「会社の借入れは会社のものだから、自分に何かあっても家族には関係ないのでしょうか」。株式会社の借入金と、社長個人の連帯保証は別の問題です。社長が保証人になっている場合、亡くなっても保証債務が当然に消えるわけではなく、相続の対象になり得ます。
経営者保証とは
経営者保証とは、会社が金融機関から融資を受けるときなどに、経営者個人が会社の返済を保証することです。保証人は、主たる債務者が債務を履行しないときに、その履行をする責任を負います(民法446条)。
会社の借入契約では、会社が借主、社長が連帯保証人という形になっていることがあります。「会社の代表者として署名した部分」と「個人の保証人として署名した部分」は、同じ書類にあっても意味が違います。
一方、株式会社の株主であるというだけなら、その責任は引き受けた株式の引受価額を限度とします(会社法104条)。株主だから負う責任と、個別の保証契約で負う責任を分けて確認する必要があります。
同じ名前が二度出てくる契約書の読み方
契約書の末尾に社長の名前があるだけでは、個人保証の有無は決められません。たとえば借主欄が「株式会社〇〇 代表取締役△△」、別の連帯保証人欄が「△△」という表示なら、前者は会社を代表する立場、後者は個人の立場を示しています。これは署名欄の読み方を示す仮例です。
会社に残る控えが借主欄のあるページだけなら、別紙の保証約定や保証人欄も探します。同じ名前でも、どの立場で署名したのかが相続の調査では大切です。金融機関には「故人が個人として保証した契約と、その変更・解除に関する書面を確認したい」と伝えると、会社の借入残高だけを尋ねる場合より、必要な資料が明確になります。
社長が亡くなったら保証はどうなるか
相続人は、原則として亡くなった人の財産上の権利だけでなく、義務も引き継ぎます(民法896条)。有効な保証契約に基づく保証債務も、その対象になり得ます。
たとえば、会社が借りた2,000万円について社長が連帯保証をしていた、という仮例を考えます。相続財産を調べるときは、社長個人の預金・不動産・自社株とあわせて、この保証契約を確認します。会社が普段どおり返済できているからといって、契約自体がなくなっているわけではありません。
ただし、会社の借入残高を、そのまま相続人全員がそれぞれ全額負担すると決めつけることもできません。金銭の支払いを目的とする保証債務は、原則として法定相続分に応じて分割承継されます。そのうえで、保証の種類、契約内容、相続の状況から、実際に引き継ぐ範囲を確認します。金額が大きい場合や請求を受けている場合は、契約書を弁護士に見てもらう段階です。
根保証の「元本確定」は保証の消滅ではない
保証には、特定の借入れを対象にするものと、一定範囲の継続的な取引を対象とする根保証があります。契約書では、保証する取引の範囲や極度額という上限額の記載を確認します。
現行民法の個人根保証では、保証人が死亡すると、保証の対象となる主たる債務の元本が確定します(民法465条の4第1項3号)。これは対象となる元本の範囲が固定されるという意味で、そこまでに生じた債務についての保証責任がゼロになるという意味ではありません。
古い保証契約には改正法の経過措置が関わるため、現在の条文だけを見て結論を出さず、契約日や更新の経緯も確認します。具体的な責任の範囲は、民法の保証に関する規定と契約の両方から検討します。
「会社を継ぐ人だけが引き受ける」と家族で決めた場合
家族の話合いで「会社のことは後継者に任せ、保証も後継者だけが負担する」と決めたとしても、その合意だけで他の相続人が金融機関に対する責任を免れるわけではありません。
相続人の間で誰が負担するかという合意と、債権者である金融機関が誰に請求できるかは別です。金融機関との協議を通じて、保証の解除や引受けについて確認する必要があります。
会社の代表者変更登記を済ませても、それだけで亡くなった社長の保証が解除されたり、新社長の保証へ切り替わったりはしません。会社の登記、借入契約、保証契約を、それぞれの手続として進めます。
生前にできる確認と相談
最初に、会社の借入先ごとに、借入契約書と保証契約書の所在を確認します。決算書の借入金一覧だけでは、個人保証の条件まで分からないことがあるためです。事務所や店舗の賃貸借、リースなど、融資以外の契約にも保証がないかを見ておきます。
中小企業庁の経営者保証の案内では、事業承継時を含めた保証の見直しに関する支援が整理されています。経営者保証に関するガイドラインは自主的なルールであり、希望すれば必ず解除される制度ではありません。取引金融機関に、今の財務状況や事業承継の予定を踏まえて相談します。
すでに相続が始まり、承認するか相続放棄するか判断できない場合は、自分のために相続の開始があったことを知った時から原則3か月という期間にも注意してください(民法915条)。調査に時間がかかるなら、期間の伸長の申立ても早めに検討します。
よくある質問
司法書士からひと言
保証契約があるかどうかを、ご家族が分かる状態にしておくことも相続の準備です。契約書が見つかったら、責任の範囲は契約先の金融機関や弁護士に確認してください。当事務所への役員変更登記のご相談では、会社で決めたことと、金融機関へ別に届け出ることを分けて確認します。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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