「自分に何かあったら、会社の財産も家族が相続するのでしょうか?」。経営者の相続では、会社の財産と本人の財産、そして会社を経営する立場を分けて考える必要があります。株式を相続することと、次の社長になることも別の話です。
経営者の相続とは
相続とは、人が亡くなったときに、その人の財産に属する権利と義務を相続人が引き継ぐことです。ただし、本人だけに認められる性質のものは引き継がれません(民法882条・896条)。社長についてもこの原則は同じで、ご自宅や個人の預金だけでなく、本人が保有していた自社株や、会社に貸したお金の返還を求める権利などが確認の対象になります。
一方、会社は社長とは別の法人です(会社法3条)。社長が全株式を持っていても、会社の工場や預金がそのまま社長個人の財産になるわけではありません。
ここを分けると、「何を家族で分けるのか」と「会社を誰が動かすのか」を考えやすくなります。なお、以下は株式会社についての説明です。合同会社や個人事業では、引き継ぐものと手続が異なります。
最初に、財産と立場を分ける
経営者の相続を考える入口として、次のように整理してみてください。
| 確認するもの | 相続との関係 |
|---|---|
| 会社所有の預金・不動産・設備 | 原則として会社が引き続き保有する |
| 社長個人の預金・不動産 | 個人の相続財産として確認する |
| 社長が保有する自社株 | 相続の対象となる財産 |
| 社長から会社への貸付金 | 社長の貸付債権として確認する |
| 社長個人の借入れ・保証 | 契約内容に応じて承継する義務を確認する |
| 取締役・代表取締役の地位 | 相続によって家族へ移るものではない |
たとえば、会社が使っている事務所の建物でも、所有者が社長個人であれば相続の対象です。反対に、会社所有の建物なら、社長が亡くなっても会社の所有であることは変わりません。「会社で使っているから会社のもの」と決めず、不動産の登記や契約書で持ち主を確かめます。
名義を分けて考えることは、相続後に事業を続けるためにも役立ちます。個人所有の建物を会社が借りているなら、その建物の承継先と会社が使い続けるための契約を、あわせて確認しておきたいところです。
「工場を継ぐ」を、名義が分かる言葉に直す
たとえば「工場は長女に任せる」と考えているなら、メモには工場の名前だけでなく、誰が何を持っているかを書きます。土地は父個人、建物と機械は会社、株式は父個人という仮例なら、相続で行き先を決める中心は、父の土地と株式です。建物と機械は、会社が引き続き持ちます。
そこで「父の土地→長女」「父の自社株→長女」「次の代表者→長女を希望」と、三つの欄に分けてみてください。最後の欄は財産の分け方とは別に、会社で決める事項です。いつもの「工場を継ぐ」という一言を、遺言に書く財産と会社で行う手続へ置き換えると、相談の内容が具体的になります。
自社株は、会社の意思決定にも関わる財産
自社株は相続財産であると同時に、株主総会で意思決定に参加するための権利でもあります。そのため、「株式の価値を誰が受け取るか」だけでなく、「会社の決議に誰が参加するか」まで考える必要があります。
説明のための仮例です。父が全株式を持ち、子の1人が後継者として会社で働いているとします。それだけでは、父の死亡と同時にその子が全株式を取得することは決まりません。遺言の有無や内容、相続人の範囲などを確認して、株式の承継を整理します。
複数の相続人が株式を共同相続した場合には、議決権を行使する人を決める手続も関わります。具体的な仕組みは「株主が亡くなったら、その株式の議決権は誰が使う?」で説明しています。株主名簿は、いま誰が何株を保有しているかを確認する入口になる資料です。
会社の借入れと、社長個人の負担も分ける
会社が借りたお金は、社長が亡くなったという理由だけで家族個人の借金に変わりません。ただし、社長が個人で保証している場合は、その保証による義務の承継を確認する必要があります。個別の借入れの保証か、一定範囲の取引を保証する契約かによっても扱いが異なるため、借入残高だけでなく保証契約の内容を確認します。
反対に、社長が自分のお金を会社へ入れていて、会社から見ると「役員借入金」になっている場合もあります。その実態が貸付けであれば、社長側には会社に返してもらう権利があります。会社の決算書に載る負債と、社長個人の相続財産がつながる部分です。
株式の承継と、社長交代の準備を並べて進める
取締役と会社の関係には委任の規定が適用され、死亡によって終了します(会社法330条、民法653条1号)。家族が株式を取得しても、亡くなった方の取締役・代表取締役の地位をそのまま相続することはありません。
取締役の選任は原則として株主総会で行い、代表取締役の決め方は会社の機関構成と定款に従います。役員の死亡や新たな就任は変更登記に関わるため、遺産分割が終わるまで会社の手続も待てるとは限りません。登記事項に変更が生じた場合の申請期限は原則として2週間以内です(会社法329条1項・915条1項)。
準備の第一歩は、最新の登記事項証明書、定款、株主名簿、決算書、個人と会社の間の契約書をそろえることです。そこから、遺言で決めておきたい財産の承継先と、会社側で準備する役員体制を考えます。自社株の評価や税務は、顧問税理士の先生に確認してください。そのうえで、後継者に株式をまとめるなら、ほかの家族に残せる預金や不動産があるかも見ながら遺言の文案を考えます。
気になるテーマから、詳しく確認する
相続の準備では、家族関係と財産を整理し、会社を動かすための手続も並べて考えます。ご自身の状況に近いテーマから読み進めてみてください。
| 確認したいこと | 詳しく読む |
|---|---|
| 誰が相続人になるか | 相続人と後継者の違い |
| 自社株をどう分けるか | 法定相続分と自社株 |
| 会社に貸したお金がある | 社長貸付金の相続 |
| 会社の借入れを保証している | 経営者保証の相続 |
| 借金が心配で相続を放棄したい | 相続放棄と事業の引継ぎ |
| 個人名義の工場や事務所がある | 事業用不動産と相続登記 |
| 後継者に株式をまとめたい | 代償分割と支払資金 |
| 未成年の子がいる | 遺産分割と特別代理人 |
| 何から用意するか迷う | 生前に整理したい資料 |
| 個人事業を営んでいる | 個人事業の相続 |
| 手続の期限を知りたい | 相続と会社登記の主な期限 |
生前に自社株の行き先を決めておきたい方は、経営者の遺言ガイドから、遺言の文例や公正証書の準備もご覧いただけます。
よくある質問
司法書士からひと言
「会社は子どもに任せる」と決めたら、株式、会社に貸したお金、個人名義の土地をそれぞれ誰に渡すか、書き出してみてください。迷った箇所があれば、そこが遺言を考えるときの相談の入口になります。当事務所では、自社株を含む遺言の文案づくりと、定款の確認・役員変更登記をご相談いただけます。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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