人確認証明書の話が、議事録の側に引っ越してくる点に注意が必要です。就任承諾書を1枚の書面として作るときに「誰の実印を押して、何を添付するか」を考えるのと同じ整理を、議事録に対して行うことになります。

議事録に押す印鑑を決めているのは商業登記規則61条

議事録に誰の印鑑が要るかは、商業登記規則61条の4項から7項までの組み立てで決まります。まず4項の後段が、取締役の就任(再任を除く)による変更登記では、取締役が就任を承諾したことを証する書面に押した印鑑について、市区町村長が作成した印鑑証明書を添付するよう定めています。ここでいう「押した印鑑」は本人の個人実印を指すので、援用する議事録には新任の取締役本人が個人実印を押すことになります。

次に5項が、取締役会設置会社についてはこの4項の「取締役」を「代表取締役又は代表執行役」に読み替えると定めています。この読み替えによって、取締役会設置会社の平取締役は4項の対象から外れます。

6項は代表取締役を定めた場面の規定です。株主総会の決議で代表取締役を定めた場合は、議長と出席した取締役が株主総会議事録に押した印鑑について(6項1号)、取締役会の決議で選定した場合は、出席した取締役と監査役が取締役会議事録に押した印鑑について(6項3号)、それぞれ印鑑証明書を添付します。ただし、その印鑑が変更前の代表取締役(取締役を兼ねている場合に限ります)が法務局に届け出ている印鑑(会社実印)と同じであれば、添付は不要です。

最後に7項が、取締役・監査役・執行役の就任(再任を除く)による変更登記には、就任承諾書に書かれた氏名と住所と同じ氏名・住所が記載された本人確認証明書(運転免許証の写しや住民票など)を添付するよう定めています。ただし書きがあり、4項または6項によって印鑑証明書を添付するときは本人確認証明書は要りません。

結論は3パターンに分かれる

この4つの項を当てはめると、援用する議事録に必要なものは次の3パターンに整理できます。

会社の形態と就任する役職議事録に押す印鑑添付する証明書
取締役会を置かない会社の取締役(新任)本人の個人実印本人の印鑑証明書(規則61条4項)
取締役会設置会社の平取締役(新任)押印不要本人確認証明書(規則61条7項)
取締役会設置会社の代表取締役(新任)本人の個人実印本人の印鑑証明書(規則61条4項・5項)。取締役会で選定した場合は取締役会議事録にも印鑑証明書(規則61条6項3号)

ひとつ目は、取締役会を置かない会社の取締役です。4項がそのまま適用されるので、新任の取締役本人が議事録に個人実印を押し、その印鑑証明書を添付します。同じ株主総会で代表取締役も定めたときは、6項1号によって議長と出席取締役の押印についても印鑑証明書が必要になりますが、会社実印を押していれば添付は不要です。

ふたつ目は、取締役会設置会社の平取締役です。5項の読み替えで4項の対象から外れるため、印鑑証明書は要りません。さらに、印鑑証明書を添付しない就任承諾書には押印そのものが求められないので、議事録に新任者の署名や押印がなくても援用できます(この場合には、弊所では、出席していたことを明らかにするため、議事録の出席取締役の欄に「取締役候補者」として新任者の名前を記載しています)。法務省が公表している「申請書、各添付書面等の押印の要否について(商業・法人登記)」でも、規則61条4項・5項が適用されない取締役等の就任承諾書は押印不要とされています。新任であれば、代わりに7項の本人確認証明書を添付します。

みっつ目は、取締役会設置会社の代表取締役です。5項の読み替えによって代表取締役が4項の対象になるので、就任承諾書に個人実印を押し、印鑑証明書を添付します。取締役として新任で、同時に取締役会で代表取締役に選定された場合は、取締役の就任承諾と代表取締役の就任承諾をそれぞれ確かめることになり、取締役会議事録の側にも6項3号の印鑑証明書(出席した取締役と監査役の押印分。会社実印と同じなら不要)が必要です。

見落としやすいのは「住所」の記載

印鑑の話と同じくらい大切なのに見落としやすいのが、新任者の住所です。7項は、本人確認証明書に記載された氏名・住所が就任承諾書に記載された氏名・住所と同一であることを求めています。援用する場合の就任承諾書は議事録そのものですから、議事録に新任者の氏名しか書かれていないと、住所を突き合わせる相手がなく、本人確認証明書を添付しても援用が成り立ちません。

取締役会設置会社の平取締役は押印不要という結論だけを覚えていると、この住所の要件が抜け落ちます。議事録に住所が無いことに気づいたときも、実印をもらい直す話ではありません。氏名と住所を書いた就任承諾書を新任者から1枚もらえば足り、取締役会設置会社の平取締役であればその承諾書にも実印は要りません。押印済みの議事録を作り直したり、株主全員にもう一度署名をお願いしたりする手間をかける前に、設置形態と住所記載の2点を確かめるのが順番です。

