「遺言は書いたけれど、実際の手続は誰に頼めばよいのだろう」。遺言執行者は、遺言の内容を実現するための手続を担う人です。自社株が含まれるときは、家族からの信頼に加え、会社の資料や承継の流れを理解できるかも選ぶ視点になります。
遺言執行者とは
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理や遺言の執行に必要な行為をする権利義務を持つ人です(民法1012条)。遺言で1人または複数人を指定することができます(民法1006条)。
指定された人が就任を承諾したら、直ちに任務を行い、遺言の内容を相続人に通知します(民法1007条)。財産目録を作って相続人へ交付することも仕事に含まれます(民法1011条)。
単に「遺言書を預かる人」というわけではありません。また、特定の相続人の希望を代わりに通す役目でもありません。遺言に沿って必要な手続を進める立場であることを、頼む側と頼まれる側で共有しておきましょう。
家族に頼むことも、専門家に頼むこともできる
未成年者と破産者は遺言執行者になれません(民法1009条)。それ以外の人であれば、家族であることだけを理由に就任できないわけではなく、相続人自身が担うこともできます。
たとえば、会社を継ぐ子に頼むと、会社の資料を把握している点が役立つかもしれません。一方、その子が多くの株式を取得する遺言であれば、ほかの相続人への説明に気を配る必要があります。仕事と相続手続を同時に進められるかという負担の確認も必要です。
専門家を候補にする場合は、弁護士や信託銀行などに、遺言の内容を示して受任の可否を尋ねます。非上場株式を含む遺言を扱うか、どこまで業務に含まれるかは、依頼先によって異なります。
| 候補 | 事前に確認したいこと |
|---|---|
| 家族・後継者 | 手続の時間を確保できるか、ほかの相続人へ説明できるか |
| 弁護士等の専門家 | 株式を含む相続への対応、紛争対応との業務の区分 |
| 信託銀行等の法人 | 非上場株式の取扱い、契約条件、費用、対象外の財産 |
肩書だけで決めるのではなく、実際に予定している遺言を引き受けてもらえるかを確かめることが大切です。候補者には生前に相談しておきましょう。
尋ね方の例です。「非上場の株式会社〇〇の株式を含む遺言です。株主名簿の名義書換えに必要な手続は、依頼する業務に含まれますか。対象外なら、どこまで進めていただけますか」。文案を見せ、自社株があることを具体的に伝えます。
会社側が対応する書類、株式評価、役員変更登記についても、誰が担当するかを聞いておきます。「相続手続一式」という見積りの表題だけでは、自社株について引き受けてもらえる範囲は分かりません。対応できる部分と別途依頼する部分を、具体的な言葉にしておくことが大切です。
文例:遺言執行者を指定する一文
候補者に引受けの可否や業務の範囲を確認したうえで、遺言の中に次のような指定を置くことが考えられます(民法1006条)。
遺言者は、本遺言の遺言執行者として、〇〇〇〇(〇年〇月〇日生、住所:〇〇)を指定する。
これは指定条項の一部であり、遺言書全体の書式ではありません。指定したことと、候補者が就任を承諾することは別です。候補者の事情が変わることもあるため、見直し時に引き受けられるかを確認します。会社の代表権や、家族間の紛争を代理する権限まで、この一文で与えるものではありません。
自社株がある場合に確認したい3つのこと
ひとつ目は、会社と個人の財産を区別できることです。社長名義の自社株、社長から会社への貸付金、会社名義の預金では、権利関係が異なります。会社の財産まで社長の遺産として処分することはできません。
ふたつ目は、定款と株主名簿を確認できることです。自社株を誰が何株取得するか、譲渡承認が問題になる渡し方か、株主名簿の手続はどう進めるかを整理します。遺言執行者の具体的な権限も、遺言の内容と民法1014条などの規定に照らして確認します。
みっつ目は、家族と会社に対して、役割を区別して説明できることです。遺言執行者になったからといって、会社の代表取締役になったり、会社の預金を自由に動かしたりできるわけではありません。新しい役員の選任や代表者の決定は、会社法と定款に従う別の手続です。
社長が唯一の取締役だった場合は、相続手続と並行して会社の機関を整える必要があります。遺言執行者に頼む仕事と、後継者や会社が行う仕事を事前に整理しておくと、相続後の連絡先も分かりやすくなります。
費用と仕事の範囲を、指定する前に確認する
報酬は、遺言で定める場合があり、定めがない場合には家庭裁判所が相続財産の状況などを踏まえて定める制度があります(民法1018条)。専門家や法人へ依頼するなら、契約上の費用と遺言の記載を整合させます。
見積りを確認するときは、基本報酬のほか、財産の価額に応じた報酬、実費、別の専門家への依頼費用が含まれるかを確認します。非上場株式の評価や会社の登記まで、ひとつの料金に当然に含まれるとは限りません。
また、依頼から実際の執行まで長い時間が空くこともあります。候補者が高齢になったり、業務を続けられなくなったりする場合を考え、遺言の見直し時には候補者の状況も確認します。
遺言と一緒に、資料の所在も伝えておく
遺言書に書く法的な内容とは別に、会社の資料の所在や連絡先を整理しておくと、手続に取りかかりやすくなります。定款・株主名簿をどこで管理しているか、顧問税理士の先生や会社の担当者へどう連絡するか、といった情報です。
ただし、こうした情報メモで、遺言に記載した財産の配分を変更することはできません。財産や後継者の予定が変わった場合は、遺言自体の見直しも検討してください。資料の保管と、遺言の内容をそれぞれ整えることが必要です。
よくある質問
司法書士からひと言
遺言執行者をお願いするときは、文例に名前を入れる前に、候補者へ引き受けてもらえるかを確かめてください。当事務所では執行者の受任はしていませんが、遺言の文案づくりや、自社株に関わる会社の資料の確認をご相談いただけます。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
ご依頼・相談受付
ご依頼は下記のフォームから受付けております。
お気軽にご連絡ください。
