「会社を継ぐ子に、いま株を渡すべきか。それとも遺言で残せばよいのか」と迷っていませんか? 自社株を渡す方法は、税負担だけでなく、議決権をいつ移すか、後継者が経営を担えるかによっても変わります。
遺言による承継と、生前の承継とは
遺言による承継とは、遺言に自社株を渡す相手などを定め、原則として遺言者が亡くなったときに効力を生じさせる方法です(民法985条)。遺言を書いた時点で、株式が後継者に移るわけではありません。
生前の承継には、贈与や売買などの方法があります。贈与は無償で財産を与える合意、売買は代金と引き換えに財産権を移す合意です(民法549条・555条)。株式を渡す時期や条件を契約で定め、必要な会社の手続も行います。
遺言は所定の方式に従って撤回できますが(民法1022条)、実行した贈与や売買は、遺言を書き直すように自由に戻せるものではありません。
まず決めたいのは、議決権をいつ渡すか
自社株は財産であると同時に、株主総会で意思決定をするための基礎でもあります。普通株式を後継者へ渡すなら、通常はその株式に伴う議決権も移ることを考えなければなりません。
| 考えること | 遺言で渡す場合 | 生前に渡す場合 |
|---|---|---|
| 株式の承継時期 | 原則として死亡時 | 契約で定めた時期など |
| 生前の議決権 | 原則として本人が保有 | 渡した株式の議決権は取得者へ |
| 後継者との確認 | 将来に向けた準備 | 生前に手続を実行して確認できる |
| 予定を変えたい場合 | 遺言の見直しを検討 | 実行した取引を前提に再検討 |
たとえば、普通株式100株をすべて持つ親が、60株を子に贈与し、40株を自分に残す予定だとします。すべて1株1議決権で、ほかに株主がいない例なら、実行後は親40個、子60個の議決権です。税負担を比べるのとあわせて、この実行前後の数字を確かめます。
親が引き続き社長を務めるとしても、株主総会で決められる範囲は今までと変わります。議案によって必要な賛成数は違うため、60株を渡せば何でも子が単独で決められる、という意味ではありません。顧問税理士の先生には同じ60株の移転として税負担を尋ね、法務ではその後の議決権を見ます。
社長を交代する手続と、株式を渡す手続は別です。株を渡しただけでは代表取締役は変わりませんし、社長を交代しただけで株式が後継者のものになるわけでもありません。後継者の役割と議決権の配分を、時期を含めてそろえて考えます。
顧問税理士の先生には、同じ前提で比較をお願いする
税務を比較するときは、「遺言か贈与か」と方法の名前だけで聞くより、株式の種類と数、現在の株価、渡す時期、相手、売買なら代金と支払方法まで整理して相談すると話が具体的になります。
個人から贈与で財産を取得すると、贈与税の検討が必要になります。税額や申告の要否は、適用する制度やほかの贈与などにも左右されます。基本的な対象は国税庁「贈与税がかかる場合」で案内されています。
売買なら贈与税の問題が一切なくなる、とも限りません。価格の決め方や当事者の関係による税務上の扱い、売る側の税金、買う側の資金を確認します。非上場株式には市場価格がないことが多いため、家族で合意した金額だけで判断しないことが大切です。
事業承継に関する税制を検討する場合も、対象となる会社や後継者、期限、その後も継続して満たす条件などがあります。「制度があるから税負担はなくなる」と結論を急がず、実行できる計画として確認してください。
法務では、定款・契約・株主名簿を確認する
生前に譲渡制限株式を贈与や売買で渡す場合は、会社の承認が原則として必要です(会社法136条)。「親から子へ渡すだけ」でも、会社の手続を省いてよいとは限りません。
承認機関は原則として株主総会、取締役会設置会社では取締役会ですが、定款に別の定めがある場合があります(会社法139条1項)。実行する前に、現在有効な定款を確認します。
贈与・売買の契約書、必要な会社の決議、株主名簿の書換えを整理し、株券発行会社なら株券の取扱いも確認します。株主の交代だけでは通常、株式会社の変更登記はしませんが、役員や種類株式の内容を変える場合には別に登記を検討します。
遺言で渡す場合も、相続か特定遺贈かなどによって承認の扱いが変わります。生前の贈与と遺言の文案で、同じ株式について異なる予定を書いていないかも確認しましょう。
一部を生前に渡すなら、残す株式にも備える
株式を一度に全部渡す以外に、一部を生前に承継し、残りを後で検討することも考えられます。ただし、途中の段階で誰が何割の議決権を持ち、会社の決議をどのように行うかまで確認する必要があります。
生前に一部を渡しても、残った株式について遺言が不要になるわけではありません。また、生前贈与も時期や内容によって遺留分の計算に関係します。家族への財産配分と、残す株式の承継先も合わせて整理します。
もうひとつ、遺言は生前の判断能力の低下への対策にはなりません。遺言で渡す予定でも、本人が生前に株主として意思表示できなくなった場合の会社運営は別に考える必要があります。どの方法を選んでも、死亡時だけを見るのではなく、その前の期間も含めて計画しましょう。
よくある質問
司法書士からひと言
株を渡す時期を考えるときは、「社長は続けたいが、株は先に渡したい」といった希望も率直にお聞かせください。税負担は顧問税理士の先生に確認していただき、当事務所では定款や議決権、遺言の文案、必要な登記を確認します。希望する経営の引継ぎ方に、書類を合わせていきましょう。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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