「もし創業社長が亡くなったら、投資家が入っている会社の株式や経営権はどうなるのでしょうか」。資金調達を終えた会社でも、先に確認しておきたい問いです。創業者本人の株式の相続と、会社・投資家との契約、次の代表者を決める手続は、それぞれ確認する必要があります。
創業者の株式の相続とは
創業者の株式の相続とは、創業者が個人として所有していた株式を相続人などが承継することです。相続人は、原則として被相続人の財産に属する権利義務を承継しますが、本人に一身専属のものは除かれます(民法896条)。遺言の有無や内容によって、株式を取得する人やその後の手続は変わります。
創業者が亡くなっても、投資家が所有している株式まで相続の対象になるわけではありません。死亡したという理由だけで投資家の持株比率が増えたり、創業者の株式がすべて投資家のものになったりするわけでもありません。
まずは、どの株式を誰が持っているかを株主名簿で確認します。優先株式や新株予約権がある場合は、それぞれの内容が分かる資料も必要です。
最初に開くのは、定款と契約書
投資家がいる会社では、会社法の一般的な相続のルールだけで判断できない場面があります。定款のほか、投資契約や株主間契約に、創業者の死亡、退任、株式の移転などに関する定めがないかを確認します。
| 確認する資料 | 主に見ること |
|---|---|
| 株主名簿 | 創業者と投資家が持つ株式の種類・数 |
| 定款 | 譲渡制限、種類株式、相続人への売渡請求の定め |
| 投資契約・株主間契約 | 死亡時の通知、株式の扱い、同意が必要な事項 |
| 遺言書 | 創業者の株式を取得する人、執行の定め |
| 登記事項証明書 | 役員構成、代表者、登記された株式の内容 |
契約書の表題よりも、誰が当事者になっているかが大切です。会社だけが負う義務と、創業者個人が負う義務では、死亡後に検討する内容が変わります。
契約書を読むときは、死亡に触れた1条だけを切り取らず、「誰が通知するか」「いつまでか」「誰に、どの方法で送るか」を続けて探します。たとえば本文に「会社は投資家に通知する」とあり、末尾の別紙で通知先や方法を指定している契約なら、その別紙も必要です。
「主要株主」や「キーパーソン」が誰を指すかは、冒頭の定義欄に書かれている場合があります。創業者の名前が本文の該当箇所に見当たらないから無関係、とは判断できません。追加合意や変更契約もそろえ、最終的にどの条項が適用されるかを、定義と署名欄まで戻って読みます。
「死亡したら契約は無効」「全株を買い取れる」とは決めない
創業者が契約当事者であっても、その死亡によって投資契約全体が当然に無効になるわけではありません。相続される権利義務か、本人に固有の義務か、死亡を条件とする条項があるかを、契約の文言と適用される法律から確認します。
株式の買取りに関する条項があった場合も、対象者、発動する条件、買取価格の決め方、請求する期限などが問題になります。「死亡」という事情が条項の対象に含まれるのか、誰が請求権を持つのかを、実際の契約書で確かめる必要があります。
定款に、相続で譲渡制限株式を取得した人に対して会社が売渡しを請求できる旨を定める仕組みもあります(会社法174条)。ただし、これは個別の投資契約にある買取条項とは別の制度で、定款に書いてあるだけで株式が自動的に会社へ移るわけではありません。
買取請求や契約義務の承継で当事者の意見が分かれる場合は、契約書一式をそろえて弁護士にご相談ください。相続人や投資家のどちらかが、一般論だけで結論を決めて進めないことが大切です。
株主総会で誰が議決権を行使するか
遺言などで株式の取得者が決まっておらず、創業者の株式を複数の相続人が共同相続した場合、権利を行使する人を1人定めて会社に通知するのが原則です(会社法106条)。家族のうち会社に詳しい人が、自動的にすべての議決権を行使できるわけではありません。
たとえば、創業者が議決権の過半数を持っていたという仮の例では、その株式の権利行使を整理しないと、予定する議案を決議できない場合があります。投資家側の議決権だけで決められるかどうかも、株式の種類、定款、議案ごとの決議要件によって変わります。
一方、投資家の契約上の同意と、株主総会の決議は同じものではありません。契約上は同意を得たものの、会社法上の決議が不足しているということがないよう、両方を照合します。
後任代表者の選任と登記は別に進める
創業者が代表取締役でもあった場合は、株式の承継と並行して、会社を代表する人を確認します。取締役の地位は相続されず、後継者を取締役にするには選任と就任承諾が必要です(会社法329条1項・330条)。代表取締役の選び方は、取締役会の有無などによって変わります(同法349条・362条)。
死亡による退任や新たな役員の就任など、登記事項に変更が生じたときは、原則として変更の日から2週間以内に変更登記を申請します(会社法915条1項)。相続の話し合いが終わるまで、会社側の手続をすべて待てるわけではありません。
投資家が取締役を派遣している会社でも、その方が当然に新しい代表者になるわけではありません。会社の機関設計と実際の役員構成を確認し、必要な決議と契約上の同意を整理します。
よくある質問
司法書士からひと言
投資を受けた会社の経営者が遺言を考えるなら、設立時の定款だけでなく、その後の資金調達で作った書類も見ておきたいところです。自社株の承継や役員変更登記についてご相談の際は、現在の株主名簿と契約書の所在もお知らせください。契約をめぐる対立がある場合は、弁護士への相談も必要になります。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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