一般社団法人の代表理事が任期の途中で退くことになったとき、何をどの順番で進めればよいのでしょうか? 代表理事の交代は、退任と新しい代表理事の就任をあわせて2週間以内に登記する必要があり、選定の方法は理事会の有無で変わります。法人の印鑑を法務局に届け出ている法人では、登記と同時に新代表理事名義の印鑑届と印鑑カードの引継ぎも進めます。本ブログでは、一般社団法人の代表理事の交代について、わかりやすく説明します。
一般社団法人の代表理事とは
代表理事とは、一般社団法人を代表し、法人の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を持つ理事です(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律〔以下「一般法人法」〕77条4項)。理事会を置かない法人では、定款、定款の定めに基づく理事の互選、または社員総会の決議によって理事の中から代表理事を定めることができ(同77条3項)、理事会を置く法人では理事会が理事の中から代表理事を選定します(同90条3項)。医療法人その他の法人の場合には、理事は登記されず、代表理事のみを「理事長」として登記することもありますが、一般社団法人の場合には、代表理事(理事長ではない)と理事がそれぞれ登記事項となります。
理事会を置かない法人では、代表理事を別途定めていなければ、原則として各理事が法人を代表します(一般法人法77条1項・2項)。代表理事を定めている法人では、その人は「理事としての地位」と「代表理事としての地位」の2つを持っているので、交代の場面ではどちらが変わるのかを分けて考えることが出発点になります。
交代の準備は、次の順番で進めます。
- 定款と登記事項証明書で、理事会の有無と代表理事の選定方法を確認する
- 前任者が理事も辞めるのかを確認し、後任の選定・就任の日程を組む
- 必要な決議と就任承諾を行い、議事録・辞任届・印鑑証明書をそろえる
- 変更登記を申請し、必要な印鑑届と、希望する場合の印鑑カードの引継ぎを同時に行う
「定款の定めに基づく理事の互選」にあたっては、定款の文言によりその選定義務が異なります。
①「理事の互選により代表理事を定めることができる」とされている場合
代表理事を定めるか否かは理事の任意に委ねられていると解することができる。よって、このような規定の下で代表理事が選定されなかった場合には、理事が各自、代表理事となると考えられる。
②「理事の互選により代表理事を定める」とされている場合
代表理事の選定は義務となると解される。よって、このような規定の下で代表理事が選定されなかった場合には、一般法人法77条1項本文の適用はないものとして、代表理事が欠けた場合として扱われる。
交代のパターンを整理する
代表理事の交代には、代表理事が理事も辞めて法人を離れる場合、代表理事だけを退いて理事としては残る場合、法人側が代表理事を解職または理事を解任する場合の、大きく3つのパターンがあります。
| パターン | 変わる地位 | 登記する内容 |
|---|---|---|
| 理事も辞任する | 理事と代表理事の両方 | 理事の退任、代表理事の退任、新代表理事の就任 |
| 代表理事だけ退く(理事は続ける) | 代表理事のみ | 代表理事の退任、新代表理事の就任 |
| 法人が解職・解任する | 解職なら代表理事のみ、解任なら両方 | 解職・解任による退任と、新代表理事の就任 |
理事会を置く法人では、理事会が代表理事を解職できます(一般法人法90条2項3号)。理事会を置かない法人では、社員総会の決議で定めた代表理事は社員総会で、互選で定めた代表理事は理事の過半数の一致で、定款で直接定めた代表理事は定款変更で、それぞれ定めた方法に対応する手続きをとります。理事そのものの解任はいつでも社員総会の普通決議で行えますが(同70条1項)、正当な理由がない解任では解任された人から損害賠償を請求されることがあります(同70条2項)。解任自体に正当な理由が必要なわけではありません。
なお、ここでいう「正当な理由」には、例えば「職務執行上の法令・定款違反行為」「心身の故障」「職務への著しい不適任」等があげられます。
また、ここでいう「損害」とは、解任されなければ、その残存任期中に得られたであろう利益(報酬・賞与など)と、任期満了時に得られたであろう利益(退職慰労金)の喪失による損害とされています。
辞任しても代表理事の権利義務が残る場合
任期満了や辞任によって代表理事が欠ける場合、または定款で定めた員数を欠く場合、退任した代表理事は新しい代表理事が就任するまで代表理事としての権利義務を持ち続けます(一般法人法79条1項)。理事についても同じ仕組みがあります(同75条1項)。ほかの代表理事が残り定款の員数も満たす場合や、解職・解任及び法律が定める欠格事由に該当して退任する場合には、この規定による権利義務は残りません。
