会社の株主が亡くなったとき、その人が持っていた株式はどうなるのでしょうか? 株主としての立場は相続人などに移りますが、株式を相続しただけで取締役や代表取締役になれるわけではなく、株主名簿の手続きと役員の手続きは分けて考える必要があります。本ブログでは、主に家族経営の会社など、非上場の株式会社における株式の相続の全体像について、わかりやすく説明します。
株式の相続とは
株式の相続とは、亡くなった方が持っていた株式を、相続によって引き継ぐことです。相続人は、相続開始の時から、亡くなった方の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条)。株式もこの財産に含まれ、引き継いだ人は配当を受けたり、株主総会で議決権を行使したりする立場を引き継ぎます。
相続が起きたら、まず株主名簿で、亡くなった方がどの種類の株式を何株持っていたのかを確認します。あわせて、遺言の有無と内容、相続人の範囲、会社の定款を調べておくと、その後の手続きの見通しが立ちます。
遺産分割が終わるまで、株式は相続人の共有になる
相続人が複数いて、遺言などで取得する人が決まっていない株式は、遺産分割が終わるまで共同相続人の共有になります(民法898条1項)。300株を持つ方が亡くなり、相続人が子3人の場合でも、当然に100株ずつに分かれるわけではありません。法定相続分と株式の分け方の関係は、自社株は法定相続分どおりに分ける必要がある?で詳しく説明しています。
共有の株式について権利を行使するには、原則として共有者の中から権利を行使する人を1人定め、その氏名を会社に通知する必要があります(会社法106条)。遺産分割が長引いても、定時株主総会や役員の選任は待ってくれません。権利行使者の決め方や、会社が同意した場合の扱いは、株主が亡くなったら、その株式の議決権は誰が使う?にまとめています。
譲渡制限株式でも、相続に会社の承認はいらない
中小企業の多くは、株式の譲渡に会社の承認を必要とする「譲渡制限」を定款で定めています。この制限の対象は「譲渡による取得」なので、相続で株式を取得することに会社の承認は不要です(会社法107条1項1号)。ただし、遺言で自社株を指定して「遺贈する」場合(特定遺贈)は、相手が相続人でも会社の承認が必要になるのが原則です。財産全体や割合で渡す包括遺贈は、相続と同じく原則として承認はいりません。この違いは「相続させる」と「遺贈する」で何が違う? 譲渡制限株式と会社の承認で説明しています。
もうひとつ確認したいのが、定款の「相続人等に対する売渡請求」の定めです。会社は、相続などで譲渡制限株式を取得した人に対し、その株式を会社へ売り渡すよう請求できる旨を定款で定めることができます(会社法174条)。定めがあっても株式が自動的に会社へ移るわけではなく、会社は株主総会の特別決議で対象の株式数と相手を決め、相続があったことを知った日から1年以内に請求します(会社法175条1項、176条1項、309条2項3号)。この決議では、請求を受ける相続人は原則として議決権を行使できません(会社法175条2項)。
売買価格は会社と相続人の協議で決めます。請求の日から20日以内に裁判所へ価格決定の申立てができ、その期間内に協議も申立てもなければ、売渡請求は効力を失います(会社法177条)。
株主名簿の名義書換えを会社に請求する
株式を取得した人が決まったら、会社に株主名簿の名義書換えを請求します(会社法133条1項)。譲渡制限株式でも、相続による取得者は承認なしで請求でき(会社法134条4号)、相続を証する書面を出せば、ほかの相続人と共同せずに請求できます(会社法施行規則22条1項4号)。
会社に出す書類は、遺言があるか、遺産分割協議をしたかによって変わります。まず会社へ確認し、誰がどのように株式を取得したかを説明できる資料をそろえます。
- 株主名簿の名義書換請求書
- 戸籍謄本等、相続関係を証する書類
- 遺言書や遺産分割協議書など、株式を取得する人を確認できる書類
- 印鑑証明書など、会社が本人確認や書類の真正の確認のために求める資料
- 株券(株券を発行している会社の場合)
どのケースでも同じ書類を出すという一覧ではありません。会社が保管している株主名簿と照らし合わせ、株式の種類・数・取得者に食い違いがないようにします。
役員の地位は相続されない。登記が必要なのは役員の側
株式を相続して株主が変わっただけなら、法務局への登記は必要ありません。株主の氏名は会社の登記事項ではなく、会社が管理する株主名簿に記載する情報だからです(会社法121条)。株主の交代が登記簿に表れない理由は、株式を譲渡したら登記は必要? 株主が変わっても登記簿が変わらない理由でも説明しています。
| 変わる内容 | 主に行う手続き |
|---|---|
| 相続によって株主が変わる | 相続関係の確認、株主名簿の名義書換え |
| 取締役が亡くなる | 死亡による退任の登記、必要に応じた後任の選任 |
| 代表取締役が亡くなる | 退任の登記、新しい代表取締役の選定等と就任の登記 |
一方、亡くなった方が取締役や代表取締役だった場合は、死亡による退任の登記が必要です。社長の全株式を相続した人も、自動的に次の社長になるわけではなく、後任は会社の機関設計と定款に従って選びます。登記の期限は変更が生じた日から2週間以内が原則なので(会社法915条1項)、遺産分割が終わるまで役員の手続きを待つ、という進め方はできません。
よくある質問
司法書士からひと言
経営者の相続では、家族の間で財産をどう分けるかと、会社を誰が動かすかを、並行して考える必要があります。株主名簿と定款、役員の登記内容を並べてみると、相続の手続きと会社の手続きがどこでつながるかが見えてきます。後継者が決まっている場合も、株式と役員の両方から準備しておくことをおすすめします。
司法書士 石本憲史(大阪司法書士会所属 登録番号 大阪第4973号)
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