「会社を継ぐ自分が株式をまとめて相続したい。でも、ほかの家族に渡せる預金があまりありません」。このような場合には、後継者が株式を取得し、ほかの相続人に金銭を支払う代償分割が選択肢になります。ただし、相続人全員の合意と、実際に支払う資金の確認が欠かせません。
代償分割とは
代償分割とは、相続人の1人が財産を取得する代わりに、ほかの相続人へ金銭などを給付して調整する分け方です。たとえば、後継者が自社株をまとめて取得し、自分の資金からほかの相続人へ代償金を支払う形が考えられます。
遺産分割は、財産の種類や性質、相続人の職業や生活の状況などを考慮して行うと定められています(民法906条)。株式を細かく分ける以外の配分を検討することもでき、協議による分割では相続人全員の合意が必要です(民法907条1項)。
以下では、遺言による指定の有無などを確認したうえで、自社株を遺産分割する場面を取り上げます。生前の遺言で株式の行き先を決める話と、亡くなったあとに全員で協議する話は区別して考えます。
株式を分けずに、価額を調整する例
説明のための仮例です。相続人は子2人、遺産は協議上3,000万円と評価した自社株のみで、ほかの財産や債務、生前贈与などはないものとします。後継者である子が株式をすべて取得し、もう1人の子に1,500万円を支払う配分を合意したとします。
| 相続人 | 取得するもの・負担するもの |
|---|---|
| 後継者である子 | 自社株3,000万円相当を取得し、代償金1,500万円を支払う |
| もう1人の子 | 代償金1,500万円を受け取る |
この方法なら、株式を分散させずに価額の配分を調整できます。ただし、後継者が株式を取得しても、その株式がすぐに現金になるわけではありません。代償金をどこから用意するかが、配分の実現性を左右します。
なお、この金額は仕組みを説明するための仮定で、個別の株式評価や税額を示すものではありません。実際の協議では、預金や不動産、社長から会社への貸付金などを含め、財産全体を確認します。
定款の確認も必要です。相続などで譲渡制限株式を取得した人に対し、会社が売渡しを請求できる旨の定款の定めがある場合には、後継者が取得する株式も対象となり得ます(会社法174条)。現在の定款と、その制度の適用条件を確認してから配分を考えます。
先に、株式の価額と資金を確かめる
自社株の価額は、会社の資本金や、社長が設立時に払い込んだ金額と同じとは限りません。現在の会社の状況を反映した評価の資料が必要になります。相続税の申告に使う評価と、遺産分割の話合いで合意する価額は、目的を分けて確認します。
相続人ごとに前提の金額が違うままでは、代償金の協議も進みにくくなります。どの資料をもとに、いつの時点の価額を使って配分を考えるのか、顧問税理士の先生に税務面の確認をお願いしながら、前提をそろえます。
支払原資については、後継者本人の預金で払えるのか、借入れを予定するのかを確かめます。「就任したら会社のお金から払えばよい」と考えないことも大切です。会社の預金は個人の財産ではないため、会社から資金を受け取るなら、その法的な根拠と税務、会社の資金繰りを別途検討する必要があります。
協議書には、取得する株式と支払条件を残す
協議が整ったら、会社を特定できる情報や株式の種類・数、取得する人を明らかにします。さらに、誰が誰に、いくらを、いつまでに支払うのかを、遺産分割協議書に具体的に残します。
分割払にするなら、各回の支払額と期日も確認します。支払う側には無理のない計画が必要ですが、受け取る側は支払完了まで待つことになります。分割払を当然の前提にせず、双方が条件を理解して合意することが大切です。
株式の承継手続を進めたあとで、約束した代償金が払われないと、別の争いにつながりかねません。履行の確保まで判断が必要な場合や、すでに意見が対立している場合には、弁護士への相談も含めて進め方を検討します。
文例:株式の取得と代償金の支払いを分けて書く
前の仮例と同じく、相続人が子2人で、後継者が株式をすべて取得し、もう1人へ1,500万円を一括で支払うことに全員が合意した場合です。後継者を甲、もう1人を乙として、協議書の条項を抜き出すと次のようになります。
第1条 相続人甲は、被相続人〇〇〇〇が所有していた株式会社〇〇(本店:〇〇)の普通株式の全部(〇株)を取得する。
第2条 甲は、前条の株式を取得する代償として、乙に対し、金1,500万円を令和〇年〇月〇日までに、乙の指定する口座へ振り込んで支払う。振込手数料は甲の負担とする。
この2条だけで協議書が完成するわけではありません。被相続人と相続人の特定、全員の合意を示す署名・押印など、必要な内容を整えます。株式の種類・数と代償金額は、実際の資料と合意内容で確認し、支払期日には「決まり次第」ではなく具体的な日付を記載します。
1,500万円の支払方法が違えば、文例も変わります
上の文例は、1,500万円を期日までに一括で支払う合意です。「毎年300万円ずつ、5回で払うつもりだった」のであれば、そのまま使うと合意した内容とずれます。初回の期日だけを書いても、残り4回をいつ払うのかは読み取れません。
分割払いを考える段階では、5回それぞれの支払日と金額を書き並べ、受け取る側もその予定を了解しているかを確かめます。金額の合計が同じでも、一括払いと数年に分けて受け取ることは同じ条件ではありません。途中で払えなくなった場合の取決めや履行の確保が必要なら、そこは文例を自己流で継ぎ足さず、弁護士に相談して内容を詰めます。
遺産分割が終わる前後で、会社の手続を分ける
遺産分割が成立するまでは、共同相続した株式の議決権を誰が行使するか確認が必要です。株式を取得する予定の後継者が、すでに単独の株主になったつもりで会社の決議を進めないようにします。
遺産分割の成立後は、その内容をもとに株主名簿の手続を行います。株主の交代だけでは会社の変更登記は不要ですが、新しい取締役を選任した場合などは別です。議決権の扱いは「株主が亡くなったら、その株式の議決権は誰が使う?」で説明しています。
相続人間の話合いがまとまらない場合には、家庭裁判所の遺産分割調停などを利用できます。会社の運営上必要な決議と、相続財産の配分を決める手続を混同せず、どちらも適切な方法で進めます。裁判所「遺産分割調停」
よくある質問
司法書士からひと言
協議書に代償金を書く前に、支払う人と受け取る人の両方が、金額と期日に納得しているかを確かめてください。記事の文例も、その合意を残すための一部です。話合いが整った後の不動産の相続登記や会社の役員変更登記については、合意内容の分かる資料をもとに当事務所へご相談いただけます。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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