「会社を手伝ってきた子が相続人になるのでしょうか。会社に関わっていない家族はどうなりますか?」。誰が相続人になるかは、会社で働いているかどうかではなく、法律上の家族関係によって決まります。後継者を決める話と、相続人を確認する話は分けて考える必要があります。
相続人と後継者の違いとは
相続人とは、亡くなった方の財産に属する権利や義務を相続によって承継する人です。後継者とは、事業を引き継ぐ人として考えられている人であり、それ自体が法律上の相続資格になるわけではありません。
たとえば、会社に勤めていない子も相続人になります。一方、長年会社を支えてきた従業員が後継者であっても、そのことだけで社長個人の相続人にはなりません。自社株を渡したい相手が相続人かどうかによって、遺言や生前の株式移転をどう準備するかも変わってきます。
なお、株式を相続しても、取締役・代表取締役の地位まで相続するわけではありません。新しい役員や代表者は、会社の機関構成と定款に沿って選び、必要な登記を行います(会社法330条、民法653条1号)。
以下は、日本の民法に基づく相続人の基本的な範囲です。相続放棄や相続欠格・廃除など、相続資格に影響する事情がある場合は、別途確認が必要です。
配偶者と、血族の順位を確認する
法律上の配偶者は、常に相続人になります。そのうえで、血族については、子、直系尊属、兄弟姉妹の順に相続人を確認します(民法887条・889条・890条)。
| 家族の立場 | 基本的な扱い |
|---|---|
| 法律上の配偶者 | 常に相続人になる。血族の相続人がいなければ単独で相続する |
| 子 | 第1順位の相続人になる |
| 父母・祖父母などの直系尊属 | 第1順位の相続人がいない場合。親等の近い人が優先する |
| 兄弟姉妹 | 第1・第2順位の相続人がいない場合 |
したがって、子がいる場合に、父母や兄弟姉妹も全員参加して遺産分割をする、という仕組みではありません。反対に、子がおらず父母もすでに亡くなっている場面では、祖父母などの直系尊属の有無まで確認し、その後に兄弟姉妹の順位を判断します。
配偶者だけが相続すると思っていても、実際には親や兄弟姉妹と共同で相続する場合があります。「会社は妻に任せているから全部妻のものになる」と思っている経営者は、相続人の範囲を一度確かめておきたいところです。
亡くなった子がいる場合と、再婚した場合
社長より先に子が亡くなっている場合、その子の子、つまり社長から見た孫が代わって相続人になることがあります。これを代襲相続といいます(民法887条2項)。相続放棄は、その人の子が代襲相続する原因にはなりません。
兄弟姉妹が相続人になる場面でも、社長より先にその兄弟姉妹が亡くなっていれば、その子であるおい・めいが代襲相続する場合があります(民法889条2項)。ただし、兄弟姉妹については、おい・めいの子へさらに代襲が続くわけではありません。
再婚している場合は、前の配偶者との子も、現在の配偶者との子も、亡くなった方の子として相続人になります。離婚した元配偶者は配偶者としての相続人にはなりませんが、子との法律上の親子関係は離婚だけで消えません。
現在の配偶者の連れ子は、社長との間で養子縁組をしていなければ、そのことだけで社長の相続人にはなりません。家族の呼び方や同居の有無では判断できないため、戸籍を確認して整理します。
「娘婿だから相続する」とは限りません
娘婿に会社を任せている場合を考えてみます。娘の夫であるというだけでは、社長本人の子として相続人になるわけではありません。社長との養子縁組があるかで、法律上の関係が違ってきます。「婿に来てもらった」「同じ名字になった」という家族の説明だけでは、ここを判断できません。
相談のメモには、「後継者:娘の夫。社長との養子縁組:あり・なし・分からない」と書くと、確かめたいことが伝わります。養子縁組を勧める趣旨ではありません。まず今の関係を戸籍で確かめ、相続人でない後継者へ株式を渡したいなら、遺言による遺贈など、その関係に合う方法を考えます。
相続人でも、株式を必ず取得するとは限らない
誰が相続人か分かったあとに考えるのが、遺言の内容や、遺産分割による財産の配分です。相続人であることと、会社の株式を実際に取得することは同じではありません。
説明のための仮例です。相続人が配偶者と子2人で、子の1人が後継者だとします。相続人全員の遺産分割協議によって、後継者が自社株を取得し、ほかの家族が預金などを取得する配分を考えることはできます。
一方、分割が整う前に共同相続した株式の議決権を使う場合は、権利行使者を決めるなどの確認が必要です。後継者だからという理由だけで、単独で株主総会の決議を進められるわけではありません。詳しくは「株主が亡くなったら、その株式の議決権は誰が使う?」で説明しています。
会社の資料と、戸籍の確認をつなげる
会社の登記事項証明書から分かるのは、役員や代表者などの登記事項です。それだけで、株主の全員や社長個人の相続人の範囲が分かるわけではありません。
保有株式は株主名簿などで確認し、相続人の範囲は戸籍で確認します。亡くなったあとは、原則として出生から死亡までの戸籍をたどり、子の有無や親族関係を調べます。兄弟姉妹が相続人となる場合などは、さらに広い範囲の戸籍が必要になります。
生前の段階でも、家族関係と会社の承継希望を整理しておくことはできます。相続人ではない人へ株式を渡したい場合や、家族関係が複雑な場合は、戸籍と会社の資料をもとに、遺言の文案や承継方法を検討すると具体的な準備につながります。
よくある質問
司法書士からひと言
「この子が会社を継ぐから、株もこの子へ」と考えている方は、ほかに誰が相続人になるかも確かめておきたいところです。後継者の希望と家族関係が分かれば、遺言に何を書くかを考えられます。ご相談の際には、家族構成と株式を渡したい相手をお聞かせください。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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