住所を議事録に載せるか、就任承諾書を別に作るか

議事録に新任者の住所を書いておけば、就任承諾書を別に作る必要がなく、新任者から取り付ける書類も少なくて済みます。株主が身内に限られる中小企業で、議事録に住所が載っても差し支えがないのであれば、そのまま議事録に住所を入れて援用するのがいちばん簡便です。

一方で、株主総会議事録は本店に10年間備え置かれ、株主や債権者から閲覧や謄写を求められることがある書類です(会社法318条2項・4項)。株主の多い比較的大きな会社や、女性が役員に就任する場面などでは、自宅の住所が議事録に残ることに、ご本人や会社が抵抗を感じることもあります。議事録に住所を載せることに抵抗があるときは、議事録には氏名だけを書き、氏名と住所を記載した就任承諾書を別に取り付けます。当事務所でも、そうした場合は就任承諾書を1枚用意し、新任者ご本人に署名押印をいただくことがあります。取締役会設置会社の平取締役であれば押印は法令上求められていませんが、取締役会を置かない会社の取締役や代表取締役であれば、この承諾書に個人実印を押して印鑑証明書を添付します。

援用するときに準備するもの

取締役の就任登記で議事録を援用するときに、そろえておくものは次のとおりです。変更登記は就任の日から2週間以内に申請します(会社法915条1項)。

  • 株主総会議事録(新任者が席上で就任を承諾した旨、新任者の氏名と住所を記載。取締役会を置かない会社では新任者本人の個人実印を押印)
  • 新任者の印鑑証明書(取締役会を置かない会社の取締役と、取締役会設置会社の代表取締役)
  • 新任者の本人確認証明書(取締役会設置会社の平取締役。運転免許証の写し、住民票など)
  • 取締役会議事録(取締役会設置会社で代表取締役を選定した場合。出席した取締役と監査役の押印。会社実印以外を押した場合はその印鑑証明書)
  • 株主リスト(商業登記規則61条3項)
  • 委任状(司法書士に依頼する場合)

株主総会議事録そのものには、会社法上の署名や押印の義務はありません(記載事項は会社法施行規則72条)。定款で議長や出席取締役の署名または記名押印を定めている会社が多いので、その定めがあればそれに従い、あわせて登記の側で必要になる印鑑を上の整理で足していく、という考え方になります。

よくある質問

取締役会設置会社の平取締役なら、就任承諾書自体を作らなくてよいということですか?

就任を承諾したことを証する書面は必ず必要です(商業登記法54条1項)。議事録に「席上で就任を承諾した」旨と氏名・住所が書かれていれば、その議事録が承諾書の役割を果たすので、別の書面を作らなくてよいという意味です。議事録に住所が無いときや、議事録に住所を載せたくないときは、氏名と住所を書いた就任承諾書を1枚もらってください。押印は不要です。

再任(重任)のときも議事録に実印が要りますか?

要りません。規則61条4項と7項はいずれも「再任を除く」と定めているので、任期満了と同時に再び選任された取締役については、印鑑証明書も本人確認証明書も添付しません。議事録に席上で就任を承諾した旨があれば援用できます。

監査役が新しく就任するときはどうなりますか?

監査役は規則61条4項の対象ではないので、取締役会の有無にかかわらず印鑑証明書は不要です。新任であれば7項の本人確認証明書を添付するので、議事録を援用するなら監査役の氏名と住所の記載が必要になります。押印は求められません。

司法書士からひと言

議事録の署名欄に新任者の名前が無いのを見て、「実印をもらい直さないと」と身構えてしまう場面は、実務では珍しくありません。その会社が取締役会設置会社であれば、平取締役の押印は最初から要らないので、慌てて捺印をやり直す必要はないのです。わたしが議事録を援用するときに最初に確かめるのは、印鑑ではなく「取締役会があるか」と「住所が書いてあるか」の2点です。そのうえで、議事録に住所を載せて差し支えないかを会社とご本人に確かめます。問題がなければ議事録に住所を入れて書類を減らし、抵抗があれば就任承諾書を別に取り付ける、という使い分けです。

司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)


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この記事を書いた人

石本 憲史のアバター 石本 憲史 司法書士・スタートアップデザイナー®

大阪・北浜で「いしもと司法書士事務所(ISHIMOTO Legal)」を運営する司法書士です。
スタートアップの資金調達にともなう商業登記(種類株式・J-KISS・新株予約権・第三者割当増資)と、定款や株主間契約まわりの設計を専門にしています。
AIを日々の業務に組み込んでいる司法書士として、同業の士業向けにAI活用の顧問サービスやセミナーも行っています。
大阪司法書士会 東支部所属(登録番号 大阪第4973号)/簡裁訴訟代理等関係業務認定(第1201092号)
所属団体:BAMBOO INCUBATOR、smartroundパートナー

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