定款の認証から設立登記の申請まで、オンラインで進められるようになりました。設立登記をマイナンバーカードの電子署名で申請する完全オンライン申請の場合、会社の実印の届出と、印鑑証明書を取るための印鑑カードはどうなるのでしょうか? 印鑑届は目盛り付きの専用様式に会社実印を押してスキャンしたPDFに、設立時代表取締役がマイナンバーカードで電子署名をすれば、登記申請と一緒にオンラインで提出でき、個人の印鑑証明書も要りません。ただし、印鑑カードの交付申請だけはオンラインでできず、会社実印を押した紙を法務局に出す工程が最後に残ります。本ブログでは、完全オンラインで設立した会社の印鑑届と印鑑カードの流れについて、わかりやすく説明します。
完全オンラインでの設立登記とは
完全オンラインでの設立登記とは、設立登記の申請書と、定款・就任承諾書・払込みを証する書面などの添付書類をすべてPDFにし、電子署名を付けて登記・供託オンライン申請システムから申請する方法です(商業登記規則101条1項1号)。法務省の申請用総合ソフトを使うほか、マイナポータルの法人設立ワンストップサービスからも申請できます。電子署名には、設立時代表取締役のマイナンバーカードに入っている公的個人認証サービスの電子証明書が使えます。
書面で申請するときは、設立時代表取締役の就任承諾書に個人の印鑑証明書を添え(取締役会を置かない会社では設立時取締役全員)、それ以外の設立時取締役の就任承諾書には運転免許証の写しなどの本人確認証明書を添えます。オンライン申請で本人が電子署名をした就任承諾書には、これらの添付が要りません。定款も公証役場で電子定款として認証を受けておけば、設立の手続きは最初から最後まで電子データでそろいます。
設立のときに印鑑届は出さなくていいのか
かつては、株式会社が登記を申請するときは会社の印鑑を法務局に届け出ることが義務でしたが(旧商業登記法20条)、2021年(令和3年)2月15日の改正でこの条文が削除され、オンラインで申請する会社は届け出るかどうかを選べるようになりました。とはいえ、届出をしなければ法務局で会社の印鑑証明書を取ることができません。銀行口座の開設や許認可の申請など、設立直後の会社ほど印鑑証明書を求められる場面が多いので、実務ではほぼすべての会社が設立と同時に印鑑を届け出ています。
このときの届出は、オンラインでする登記の申請と同時に行う場合に限って、オンラインで提出できます(商業登記規則101条1項2号)。申請用総合ソフトや法人設立ワンストップサービスの画面で「印鑑届出の有無」を「有」にし、印鑑届書のPDFをほかの添付書類と一緒に添付する流れです。届出だけを後からオンラインで出すことはできず、登記の完了後に届け出る場合は紙の印鑑届書を法務局に提出することになります。
印鑑届書のPDFはどう作るのか
オンラインで届け出る印鑑届書は、法務省が公開しているオンライン専用の様式を使います。ふつうの印鑑届書と違い、用紙のふちと押印欄のまわりに1cmごとの目盛りが入っています。法務局に届け出る印鑑は、辺の長さが1cmを超え3cm以内の正方形に収まる大きさでなければならず、スキャンしたデータからでも印影の実寸を確かめられるように、この目盛りが付いています。作り方は次のとおりです。
- 専用様式をA4用紙に「実際のサイズ」または100%で印刷します。拡大や縮小をすると目盛りが狂うため、印刷したものをコピー機で複写して使うことも避けます。
- 押印欄に、これから会社の実印にする印鑑を鮮明に押します。電子印鑑や画像の印影は届け出られず、物体の印章で押したものに限られます。
- 押印した用紙を、拡大も縮小もせずに原寸大のまま、600dpi程度の解像度でスキャンしてPDFにします。解像度が低く印影が不鮮明だと登記官が判断した場合は、原本の提出を求められることがあります。
- できあがったPDFに、印鑑提出者である設立時代表取締役本人がマイナンバーカードで電子署名をし、設立登記の申請データに添付して送信します。司法書士が代理人として申請する場合でも、この電子署名は代理人ではなく本人が行います。
法務省が公開しているオンライン専用様式(2026年9月時点のもの)は、こちらからダウンロードできます。様式の改定や詳しい注意事項は、法務省の案内ページで最新のものをご確認ください。
紙の印鑑届書であれば、代表者個人の実印を押したうえで市区町村長が作成した印鑑証明書を添付しますが、オンライン専用の様式には個人の実印を押す欄がそもそもありません。本人がマイナンバーカードで電子署名をすることが、個人の実印と印鑑証明書の役割を果たすからです。就任承諾書に添える印鑑証明書も電子署名に置き換わるので、設立時代表取締役が一人で会社を作る場合であれば、個人の印鑑証明書を1通も取らずに設立の手続きを終えられます。
印鑑カードの交付申請だけは紙になる
