「社長が亡くなったあと、会社の手続と相続の手続は、どちらから進めればよいのでしょうか」。経営者の相続では、会社の登記、相続をするかの判断、税務、不動産の名義変更が、それぞれ別の期限で進みます。相続の話合いが終わるまで会社の手続を待てるとは限りません。
相続手続の期限とは
相続に関する期限とは、一つの手続をすべて終えるための共通の締切ではありません。それぞれの法律が、手続の種類と開始時点を定めています。
たとえば、会社の取締役が亡くなった場合の変更登記と、その人が持っていた不動産の相続登記では、期限も起算点も違います。税の申告が不要な場合でも、会社や不動産の登記が不要になるわけではありません。
まず「会社が行う手続」と「相続人が行う手続」を分け、そのうえで日付を並べておくと確認しやすくなります。
主な期限と、数え始める日
| 手続 | 基本となる期限 | 起算点・注意事項 |
|---|---|---|
| 株式会社の役員変更登記 | 原則2週間以内 | それぞれの変更の日から。死亡退任と後任就任で日が違う場合がある |
| 相続放棄などの判断 | 原則3か月以内 | 自分のために相続の開始があったことを知った時から |
| 準確定申告・納税(必要な場合) | 4か月以内 | 相続の開始があったことを知った日の翌日から |
| 相続税の申告・納税(必要な場合) | 10か月以内 | 自分のために相続の開始があったことを知った日の翌日から。通常は死亡を知った日が基準 |
| 不動産の相続登記 | 原則3年以内 | 自分のための相続開始と、その不動産を取得したことを知った日から |
会社や不動産の登記と、税の申告では、期限を確かめる窓口も違います。表は全体を見渡すために使い、実際の締切日はそれぞれの相談先で確かめてください。税の申告の要否や期限は、税理士にご確認ください。
同じ死亡日から、一律にすべての期限を数えるわけではありません。 自分が相続人になったことや、不動産を取得したことを知った時期が異なる場合は、その事情も相談先へ伝えます。税理士に相談するときも、亡くなった日と、そのことを知った日を伝えてください。
会社の役員変更は遺産分割と並行して確認する
亡くなった社長が取締役や代表取締役であれば、その変更登記を検討します。後任の就任が後日になる場合も、死亡による退任と後任就任の効力発生日は別です。後任が決まるまで、退任の登記期限が自動的に延びるわけではありません。
また、自社株を誰が相続するかと、誰が取締役になるかは別の問題です。株式が未分割で、株主総会の議決権を誰が使うか整理が必要な場合は、定款・株主名簿と相続関係を一緒に確認します。
この段階では、会社に残っている取締役や代表者、銀行への届出、当面の契約や支払いに必要な権限も確認します。「相続税の申告は10か月先だから、会社のこともまだ間に合う」と判断しないことが大切です。
書類を作った日が、登記の出発点ではありません
説明用の仮例です。取締役が9月1日に亡くなり、後任が必要な選任と承諾を経て9月10日に就任し、登記の書類を9月12日にそろえたとします。この場合、死亡による退任は9月1日、後任の就任は9月10日の出来事です。書類がそろった9月12日に、両方の期限を数え直すわけではありません。
相談時には、亡くなった日、後任を選んだ日、後任が就任を承諾した日を分けて伝えてください。議事録に書いた日付だけを見ず、実際にいつ効力が生じたかを確かめます。後任がまだ決まっていない場合も、そのことを伝えれば、残る役員の体制とあわせて、会社として先に進める必要がある手続を検討できます。
3か月で財産や保証の調査が終わらないとき
経営者の相続では、個人の預金や不動産だけでなく、自社株、会社への貸付金、個人の借入れや保証なども調べます。帳簿だけでは契約の内容まで分からず、確認に時間がかかる場合があります。
相続を承認するか放棄するか判断する資料がそろわないときは、家庭裁判所へ期間の伸長を申し立てる方法があります。調査中というだけでは期限は延びません。申述や申立ての進め方は裁判所の相続放棄の案内を確認し、期間内に対応します。
相続放棄を検討している間は、株式や不動産を売るなど、相続財産の処分を進める前に、その行為が判断へ及ぼす影響も確認してください。
税務の期限は税理士に日付を共有する
亡くなった方について確定申告が必要な場合の準確定申告は、相続税とは別の手続です。4か月と10か月を混同しないようにします。概要は国税庁の準確定申告と相続税の申告と納税で確認できます。
申告の要否や財産の評価は、顧問税理士の先生に確認します。自社株の評価資料を集める時間も必要になるため、遺産分割の結論が出てから初めて相談するより、死亡日と相続関係、分かっている財産を先に伝えるほうが進めやすくなります。
不動産登記の3年にも、別の確認がある
社長個人名義の事務所や工場を相続した場合は、不動産の相続登記を確認します。会社名義の不動産を、社長が亡くなったという理由だけで相続登記するわけではありません。
相続登記には、相続と不動産の取得を知ってから3年以内という基本的な義務に加え、遺産分割が成立した日から3年以内に、その結果に沿った登記をする義務があります。相続人申告登記で基本的な義務に対応しても、遺産分割後の登記まで済んだことにはなりません。
2024年4月1日より前に相続して取得を知っていた不動産で、まだ相続登記をしていないものは、原則として2027年3月31日までの対応が必要です。古い相続が残っている場合も、法務省の相続登記義務化の案内に沿って確認します。
よくある質問
司法書士からひと言
何から手を付けるか迷っている場合は、亡くなった日と、会社に残っている役員をまずお知らせください。当事務所では会社と不動産の登記について、急ぐ手続から確認します。税の申告は税理士へ、相続放棄を検討している場合は、その手続を扱う司法書士・弁護士へも早めに連絡し、それぞれの日程を進めてください。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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