「親が一人で店を営んでいました。家族がそのまま営業を続けてもよいのでしょうか」。個人事業では、事業に使う財産や借入れも原則として本人に帰属しており、相続の対象になります。株式会社のように、会社を存続させたまま株主や代表者を替える場合とは、確認する手続が違います。
個人事業の相続とは
個人事業は、個人が事業を営む形態です。屋号があっても、それだけで本人と別の法人になるわけではありません。本人が所有する店の設備・商品・売掛金や、本人名義の借入れなどは、その人の財産や債務として確認します。
民法896条は、相続人が原則として亡くなった人の財産上の権利義務を引き継ぐと定めています。ただし、その人だけに結びつく権利義務は例外です。事業の引継ぎでは、財産が相続されることと、後継者が同じ条件で営業できることを分けて整理します。
たとえば店の設備を相続できても、営業に必要な許可や資格の扱いが未確認なら、「設備があるので明日からそのまま営業できる」とは判断できません。
株式会社との違いを確認する
株式会社では、会社と株主は別の法的な主体です(会社法3条)。会社所有の店舗や会社が契約した借入れは、社長が亡くなっただけで相続人の財産や債務になるわけではありません。社長個人が持っていた株式や、会社に対する貸付金・個人保証などを調べます。
これに対し、個人事業には、財産の持ち主としての「会社」がありません。屋号のある口座や仕事専用の設備であっても、誰が持ち主なのかを本人の財産として確認します。
| 確認事項 | 個人事業 | 株式会社 |
|---|---|---|
| 事業用財産の持ち主 | 原則として事業主本人 | 会社所有と社長個人所有を区別 |
| 経営者死亡時の中心課題 | 事業用財産・契約等の承継 | 株式の承継と役員交代 |
| 登記の検討 | 本人所有不動産の相続登記など | 役員変更登記と個人財産の相続登記など |
商号の登記など、個人事業でも登記に関係する場合はありますが、株式会社の代表取締役変更と同じ手続をするわけではありません。
店舗・設備・契約を分けて調べる
最初に、事業に使っているものを「本人所有」「借りているもの」に分けます。店舗が本人所有なら相続財産として扱います。賃貸店舗なら賃貸借契約を、リース設備ならリース契約を確認します。
賃借人の地位など、一般に相続の対象となる契約上の地位もあります。ただし、相続人が誰か、契約に届出の定めがないか、保証人がどうなっているかなどは、貸主や契約先への確認が必要です。相続で引き継ぐ場合と、後継者が新しく作る会社へ契約を移す場合でも、扱いが変わります。
未回収の売掛金と未払いの買掛金について、取引先・金額・期限を一覧にし、誰が代金を受け取り、誰が支払うのかも確認します。口座の相続手続も金融機関に確認します。誰が財産を管理しているのか分からないまま、特定の家族が売却や引出しを進めると、ほかの相続人との調整や相続放棄の判断に影響することがあります。
貸主へ伝えるときは、屋号より「誰が営むか」を
貸店舗を引き継ぐ相談なら、「店の名前は変えません」だけでなく、これから誰が事業を営む予定なのかを伝えます。家族が個人として続ける場合と、新しく設立する会社で続ける場合では、契約について尋ねたい内容が違うためです。
父個人が借りていた店舗について、相続後の手続を確認したいです。私が個人事業として続ける案と、新しく設立する会社で営業する案を検討しています。それぞれの場合に必要な連絡・手続を教えてください。
これは貸主への問い合わせ文例です。会社設立の予定を伝えることと、契約がその会社へ移ることは別です。回答をもとに契約と許認可の予定を合わせてから、設立登記の日程を考えます。
許認可と届出は営業の継続前に確認する
飲食店や建設業など、営業に許認可が必要な事業では、死亡に伴う届出、承継の承認、新規申請などが必要になることがあります。どの手続になるかは業種と根拠法令によって違います。
許可証に亡くなった事業主の名前が書かれているからといって、名義を家族の名前に書き換えれば済むとは限りません。業種ごとの所管窓口や行政書士などに、いつまでに何をする必要があるかを早めに確認します。
従業員がいる場合は、雇用や社会保険についても確認が必要です。給与や雇用の状況を社会保険労務士に伝え、事業主が亡くなった後に必要な対応を相談してください。
税務の確認と、これからの事業形態
亡くなった方について所得税の確定申告が必要な場合、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に、準確定申告と納税を行います。申告が必要か、いつまでに提出するかは、死亡日を伝えて税理士に確認してください。概要は国税庁の準確定申告の案内で確認できます。
事業を引き継ぐ人自身の青色申告、消費税、各種届出にも確認事項があります。故人が青色申告をしていたから自分も何もしなくてよい、とは考えず、死亡日と事業を引き継ぐ日を顧問税理士の先生に伝えて確認します。
引継ぎ後も個人事業で続けるか、法人を設立するかは、その後の事業規模や経営の体制を踏まえて検討します。法人を作っても、既存の財産・契約・許認可が自動で移るわけではありません。中小企業庁の事業承継支援も、財産の承継と事業運営を考える際の相談先になります。
よくある質問
司法書士からひと言
店を引き継ぐときは、建物の名義、借りている設備、営業の許可を一つずつ確かめる必要があります。当事務所では、店舗などの相続登記や、法人化する場合の設立登記をご相談いただけます。営業を続けたい時期が決まっていれば、その予定もあわせてお聞かせください。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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