B種優先株式を追加発行するときに変わる登記事項

B種優先株式を追加発行するときに変わる登記事項

シリーズAでA種優先株式を発行した会社が、シリーズBで新しくB種優先株式を発行するとき、登記はどこが変わるのでしょうか? B種を追加する定款変更では、B種の内容を新たに定めるだけでは終わりません。すでに登記されているA種優先株式の内容も連動して書き換わることが多く、変更がある場合には、その変更もあわせて登記しなければなりません(会社法911条3項7号)。決議の面では、株主総会の特別決議に加えて、普通株主による種類株主総会、A種優先株主による種類株主総会が必要になるのが通常で、登録免許税は増加する資本金の額の1,000分の7に定款変更の登記3万円が加わります。本ブログでは、B種優先株式を追加発行するときに変わる登記事項と、必要な決議・費用について、わかりやすく説明します。

目次

B種優先株式とは

B種優先株式とは、A種優先株式を発行済みの会社が次の資金調達で新たに定款に定める2番目の種類の優先株式のことで、剰余金の配当や残余財産の分配などについて他の種類と異なる定めをした種類株式のひとつです(会社法108条1項)。「B種」は会社が定款で付ける名称で、シリーズBの投資家向けに発行することが多いため、調達ラウンドの名前と重なってこう呼ばれます。A種と別の種類にするのは、シリーズBでは発行価額(株価)がA種の発行時と異なるのが通常で、残余財産の分配額や取得請求権の転換価額をA種と同じにできないからです。

B種を追加すると登記簿のどこが変わるか

種類株式発行会社は、発行可能種類株式総数と発行する各種類の株式の内容を登記しなければなりません(会社法911条3項7号)。B種優先株式を追加する定款変更は、この登記事項に「B種優先株式」の枠と内容を新たに加える変更です。優先配当、残余財産の分配の順位と額、議決権、取得請求権(普通株式への転換)と取得条項、拒否権の対象事項といったB種の定めは、定款の定めに沿って登記簿に載ります。

募集株式の発行そのものによる変更もあわせると、B種の追加発行で動く登記事項は次の表のとおりです。

登記事項B種の追加発行で変わる内容根拠
発行可能株式総数発行枠が足りなければ引き上げ会社法911条3項6号
発行可能種類株式総数・各種類の株式の内容B種の枠と内容を追加。A種の内容も連動して変更会社法911条3項7号
発行済株式の総数・種類ごとの数B種の発行数が加わる会社法911条3項9号
資本金の額払込額のうち資本金に組み入れた額が増える会社法911条3項5号

A種優先株式の内容も書き換わる

シリーズBの登記で見落とされやすいのが、A種優先株式の内容の変更です。A種の定款の定めは、多くの場合、普通株式との2種類を前提に書かれているため、そこにB種が入るとA種の条文の中でB種との関係を定め直す必要が出てきます将来の種類株式の発行を織り込んだ雛形なら、変更がなくて済むこともあります

代表的なのは残余財産の分配(会社を清算するときに残った財産の分け方)の順位です。B種をA種に優先させるのか、A種と同順位にするのかは、B種の内容だけでなくA種の側の定めにも書き込むことになり、優先配当をどちらが先に受けるかも同じです。

取得請求権の転換価額調整条項(あとから安い株価で株式が発行されたときに転換価額を引き下げ、投資家の持分の薄まりを抑える定め)では、調整のきっかけになる株式の発行からB種の発行を除外するかどうかや、条文中の「優先株式」の定義にB種を含めるかどうかを見直します。拒否権(会社が一定の事項を決めるとき、A種優先株主の種類株主総会の承認を必要とする定め)の対象事項に「A種優先株式に優先または同順位の株式の発行」が入っていれば、B種の発行にあたってその定めにもとづくA種優先株主の種類株主総会の決議が必要です(会社法323条)。拒否権条項そのものを書き換えるかどうかは、これとは別に、今回の合意内容に応じて判断します。

こうした変更はA種の内容の変更として登記事項になり、B種の追加とあわせて申請します。定款の新旧対照表でA種の条文のどこが変わったかを一行ずつ確認しておくと、登記すべき事項の漏れを防げます。

B種を加えるときは、A種との関係も確認します
新しく定めるB種
優先配当・残余財産分配・転換などの条件を決めます。
すでにあるA種
B種との順位、定義、調整条項などに変更があるかを確認します。
変更がある項目を登記
B種の追加と、必要なA種の内容変更を整理します。
A種の内容を必ず変更するわけではありません。登記の要否と、種類株主総会の要否は分けて確認します。
参考:会社法

必要になる決議と種類株主総会

定款変更は株主総会の特別決議で行います(会社法466条、309条2項11号)。B種を発行する募集事項の決定も、非公開会社では株主総会の特別決議です(会社法199条2項、309条2項5号)。

さらに、株式の種類の追加、株式の内容の変更、発行可能株式総数または発行可能種類株式総数の増加を内容とする定款変更が、ある種類の株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、その種類の株主による種類株主総会の決議がなければ効力を生じません(会社法322条1項1号)。B種をA種に優先させる、A種の転換価額調整条項を変えるといった変更はその典型例なので、A種優先株主の種類株主総会(特別決議。会社法324条2項4号)が必要になります。B種が普通株式にも優先する以上、普通株主の種類株主総会が必要になる場合も多いです。なお、譲渡制限株式を募集するときのその種類の株主による種類株主総会(会社法199条4項)は、B種にはまだ株主がいないため不要です。