このように権利義務が残る場合は、辞任届を出せば辞任の効力は生じますが、後任が就任するまで代表理事としての権利義務が続き、後任が就任してはじめて退任の登記ができます。「先に辞任の登記だけ済ませたい」という相談は少なくありませんが、後任の選定とセットで進める必要があります。退任の登記は辞任日を原因日として、後任の就任日から2週間以内にあわせて申請します。
代表理事である理事の任期満了又は辞任により代表理事の員数を欠く場合であっても、理事の員数は定数を欠いていない場合、理事の地位を確定的に失うことになります。よって、理事の地位を前提とする代表理事の資格を当然失うこととなり、代表理事の権利義務承継者となりません。
登記の期限・登録免許税・必要書類
代表理事の氏名と住所は登記事項なので(一般法人法301条2項6号)、交代が生じた日から2週間以内に主たる事務所の所在地で変更登記を申請します(同303条)。登録免許税は、公益認定を受けていない一般社団法人なら申請1件につき1万円で、退任と就任を同じ申請で行っても加算されません(登録免許税法別表第一24号(1)カ)。登記を怠ると、理事などが100万円以下の過料の対象になります(一般法人法342条1号)。
登記官は、過料に処せられるべき者があることを知ったときは、遅滞なくその事件を管轄する地方裁判所に通知しなければなりません(一般社団法人等登記規則3条、商業登記規則118条を準用)。
主な書類は次のとおりです。選定の方法と、新代表理事が新たに理事になるのかどうかで変わります。
- 辞任届(前の代表理事が辞任する場合。登記所に印鑑を提出している代表理事の辞任届には、法人の届出印を押すか、個人の実印を押してその印鑑証明書を添付します)
- 理事会議事録、互選書、または社員総会議事録(代表理事の選定を証する書面。選定方法に応じて)
- 社員総会議事録(新代表理事を新たに理事として選任する場合)
- 就任承諾書(新代表理事の分。新たに理事になる場合はその分も)
- 印鑑証明書(理事会を置く法人は新代表理事の就任承諾書分。置かない法人は新たに理事になる人の就任承諾書分。選定を証する書面に出席者が個人の実印を押した場合はその分)
- 本人確認証明書(新たに理事になる人で、印鑑証明書を添付しない場合)
- 委任状(司法書士に依頼する場合)
選定を証する書面に添付する印鑑証明書は、選定方法によって対象者が変わります。原則として、社員総会議事録では議長と出席理事、理事会議事録では出席理事と出席監事、互選書では互選をした理事が、それぞれ個人の実印を押して印鑑証明書を添付します。ただし、変更前の代表理事が理事として出席し、法務局に届け出ている法人の印鑑を議事録などに押している場合は、この印鑑証明書は不要です。
前の代表理事が理事を辞任し、理事としての権利義務も残らない場合は、その後の理事会に理事として出席してこの省略の扱いを使うことはできません。辞任後も権利義務が残る場合は、辞任日だけで判断せず、理事会当日の地位を確認します。この扱いは商業登記規則の規定が一般社団法人の登記にも準用されるもので、書面が整わないと補正になりやすい部分です。
印鑑届と印鑑カードの引継ぎ
法人の印鑑を法務局に届け出ている法人では、印鑑は「誰が届け出たか」とセットで管理されています。代表理事が交代すると、前の代表理事が届け出た印鑑では新しい代表理事名義の印鑑証明書を取得できないので、新代表理事が改めて印鑑届をします。印鑑届書には新代表理事個人の実印を押し、作成後3か月以内の個人の印鑑証明書を添付します(登記申請書に添付したものを援用できます)。法人の印鑑そのものは同じものを使い続けてかまいません。
印鑑カードは、新代表理事の印鑑届と同時に申し出れば、前の代表理事のカードを引き継いで使うことができます(商業登記規則9条の4第3項)。同時の申出が条件なので、印鑑届書の引継ぎ欄に前任者の印鑑カードの番号と氏名を記載して提出します。引き継がない場合は、印鑑カード交付申請書で新たにカードの交付を受けます。
なお、2021年2月からオンラインで登記を申請する場合の印鑑届は任意になりましたが、銀行や取引先から法人の印鑑証明書を求められる法人では、実務上いまも届出がほぼ必須です。銀行の代表者変更や許認可の変更届は、提出先ごとに必要書類と期限を確認します。登記完了後の証明書が必要な手続きに備え、登記申請と印鑑届をまとめて進めておくと、その後の手続きも進めやすくなります。
よくある質問
司法書士からひと言
代表理事の交代では、登記そのものより、選定を証する書面の押印と印鑑証明書、印鑑届と印鑑カードの引継ぎといった周辺の段取りで手間取ることが多いものです。理事会や社員総会の日程を決める前に、誰がどの書面に実印を押すのか、法人の印鑑は誰が持っているのかを確認しておくと、一度の申請で済ませやすくなります。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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