株式を1人で100パーセント持っている会社で、後継者や第三者に株式を譲渡することになったとき、「株主は自分しかいないのだから、譲渡承認の決議はいらないのではないか」と考える経営者は少なくありません。株主が1人の会社、いわゆる一人会社の株主がその株式を譲渡する場合、会社の承認がなくても譲渡は会社に対する関係でも有効になるというのが判例の立場です(最判平成5年3月30日民集47巻4号3439頁)。ただし、当事務所では承認の決議と議事録を残すことをおすすめしています。本ブログでは、承認がなくても有効とされる判例の考え方と、それでも議事録を作っておきたい理由について、わかりやすく説明します。
譲渡制限株式とは
譲渡制限株式とは、譲渡による株式の取得について会社の承認を要する旨を定款で定めた株式のことです(会社法107条1項1号)。中小企業の多くはこの定めを置いています。譲渡制限株式を他人(当該株式を発行している会社を除く)に譲渡しようとする株主は、譲受人がその株式を取得することを承認するかどうかを決定するよう、会社に請求することができます(会社法136条)。承認するかどうかを決める機関は、取締役会を置かない会社では株主総会、取締役会設置会社では取締役会が原則で、定款で別段の定めを置くこともできます(会社法139条1項)。
承認を得ない株式譲渡も、譲渡人と譲受人の間では有効ですが、会社に対しては効力を生じないのが原則です(最判昭和48年6月15日民集27巻6号700頁)。その結果、会社は、株主名簿に載っている株主(譲渡人)をそのまま株主として扱うことになります(最判昭和63年3月15日判時1273号124頁)。この原則が、株主が1人の会社では違う結論になります。
株主が1人の会社では、承認がなくても譲渡は有効
最高裁判所は、旧商法下の取締役会設置会社について、いわゆる一人会社の株主がその保有する株式を他に譲渡した場合、取締役会の承認がなくても、その譲渡は会社に対する関係でも有効であると判断しました(最判平成5年3月30日民集47巻4号3439頁)。
理由は、譲渡制限の制度が守っているのが「譲渡する株主以外の株主」の利益だという点にあります。一人会社には、その譲渡する株主以外の株主が存在しないため、承認によって保護すべき相手がそもそもいません。この判例の事案は、一人株主が保有する株式のすべてではなく一部を譲渡したものでした。株式の全部を手放す場合に限った話ではない、ということです。旧商法時代の判例ですが、会社法のもとでも同じように扱われています。
株主が複数いる会社で、株主全員が譲渡に同意している場合も、同じ理屈で有効と考える解説が多く見られます。ただ、一人会社の判例だけで、複数の株主がいる会社も承認決議を省略できるとは言い切れません。当事務所では、全員の同意がある場合も、定款上の承認機関で決議を行い、承認した内容と日付を議事録に残すことを勧めています。
それでも当事務所が承認の議事録を作る理由
法律上は承認がなくても有効という結論になりますが、当事務所では、一人会社の場合も定款上の承認機関で承認の決議をとり、その内容を記録に残すことを勧めています。
承認議事録があれば、誰への何株の譲渡を、どの機関がいつ承認したのかが、会社の中の記録として残ります。名義書換(株主名簿の書き換え。会社法133条・130条1項)の根拠にもなります。譲渡を受ける側は、承認議事録を譲渡契約書や株主名簿と照らし合わせて、譲渡の相手方や株式数、承認の日を確認できます。第三者への譲渡やM&Aでは、買収前の調査(デューデリジェンス)で株式取得の経緯を確認するために、承認議事録の提示を求められることがあります。譲渡の日と経緯を金融機関や税務署に説明する場面でも役立ちます。
定款上の承認機関が株主総会であれば、総会を実際に開かなくても決議ができます。取締役または株主が承認の議案を提案し、その議案について議決権を行使できる株主全員が書面または電磁的記録で同意すれば、決議があったものとみなされます(会社法319条1項)。株主が1人なら、その株主が同意書に署名するだけです。この方法でも、同意を示す書面と、決議があったものとみなされた事項を記載した議事録は残します。