ここまではすべて電子データで済みますが、印鑑カードだけは事情が違います。印鑑カードとは、法務局の窓口や証明書発行請求機で会社の印鑑証明書を取るときに提示するカードで、印鑑を届け出た人の申請にもとづいて交付されます(商業登記規則9条の4)。この交付申請は、オンラインでできる手続きとして定められた中に含まれていません(商業登記規則101条1項)。そのため、印鑑カード交付申請書に届け出た会社実印を押した紙を、法務局の窓口に持参するか郵送して提出することになります。
代表者が交代する場面であれば、前任者の印鑑カードをそのまま引き継ぐ申出をオンラインの印鑑届書の中でできるのですが、設立したばかりの会社には前任者がいないので、必ず新規の交付申請になります。会社実印をまったく押さずに、完全オンラインだけで印鑑カードの交付まで受けることは、現状ではできないと考えておいてください。
印鑑カードは設立登記が完了してから交付されるので、交付申請書は登記の完了後に郵送するか窓口に持参するのが基本の流れです。登記の申請後すぐに郵送しておく取扱いに応じてもらえる法務局もあるので、急ぐ場合は管轄の法務局に確認してみてください。郵送であれば返信用封筒で手元に届きます。交付申請に手数料はかかりません。
設立登記が完了したら
印鑑カードが届く前に印鑑証明書は取れるのか
登記が完了しても、印鑑カードの交付を受けるまでは、会社の印鑑証明書を取ることはできません。印鑑証明書はオンラインでも交付請求できますが、請求のときに印鑑カード番号を入力する必要があるためです。カードの交付を受けたあとであれば、印鑑を届け出た代表者本人がマイナンバーカードで電子署名をして請求でき、郵送で受け取るなら印鑑カードを法務局に送る必要はなく、手数料は1通450円です。窓口で受け取る場合は1通420円ですが、受取りのときに印鑑カードの提示が必要です。印鑑証明書を使う予定が決まっているときは、登記が完了したらすぐに印鑑カードの交付申請書を出せるよう準備しておきます。登記事項証明書は電子署名なしでオンライン請求できます。設立直後の会社が印鑑まわりで行う手続きを整理すると、次のようになります。
| 手続き | オンラインでできるか | 会社実印の押印 | 個人の印鑑証明書 |
|---|---|---|---|
| 設立登記の申請 | できる(商業登記規則101条1項1号) | 不要 | 不要(電子署名で代替) |
| 印鑑の届出 | 登記申請と同時に限りできる(同項2号) | 専用様式に押印してスキャン | 不要(本人の電子署名で代替) |
| 印鑑カードの交付申請 | できない | 交付申請書に押印して窓口か郵送 | 不要 |
| 印鑑証明書の取得 | オンライン請求できる(印鑑カード番号と本人の電子署名が必要) | 不要 | 不要 |
必要になる書類
完全オンラインで設立する会社が、印鑑まわりで準備するものは次のとおりです。
- 印鑑届書(オンライン専用様式に会社実印を押印し、原寸大でスキャンしたPDF。設立時代表取締役の電子署名を付ける)
- 印鑑カード交付申請書(届け出た会社実印を押印した紙。窓口に持参するか郵送)
- 返信用封筒(郵送で印鑑カードを受け取る場合)
- 設立時代表取締役のマイナンバーカード(署名用電子証明書が有効で、暗証番号がわかるもの)
会社の実印は設立登記の申請前に作っておく必要があります。オンラインで進めていると印鑑の準備が後回しになりがちですが、印鑑届書のPDFは実印を押してからでないと作れません。設立の手続きは、法人設立ワンストップサービスを使えば会社が自分で進めることもできます。電子署名の付け方や印鑑届書の作り方までまとめて任せたい場合は司法書士に依頼すると、代表者がご自身で行うのはマイナンバーカードでの電子署名と、交付申請書への押印だけになります。
よくある質問
司法書士からひと言
完全オンラインで設立の手続きを進めてきた方ほど、最後に印鑑カード交付申請書だけ会社実印を押して郵送する、と聞いて驚かれます。設立の書類をすべて電子データでそろえたあとに紙が一枚残る、というのがいまの制度の姿です。当事務所で設立のお手伝いをするときは、法人実印を含めた設立する会社のハンコセットの発注代行を承っているため、お客様にご了解をいただいた上で、登記申請時にその法人実印で印鑑届書のPDFを作り申請とともに送信、印鑑カード交付申請書への押印も申請の段階で済ませておいて、登記が完了したらすぐ法務局へ出せる段取りにしています。印鑑証明書を取れるのは印鑑カードの交付を受けてからなので、いつ必要になるかを先にうかがっておくと、設立直後の手続きもあわてずに済みます。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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