「公正証書で遺言を作りたいけれど、会社の資料は何を持っていけばよいのだろう」と迷っていませんか? 経営者の場合は、ご本人と家族の資料に加え、定款・登記事項証明書・株主名簿をそろえると、自社株の承継を具体的に考えやすくなります。
公正証書遺言とは
公正証書遺言とは、本人が公証人に遺言の趣旨を伝え、証人2人以上の立会いなど法律で定められた方式に従って作成する遺言です(民法969条)。本人の意思で作るものであり、後継者や専門家が代わりに遺言をすることはできません。
一方、資料集めや希望の整理、文案の相談は事前に進められます。ご自身で公証役場へ連絡することもできますし、会社の資料との整合性を確かめながら司法書士に文案づくりを相談することもできます。
作成までの流れ
- 自分の財産と家族関係を整理し、誰に何を渡したいかをメモにします。
- 公証役場に相談し、求められた資料と希望のメモを提出します。自社株があることも伝えます。
- 文案を確認し、株式の特定、家族への配分、遺言執行者などを調整します。
- 作成日時と方法、証人、手数料を確認し、当日に本人の意思確認を受けて公正証書を作成します。
書類が全部そろってからでなければ、相談できないわけではありません。分からない財産や、見つからない資料があれば、その状態を伝えて準備を進めます。具体的な作成の手順は日本公証人連合会「遺言」で案内されています。
まず必要になる本人・家族・財産の資料
- ご本人の本人確認資料
- ご本人と相続人との関係が分かる戸籍謄本など
- 相続人以外に渡す場合、その人の住所・氏名が分かる資料
- 個人所有の不動産がある場合、登記事項証明書と固定資産の評価が分かる資料
- 預貯金がある場合、通帳の写しなど口座が分かる資料
- 証人を自分で用意する場合、証人2人分の氏名・住所・生年月日が分かる資料
これは基本的な準備の目安です。本人確認の方法や財産の種類、対面かリモートかによって追加資料が変わるため、公証役場からの案内で確定します。日本公証人連合会「必要書類」も参考になります。
会社へ貸しているお金がある場合は、その貸付金も個人の財産として確認します。逆に、会社名義の預金や不動産を、社長個人の財産として遺言に書くことはできません。会社と個人の資料は、名義を見て整理しておきましょう。
自社株についてそろえておきたい資料
| 資料 | 確認したいこと |
|---|---|
| 会社の登記事項証明書 | 正式な商号、本店、会社法人等番号、株式に関する登記事項 |
| 現在有効な定款 | 譲渡制限、承認機関、相続人等への売渡請求、種類株式の定め |
| 株主名簿 | ご本人の保有株式数、種類、ほかの株主の状況 |
| 株式の取得や移動に関する契約書等 | 名簿と実際の権利関係に食い違いがないか |
| 決算書や株式評価の資料 | 財産配分や費用の検討に必要な価額の情報 |
これらすべてが一律に必要な法定提出書類という意味ではありません。自社株を正確に記載するための資料ですが、集めた資料同士で数字が違うこともあります。たとえば登記事項証明書の発行済株式総数は300株、手元の株主名簿の合計は設立時の100株だったとします。差の200株を、社長が持っているものとして書き足すことはできません。
名簿の作成時点と、その後の増資や株式分割などの記録をたどります。増資なら誰が何株を引き受けたかを、株式譲渡の契約書があれば、その後の持ち主の移動も見ます。「現在の本人の持株数」が分かってから、遺言の対象を確定します。
会社の登記事項証明書には、通常、株主の名前や各人の保有株式数は載りません。「社長だから全株式を持っているはず」と考えず、株主名簿や過去の契約と照合してください。設立時に一部の株式を親族が引き受けている、といった可能性も含めて確かめます。
記入例:公証役場へ伝える希望メモ
資料を集めたら、希望を次のように1枚にまとめると相談の入口になります。これは遺言書ではなく、文案を作る前のメモの例です。
会社:株式会社〇〇/本店:〇〇
保有株式:普通株式〇株/株主名簿の確認日:〇年〇月〇日
渡したい相手:長女〇〇〇〇(〇年〇月〇日生)
その人が先に、または同時に亡くなったときの希望:長男〇〇〇〇
ほかの家族へ残したい財産:個人名義の預金、不動産など
まだ確認できていないこと:種類株式の有無、株式の価額、定款の売渡請求条項
分からない項目は、推測で埋めず「未確認」として資料の確認につなげます。ほかの会社の株式や会社への貸付金がある場合も分けて書きます。メモの希望をもとに、承継先の相続資格や会社の定款を確認し、遺言の条項へ整えていきます。
自社株の評価は、何のための数字かを確認する
自社株は、株式数が分かっても価額がすぐに分かるとは限りません。決算書の資本金を株数で割った数字が、そのまま現在の株価になるわけではありません。
公正証書の手数料を計算するための資料、相続税などを検討するための評価、遺留分を考えるための評価は、それぞれ目的を確認します。顧問税理士の先生が作成した評価資料がある場合も、いつ、どの前提で評価したものかを添えて公証役場に伝えるとよいでしょう。
評価がまだ出ていなくても、保有する会社と株式の内容の整理は進められます。文案の相談と評価の確認を並行して進め、どの段階でどの資料が必要かを確認してください。
当日は、本人の意思確認と証人の立会い
証人にはなれない人がいます。未成年者、推定相続人や受遺者、その配偶者・直系血族などは証人になれません(民法974条)。財産を渡す予定の子どもを、そのまま証人として連れて行くことはできないため、事前に確認します。
2025年10月1日から、法務大臣が指定する公証人のもとでは原則として電磁的記録で公正証書を作成し、電子サインをする形で進みます。ウェブ会議での作成には公証人の判断などの条件があるため、希望する場合は早めに相談してください。現在の方法は日本公証人連合会「公正証書」で確認できます。
作成後は、必要なときに遺言の存在が分かるよう、信頼できる人に公証役場や保管の情報を伝えておきます。株主名簿など会社の資料の所在も併せて整理しておけば、相続後の手続を始めやすくなります。
よくある質問
司法書士からひと言
株主名簿が見つからない、定款が古いものしかない。そうした状態でも、まず手元に何があるかを教えてください。この記事の希望メモに書けたところから、必要な資料と公正証書遺言の文案を一緒に考えていきます。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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