「会社の株を長男に遺贈する」と書けば、希望どおりに引き継げるのでしょうか? 譲渡制限のある株式では、相続による承継か、遺贈による承継かによって、会社の承認の扱いが変わります。遺贈にも種類があるため、言葉だけを置き換えてよいわけではありません。
「相続させる」と「遺贈する」とは
「相続させる」とは、相続人に財産を相続で引き継がせる趣旨で使う表現です。たとえば、相続人である子に自社株を取得させたい場合が考えられます。従業員など、相続人ではない人にそのまま使う表現ではありません。
遺贈とは、遺言によって財産を無償で与えることです(民法964条)。相続人以外の人にも、相続人にも行うことができます。遺贈する相手を「受遺者」といいます。
さらに、遺贈は「特定遺贈」と「包括遺贈」に分かれます。特定遺贈は「この会社の株式」のように財産を特定して渡すもの、包括遺贈は「全財産」や「遺産の2分の1」のように財産全体または割合で渡すものです。包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有するため、債務の承継にも目を向ける必要があります(民法990条)。
譲渡制限株式では、承継の方法が分かれ目になる
同族会社の株式には、譲渡で取得する場合に会社の承認を要する旨が定款に定められていることがあります。これが譲渡制限株式です。
相続は、原則としてこの譲渡承認の対象になりません。包括遺贈も一般承継に当たり、同様に扱われます。一方、特定遺贈によって取得した譲渡制限株式については、原則として会社の承認が問題になります(会社法134条・137条)。
| 株式を渡す方法 | 会社の譲渡承認の扱い |
|---|---|
| 相続人に「相続させる」 | 相続としての承継であれば原則不要 |
| 財産全体や割合を指定する包括遺贈 | 一般承継として原則不要 |
| 自社株を指定する特定遺贈 | 相手が相続人でも原則必要 |
ここで気をつけたいのが、相手の身分だけでは決まらないことです。「長男だから承認は不要」とは限りません。相続人への遺言であっても、その内容が特定遺贈であれば、特定遺贈として扱う必要があります。
ただし、遺言の解釈は全文や作成の事情を踏まえて行われます。「遺贈する」と書いてある一語だけで、必ず特定遺贈だと断定することも適切ではありません。承認が必要な場合も、会社に対する関係と当事者間の効力を分けて考えます。承認がないことを、遺言全体が無効になることと混同しないようにしましょう。
文例:「相続させる」と、特定の株式を「遺贈する」
相続人となる長女へ、本人が持つ普通株式を相続で渡す場合の例です。
遺言者は、遺言者が死亡時に所有する株式会社〇〇(本店:〇〇)の普通株式の全部を、長女〇〇〇〇(〇年〇月〇日生)に相続させる。
相続人ではない従業員へ、同じ株式を特定遺贈するなら、たとえば次のように書き分けます。
遺言者は、遺言者が死亡時に所有する株式会社〇〇(本店:〇〇)の普通株式の全部を、〇〇〇〇(〇年〇月〇日生、住所:〇〇)に遺贈する。
いずれも条項の一部で、会社と受け取る人を特定する必要があります。後の例は特定の株式だけを対象にしており、包括遺贈の例ではありません。「遺贈する」と書いても、会社の譲渡承認まで済むわけではありません。譲渡制限や定款の売渡請求条項と、相続後の会社の手続も確認します。
定款を見て、承認する人まで確認する
承認が必要な場合には、会社のどの機関が判断するかを確認します。原則は株主総会、取締役会設置会社では取締役会ですが、定款に別段の定めがある場合があります(会社法139条1項)。
たとえば、社長が大半の株式を持ち、取締役も社長だけという会社を想定します。その社長が亡くなってから承認を進めようとすると、株主としての手続に加え、会社の意思決定を担う人の確保も検討しなければなりません。株式の取得と役員の交代を、同じ手続だと思わないことが出発点です。
また、相続などの一般承継で取得した株式について、会社が相続人等に売渡しを請求できる旨の定款規定が置かれている場合があります(会社法174条)。譲渡承認が不要であることと、承継後に会社から売渡請求を受けないことは別の問題です。 定款の該当箇所を続けて確認してください。
遺言を作る前にそろえたい資料
- 現在有効な定款
- 株主名簿
- 会社の登記事項証明書
- 受け取る人との関係が分かる戸籍など
- 株式に関する契約書がある場合はその書類
登記事項証明書だけでは誰が何株持つかは分からないため、株主名簿と照合します。文例を読む際は、「何を渡すか」という部分が手掛かりになります。「株式会社〇〇の株式の全部」と「私の財産の全部」では、同じ「全部」でも対象が違います。前者はその株式、後者は財産全体を指します。
親族ではない後継者に渡したいのが自社株だけなら、個人の預金や自宅まで渡す文面に変えてはいけません。会社名と相手の氏名が正しくても、渡す財産の範囲が希望と違っていれば、文例をそのまま使うことはできません。
相続人ではない後継者に自社株だけを渡したいなら、特定遺贈の承認手続を含めて準備します。承認を避けるためだけに包括遺贈に変更すると、株式以外の財産や債務の承継まで変わりかねません。まず「誰に何を渡すか」を決め、その内容に合った方法を検討する順番がよいでしょう。
よくある質問
司法書士からひと言
同じ「株を渡す」でも、相手が子どもなのか、親族ではない後継者なのかで、文案は変わります。文例を選ぶ段階で迷ったら、渡したい相手と、いまの定款を見せていただければと思います。遺言の文言と会社の承認手続を一緒に確認します。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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