株式を譲渡する株主本人が、この承認の議決権を行使してよいかという点も、実務でよく聞かれます。株主総会では、特別の利害関係を持つ株主であっても議決権を行使することができます。その株主が議決権を行使したことによって著しく不当な決議がされた場合に、決議取消しの訴えの対象になるにとどまります(会社法831条1項3号)。したがって、譲渡人本人が議決権を行使しても決議自体は成立します。一方、取締役会設置会社で譲渡人が取締役を兼ねている場合は事情が異なります。取締役会の決議について特別の利害関係を持つ取締役は議決に加わることができないため(会社法369条2項)、譲渡人である取締役を除いた構成で決議が成立するかを、あらかじめ整理しておく必要があります。
なお、承認請求を受けた会社が、請求の日から2週間以内(定款で短くしている場合はその期間内)に承認するかどうかの決定を通知しなければ、原則として承認したものとみなされます。会社と承認を請求した人との間に別段の合意があれば、その合意によります(会社法145条1号・ただし書)。一人会社では承認自体が本来不要なので出番はありませんが、株主が複数いる会社で承認請求を受けたときには、この2週間が効いてきます。
株主の構成ごとに承認決議の要否と実務での扱いをまとめると、次のようになります。
| 株主の構成 | 承認決議の法律上の要否 | 実務での扱い |
|---|---|---|
| 株主が1人(一人会社) | 不要(最判平成5年3月30日民集47巻4号3439頁) | 議事録の作成を推奨 |
| 株主が複数で全員が同意 | 同じ理屈で有効と考える解説が多い | 承認機関で決議し、議事録を作成 |
| 株主が複数で一部が不同意 | 原則として必要(会社法136条・139条1項) | 定款上の承認機関で決議(みなし承認が成立する場合を除く) |
登記との関係
株式の譲渡そのものは、会社法911条3項が定める登記事項に含まれていないため、登記を申請する手続はありません(詳しくは別記事「株式を譲渡したら登記は必要?」をご覧ください)。承認の議事録も、役員変更登記の通常の添付書面ではありません。ただし、役員変更登記では選任決議の適法性が審査されますので、添付する株主総会議事録と株主リストに食い違いがないかは確認します。
気をつけたいのは、株式の譲渡と同時に社長の交代など役員変更を行う場合です。一人株主が後継者に全株式を譲渡し、後継者が株主として新しい取締役を選任する場面を考えてみます。承認を条件に先に譲渡契約を結ぶこともあるため、契約の日と譲渡の効力が生じた日を区別したうえで、承認、譲渡の効力発生、名義書換、新しい株主による選任決議、という前後関係を確認します。代表取締役を誰がどう選ぶかは機関設計によって異なり、取締役会設置会社では取締役会が選定します。
譲受人が会社に対して株主であることを主張するには、原則として名義書換が必要です(会社法130条1項)。選任決議を行った株主総会の株主リスト(商業登記規則61条3項)は、その決議について議決権を行使できた株主をもとに作成します。議決権の基準日が設けられていないかもあわせて確認します。譲渡、名義書換、総会の日付は、登記の準備で最初に確認するところです。
必要になる書類
株式の譲渡そのものは法務局への届出を伴わないため、必要書類は会社の中で完結するものが中心です。会社の状況によって、このほかに書類が必要になることもあります。
- 株式譲渡契約書(譲渡人・譲受人・株式数・対価を明記したもの)
- 承認を記録した書類(定款上の承認機関に応じた株主総会議事録・取締役会議事録など。総会を開かずに決議した場合は、提案書と同意書もあわせて保存)
- 名義書換後の株主名簿(会社で保存する。譲受人に名簿の記載内容を示す必要があれば、株主名簿記載事項証明書も用意する)
役員交代を伴って変更登記が必要になる場合は、これらに加えて株主総会議事録・株主リスト(商業登記規則61条3項)・就任承諾書などの添付書類が必要になります。
よくある質問
司法書士からひと言
「株主は自分1人なので、譲渡の承認はいらないですよね」というご相談を受けることがあります。判例上はそのとおりですが、当事務所では承認の決議と議事録の作成をおすすめしています。社長交代も一緒に予定しているなら、新しい取締役を選ぶのは株式の譲渡前なのか譲渡後なのかを、あわせて確認します。それによって、選任決議で議決権を行使する株主が変わるからです。譲渡契約書、株主名簿、選任の議事録を並べて、株主が交代した時点と決議の日付がつながっているかを一緒に確認していきます。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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