「相続の準備を始めたいけれど、まず何を集めればよいでしょうか?」。経営者の場合は、家族関係を確認する資料、個人の財産を確認する資料、会社の資料を分けてそろえると、何が足りないか見つけやすくなります。会社の登記簿だけでは、社長個人の財産や相続人までは分かりません。
相続準備に使う資料とは
相続準備に使う資料とは、「誰が相続に関わるか」「何を保有しているか」「会社をどう引き継ぐか」を確かめるための資料です。すべてを一度に新しく取り寄せるより、まず手元にあるものと保管場所を確認します。
生前の準備と、相続が始まったあとの正式な手続では、必要な書類が異なります。たとえば、死亡の記載がある戸籍や、法務局が認証した法定相続情報一覧図の写しは、ご本人の相続について生前に作成しておくものではありません。
生前には、家族関係と財産の状況を整理し、相続後に必要な資料をたどれる状態にします。会社の承継を考えるなら、株式や役員の資料も同じ時期の内容で確認することが大切です。
生前に確認したい3種類の資料
資料は、使う目的ごとに整理すると読み違いを減らせます。
| 資料のまとまり | 確認すること |
|---|---|
| 家族関係と希望 | 家族の範囲、後継者候補、遺言の有無と保管場所 |
| 個人の財産・負債 | 不動産、預金、自社株、会社への貸付け、個人の借入れや保証 |
| 会社の状況 | 現在の株主、株式の種類、役員体制、定款の内容 |
家族関係は、普段の呼び方や同居している人だけでなく、法律上の関係で確認します。再婚や養子縁組などがある場合には、戸籍で関係を確かめると、遺言の文案づくりにもつながります。
財産は、会社のものと個人のものを区別します。会社の預金残高だけを見ても、社長個人にどれだけ財産があるかは分かりません。逆に、会社の決算書にある「役員借入金」が、社長個人からの貸付けを表している場合もあります。
記入例:手元の資料と、次に探すものを1枚にまとめる
最初から完全な財産目録を作ろうとするより、分かっている情報と確認先を分けてメモすると進めやすくなります。次は、生前に整理する場合の記入例です。
家族関係:配偶者、子などの氏名・続柄/戸籍での確認状況
自社株:会社名、株式の種類・数/株主名簿の保管場所
会社への貸付金:契約書の有無、残高の確認日/確認する担当者
個人の不動産:所在地、登記上の所有者/登記事項証明書の保管場所
個人の借入れ・保証:契約先、契約書の保管場所/残高や保証内容の確認先
遺言:有無、作成日、作成方法/公正証書の正本・謄本や、自筆証書の保管先
次に探す資料:〇〇/確認する人:〇〇
会社名義の財産は、個人の財産と同じ欄に混ぜずに整理します。このメモだけで相続人や実際の財産の取得者が確定するものではありません。相談時には、メモに対応する戸籍・株主名簿・契約書などを一緒に確認します。
会社の登記簿・定款・株主名簿は役割が違う
登記事項証明書は、会社の商号や本店、資本金、役員などを確認する資料です。株主の名前や持株数の一覧が載っているものではありません。
定款は、会社の組織と運営のルールを定めた書類です。株式の譲渡制限や、代表取締役の決め方などを確認します。設立時の定款だけが残っている場合は、その後の変更決議も探し、現在の内容を確認します。
株主名簿は、株主と保有株式を確認する資料です。過去に株式の贈与や売買があったのに更新されていなければ、契約書や議事録などと照合する必要があります。相続の準備では、この3つを同じものの代用品として扱わないことが大切です。
定款が見つからない場合の確認は「会社の定款が見つからない。登記の手続はどうすればいい?」でも説明しています。
資料の「あり」に、もう一言添えておく
資料一覧に「定款あり」と書いていても、設立時の写しだけで、その後の変更決議が別の場所にあることがあります。「定款:設立時のPDFあり。変更の有無は未確認。会社で保管する議事録を探す」と残せば、次に何をするかが分かります。
保証契約も「写真あり」だけではなく、全ページが写っているか、別紙や変更書面があるかを添えます。見つかったファイルの数より、内容がどこまでそろっているかが大切です。正式な手続で原本が必要か、写しでよいかは提出先により異なるため、原本の保管者も分かる範囲で残します。全部を取り直す前に、足りないページと最新版の所在を一つずつ埋めていきます。
相続が始まったら、戸籍で相続人を確認する
相続が始まったあとは、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍や、相続人の戸籍などを集め、相続人の範囲を確認します。相続人が父母や兄弟姉妹になる場合、代襲相続がある場合には、さらに戸籍が必要になることがあります。裁判所「遺産分割調停・必要書類」
手続先から案内された戸籍の範囲を確認し、死亡の記載がある最後の戸籍だけで十分だと思い込まないようにします。家族から聞いた関係と、戸籍で確認できる関係を照らし合わせて進めます。
この段階で、遺言書の有無と内容も確認します。戸籍は家族関係を示す資料であり、特定の株式を誰が取得したかまで証明するものではありません。財産の取得者は、遺言や遺産分割などの資料と合わせて確認します。
法定相続情報一覧図は、何を証明するものか
法定相続情報証明制度は、戸籍などに基づいて作成した一覧図を法務局で確認してもらい、認証文付きの写しの交付を受ける制度です。複数の相続手続で戸籍の束を何度も提出する負担を減らすために利用できます。法務局「法定相続情報証明制度の具体的な手続」
注意したいのは、この一覧図が戸籍から分かる法定相続人を示すものであることです。相続放棄をした人も一覧図には記載され、遺産分割の結果も反映されません。「名前があるから今も相続人」「この人が株式を全部取得した」と判断するための資料ではありません。東京法務局「法定相続情報一覧図の作成」
株式の承継や預金の手続で使うときも、遺言書、遺産分割協議書、相続放棄に関する資料など、別に必要なものを手続先へ確認します。認証された一覧図が1枚あれば、すべての手続がそのまま完了する仕組みではありません。
相談の入口で用意したい書類
相続前の相談であれば、まず次の資料のうち、手元にあるものを集めてみてください。見つからない書類は、そのことを伝えれば、確認する順番を考えられます。
- 会社の登記事項証明書、現在の定款、株主名簿
- 直近の決算書と、社長と会社の貸し借りが分かる資料
- 個人所有の不動産の登記事項証明書や固定資産税の通知書
- 個人の預金・証券口座、借入れ・保証契約が分かる資料
- 既存の遺言書と、保管場所が分かる情報
- 家族関係と後継者への希望を整理したメモ
財産の金額や株主の状況が変わったときは、一覧と保管場所も見直します。ご本人しか場所を知らないままにせず、必要なときに誰がどこを確認するかまで伝えておくと、準備した資料が使いやすくなります。
よくある質問
司法書士からひと言
この記事のメモは、空欄が残っていても構いません。「株主名簿が見つからない」「会社への貸付金が分からない」と書いてあれば、次に何を探すかを相談できます。遺言や登記の準備を始めたい方は、手元にある資料と、分からなかった箇所をお知らせください。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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