先代から引き継いだ有限会社で株主総会を開くとき、株式会社用の議事録のひな形をそのまま使ってよいのでしょうか。招集の手続はほとんど株式会社と同じですが、特別決議は総株主の半数以上の賛成に加えて、その賛成者が持つ議決権が総株主の議決権の4分の3以上でなければ成立しません。株式会社のように「出席した株主」だけを基準にするわけではなく、賛成の数え方そのものが違います。本ブログでは、この違いと実務で気をつけたい点を説明します。
特例有限会社とは
特例有限会社とは、2006年の会社法施行にともない、それまでの有限会社が株式会社として存続しつつ、商号中に「有限会社」の文字を使い続けている会社のことです(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律〈以下「整備法」といいます〉2条1項・3条1項)。商号は「有限会社」のままですが、法律上はすでに株式会社です。そのため株主総会にも基本的に会社法が適用されますが、整備法がいくつかの点に特則を置いており、総会の運営にも影響します。商号変更の手続はこちらで説明しており、ここでは総会運営の違いと、あわせて確かめておきたい役員の登記の違いを取り上げます。
招集通知は株式会社の非公開会社と同じ1週間前
特例有限会社が発行する株式は、その全部について譲渡制限があるものとみなされ、この定めは定款を変更しても廃止・変更できません(整備法9条1項・2項)。つまり特例有限会社は必ず非公開会社として扱われるということです。招集通知の期限も非公開会社のルールがそのまま適用され、原則として株主総会の日の1週間前までに発しなければなりません(会社法299条1項)。ただし、総会に出席しない株主が書面や電磁的方法で議決権を行使できると定めた場合は、2週間前までに発する必要があります。招集通知をメールで送るだけなら、この電磁的方法による議決権行使には当たりません。
特例有限会社は取締役会を置くことができないので(整備法17条1項)、書面や電磁的方法による議決権行使を定めていなければ、定款でこの1週間をさらに短くすることもできます(会社法299条1項かっこ書き)。定款の招集通知の条項を、まず確認しておきます。
招集通知の方法も、書面や電磁的方法による議決権行使を定めていない会社であれば口頭や電話で足りますが、誰に・いつ・どのような内容を伝えたかが分かる記録は残しておきます。送った通知の控えや送付日の分かるメールを保存しておけば、あとから確かめられます。
特別決議の要件が株式会社より重い
もっとも実務で見落とされやすいのが、特別決議の要件です。株式会社の特別決議は、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成で成立します(会社法309条2項)。ところが特例有限会社では、この要件が整備法によって書き換えられており、総株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合はその割合以上)であって、総株主の議決権の4分の3以上の賛成が必要です(整備法14条3項)。
| 会社の種類 | 定足数の考え方 | 賛成の要件 |
|---|---|---|
| 株式会社(会社法309条2項) | 議決権の過半数を有する株主の出席 | 出席した株主の議決権の3分の2以上 |
| 特例有限会社(整備法14条3項) | 独立した出席の定めなし。総株主を基準に判定 | 総株主の半数以上であって、総株主の議決権の4分の3以上 |
表は、定款に別段の定めがない場合の比較です。株式会社の特別決議は「出席した株主」の議決権を基準に数えますが、特例有限会社は出席の有無にかかわらず、賛成した人数と議決権数の両方を「総株主」を基準に数える点が最大の違いです。
たとえば株主が3人で、議決権をそれぞれ80個・10個・10個持っているとします。80個を持つ株主1人だけが賛成しても、この決議は成立しません。議決権でみれば80個は全体の80%で4分の3を超えていますが、賛成した人数が1人では、総株主3人の半数以上にあたる2人以上に届かないためです。逆に10個ずつしか持たない2人が賛成しても、合わせて20個では議決権が4分の3の75個に届かず、やはり成立しません。80個の株主と10個の株主の2人が賛成すれば、人数は2人、議決権は90個となり、ようやく両方の要件を満たします。
相続で株式が分散したまま総会を開いていない会社や、疎遠な親族株主が株式を持ったままの会社は、この二重の基準につまずくことがあります。決議にかける前に、賛成予定の株主が何人で、その議決権を合計すると総株主の議決権の何%になるのかを、株主名簿で確認しておきます。株式会社用の議事録のひな形に「出席株主の議決権の3分の2以上の賛成」とあれば、その部分も特例有限会社の要件に合わせて書き直します。
決算公告の義務がない
貸借対照表の公告義務を定めた会社法440条の規定は、特例有限会社には適用されません(整備法28条)。定時株主総会で計算書類を承認する決議自体は必要ですし、本店での計算書類等の備置きも必要です(会社法442条1項)。公告までは求められない、というのが株式会社との違いです。