ここで注意したいのが、A種の内容に「種類株主総会の決議を要しない」という定め(会社法322条2項)が入っている場合です。この定めは株式分割や組織再編などには効きますが、株式の種類の追加や内容の変更、発行可能株式総数・発行可能種類株式総数の増加を内容とする定款変更には適用されません(会社法322条3項ただし書)。定款にこの定めがあってもシリーズBでは種類株主総会を省略できないので、その日程を別に組む必要があります。

期限と登録免許税

登記は、変更の日から2週間以内に申請します(会社法915条1項)。定款変更の効力発生日から2週間以内にB種の払込期日を収め、そのうえで定款変更の日から2週間以内に申請すれば、定款変更と募集株式の発行を1回の申請にまとめられます。

登録免許税は、募集株式の発行による資本金の増加について増加する資本金の額の1,000分の7(3万円に満たないときは3万円。登録免許税法別表第一24号(1)ニ)、定款変更による登記事項の変更について3万円(同ツ)です。B種の追加、A種の内容の変更、発行可能株式総数と発行可能種類株式総数の引き上げは、いずれも同じ「ツ」の区分に属するので、同一の申請書で申請すれば3万円が1回かかるだけです。たとえば2億円を調達して半分の1億円を資本金にすると、70万円と3万円の合計73万円になります。

必要になる書類(非公開会社の場合)

  • 株主総会議事録(普通株主とA種優先株主全員を議決権者とするもの)(定款変更と募集事項の決定。いずれも特別決議。会社法309条2項5号・11号)
  • A種優先株主による種類株主総会議事録(A種優先株主に損害を及ぼすおそれがある場合、または定款上の拒否権にもとづく決議が必要な場合。会社法322条1項1号、323条、324条)
  • 普通株主による種類株主総会議事録(普通株主に損害を及ぼすおそれがある場合)
  • 株主リスト(株主総会・種類株主総会それぞれについて。商業登記規則61条3項)
  • 総数引受契約書、または引受けの申込みを証する書面(誰が何株を引き受けるかを決めた書面)
  • 払込があったことを証する書面(通帳のコピーなど)
  • 資本金の額の計上に関する証明書(払込額のうちいくらを資本金にしたかを会社が証明する書面)
  • 委任状(司法書士に依頼する場合)

登記すべき事項について種類株主総会の決議を要するときは、その議事録の添付が必要です(商業登記法46条2項)。株主総会と種類株主総会を同じ日に続けて開き、議事録を別々に作るのが実務の基本形です。なお、株主総会を書面決議で行う場合は、株主総会及び種類株主総会にかかる提案書を送付しますが、提案書の表紙のみ各種類株式で作り分け、その他議案の詳細については「別紙の通り」とし、同じ議案の内容を別紙として添付する方法なら、書類を整理しやすくなります。

よくある質問

A種優先株式の内容を一文字も変えなければ、A種についての登記は不要ですか?

不要です。A種の定めに変更がなければ、A種について新たに登記するものはありません。ただし、B種の追加そのものがA種優先株主に損害を及ぼすおそれがあれば、A種優先株主の種類株主総会の決議は変わらず必要です。

B種の内容をA種とまったく同じにすれば、A種の追加発行で済みますか?

残余財産分配額や転換価額もA種と同じでよいなら、A種を追加発行する方法もあります。ただし、通常はシリーズBの株価がA種の発行時と異なるため、別の種類として作るのが一般的です。

定款に「種類株主総会の決議を要しない」と書いてあれば、シリーズBでも種類株主総会は省略できますか?

省略できません。会社法322条2項の定めは、株式の種類の追加や内容の変更などを内容とする定款変更には適用されないためです(会社法322条3項ただし書)。A種優先株主に損害を及ぼすおそれがあるかどうかを個別に判断し、必要なら種類株主総会を開きます。

司法書士からひと言

シリーズBのご相談で多いのは、B種の条件は投資家との交渉で細かく詰めているのに、A種の定めにも手を入れる必要があることに、定款変更案を作る段階で初めて気づかれるケースです。B種の内容が固まった時点で、A種の条文を一行ずつ読み直し、B種との優劣・調整式・定義のどこを書き換えるかを洗い出しておきます。この作業を早めに済ませておけば、A種優先株主の種類株主総会の日程にも余裕が生まれ、払込みを実行するクロージングの直前に慌てずに済みます。

司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)


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この記事を書いた人

石本 憲史のアバター 石本 憲史 司法書士・スタートアップデザイナー®

大阪・北浜で「いしもと司法書士事務所(ISHIMOTO Legal)」を運営する司法書士です。
スタートアップの資金調達にともなう商業登記(種類株式・J-KISS・新株予約権・第三者割当増資)と、定款や株主間契約まわりの設計を専門にしています。
AIを日々の業務に組み込んでいる司法書士として、同業の士業向けにAI活用の顧問サービスやセミナーも行っています。
大阪司法書士会 東支部所属(登録番号 大阪第4973号)/簡裁訴訟代理等関係業務認定(第1201092号)
所属団体:BAMBOO INCUBATOR、smartroundパートナー

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