役員に任期がない分、役員変更登記を忘れやすい
取締役の任期を定めた会社法332条と、監査役の任期を定めた同336条は、特例有限会社には適用されません(整備法18条)。任期を定めていない特例有限会社では、同じ役員が在任し続けているだけなら、定期的な重任登記は不要です。一方、役員が交代したときには変更登記が必要になります。任期の有無と、交代したときの登記義務は分けて考えます。
代表者の死亡や辞任、後継者への交代があったのに、役員変更登記の申請だけを何年も放置しているケースは珍しくありません。辞任や死亡による退任には、株主総会の決議は必要ありません。役員変更登記の期限は、原則として変更の効力が生じた日から2週間以内です(会社法915条1項)。後任を選ぶ総会の日とは別に、退任の効力がいつ生じたのかを確認してから登記を準備します。
取締役の住所は登記され、代表取締役の住所は登記されない
役員欄のどこに住所が付くかも、株式会社とは逆です。株式会社では、取締役は氏名だけ、代表取締役は氏名と住所が登記されます(会社法911条3項13号・14号)。特例有限会社では、取締役は氏名と住所が登記され、代表取締役は氏名だけで住所は登記されません(整備法43条1項)。代表者の住所が登記簿に出ないわけではなく、代表者も取締役の一人として、取締役の欄に氏名と住所が載ります。監査役を置いている場合は、監査役も氏名と住所が登記されます。
この違いが実務で効いてくるのは、役員が引っ越したときです。株式会社なら、代表権のない取締役が転居しても登記は要りません。特例有限会社では取締役全員の住所が登記簿に載っているので、代表者でない取締役が転居した場合でも、住所変更の登記が必要です。株式会社の感覚で「社長は引っ越していないから大丈夫」と考えていると、ほかの取締役の転居を見落とします。
取締役が1人になったら、代表取締役の登記を抹消する
特例有限会社で代表取締役の氏名が登記されるのは、会社を代表しない取締役がいる場合に限られます(整備法43条1項)。取締役が1人だけなら、その人が当然に会社を代表するので(会社法349条1項本文)、登記簿に「代表取締役」の記載は出てきません。
気をつけたいのは、取締役2人のうち1人だけを代表取締役にしていた会社で、もう1人の取締役が亡くなったり辞任したりして、取締役が1人だけになった場合です。代表しない取締役がいなくなるので、取締役の退任の登記とあわせて、残った取締役についての代表取締役の氏名の登記を抹消します。抹消といっても、残った人が代表者でなくなるわけではありません。取締役が1人なら取締役の欄だけで代表者が分かるので、代表取締役としての記載が要らなくなる、ということです。
こちらが、登記申請書のサンプルになります。

登記の事由を「取締役変更及び代表取締役の氏名の登記の抹消」とし、登記すべき事項の代表取締役の欄に「取締役が1名となったため抹消」と記載します。
退任の登記と抹消は1件の申請にまとめられ、資本金1億円以下の会社であれば登録免許税は1万円です(登録免許税法別表第一第24号(1)カ)。
なお辞任の場合、定款で定めた取締役の員数を欠くことになると、辞任した人は後任が就任するまで取締役としての権利義務を持ち続けるため(会社法346条1項)、すぐには退任の登記ができません。定款に「取締役2名以上」のような定めがないかも確かめておきます。
一方、代表取締役だった人が亡くなって取締役が1人だけ残った場合も、残った取締役が会社を代表することになりますが、その人を新たに代表取締役として登記することはしません。退任の登記だけを申請し、登記簿は取締役1人の記載になります。取締役が再び2人以上になり、そのうち一部の人だけを代表取締役に定めたときに、改めて代表取締役の氏名を登記します。
合併の存続会社や株式交換の完全親会社にはなれない
特例有限会社は、吸収合併の存続会社や吸収分割の承継会社になることができず(整備法37条)、株式交換・株式移転・株式交付の手続も利用できません(整備法38条)。グループ内の組織再編を株主総会にかける前に、特例有限会社を存続会社側に据える計画自体が成り立たない、という制限を織り込んでおく必要があります。
よくある質問
司法書士からひと言
「うちは何年も役員が変わっていないから、登記も特に問題ないですよね」と聞かれることがあります。役員の顔ぶれが同じでも、特例有限会社は取締役全員の住所が登記されているので、転居したときの住所変更の登記が抜けていることがあります。総会の準備で登記簿を取り寄せたときは、役員欄の氏名だけでなく住所も、いまの実際と見比べてみてください。ずれがあれば、転居や辞任・死亡がいつだったのかを確かめるところから始めます。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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